「は!? なんで?」えちごトキめき鉄道の独特なダイヤ 急行は「急いで行かない」の意味だった!?

乗ってきました! 昭和の鉄道ファンに胸アツすぎる注目の列車、えちごトキめき鉄道の「急行列車」。前回は国鉄時代を感じまくってしまう「ここもかよ!」と驚く再現性のこだわりっぷりをじっくり解説しました。最終回の今回は、「は!? なぜだ?」と思ってしまう独特なダイヤにも実は深~い意味があることを解説します。

●独特なダイヤ、えちごトキめき鉄道の「急行」には2つの意味がある

えちごトキめき鉄道の観光急行はダイヤもユニークです。

観光急行1号・2号・3号は、各駅停車より所要時間が長くなっています。直江津~糸魚川間、各駅停車は42分。しかし1号は54分、2号は49分、3号は48分と長くかかります。この3本は「急行」と言っても「急いで行かない」列車なのです。海が見える区間で徐行するほか、1号と3号は能生(のう)駅で時刻表に表記されない停車をします。

これは「運転停車」といいます。本来は単線区間で反対方向の列車と行き違ったり、特急に追い越されたり、運転士が交代したり、という鉄道運行の都合で停まります。乗客の扱いをしないので時刻表には掲載されません。

観光急行は、この運転停車を能生駅で「再現」します。しかし、複線なので行き違いのためではなく、別の列車に追い越されるわけでもなく、運転士交代でもありません。ただ能生駅に「運転停車するためだけ」に停まるのです。

その昔、国鉄時代の能生駅で「能生騒動」という事件がありました。

まだ北陸本線が単線だったころ、能生駅で特急列車同士が行き違うために運転停車(乗客は乗り降りできない)が設定されました。これが国鉄の手違いで旅客扱いと誤って伝わってしまいました。地元は「我が町の駅に特急が停まるぞ!」と大喜び。「ミス能生コンテスト」を実施し、選ばれた女性が運転士に花束贈呈、駅では踊りを披露して歓迎しました。

ところが列車のドアは開かずにそのまま発車していきました。「え……?」。地元の皆さんガッカリで大問題となりました。

観光急行はこの能生騒動のエピソードにひっかけて能生に停まります。ただしえちごトキめき鉄道はガッカリさせません。プラットホームで地元有志の方がお菓子やお弁当を販売するなど、乗客との交流イベントが行われるそうです。

観光急行「4号」は本物の「急いで行く」列車です。糸魚川~直江津間を28分で走ります。各駅停車より14分も早く、かつて走っていた特急並みの速度。413系のモーターがギュイーンとフル回転します。そのスピードとモーター音を楽しむ列車です。

このダイヤには急いで走る裏の事情もあって、臨時のイベント列車として、もう一度糸魚川を往復できるように早く戻っているそうです。

●マニアックなお楽しみ「デッドセクション手動切替」と新名所も愛でよう

「観光急行」はもう1つ貴重な体験もできます。「デッドセクション手動切替」です。

デッドセクションとは、架線に電気が流れていない区間のことです。主に交流電化区間と直流電化区間の境目にあります。日本海ひすいラインには、梶屋敷駅とえちご押上ひすい海岸駅の間にあります。この区間を直通する電車は両方の電源に対応する必要があります。走行中に電源を切って惰性で走り、次の区間の電流を受け入れるように機械を切り替えます。

デッドセクションの通過中は電力が供給されないため、かつては車内の照明や空調装置などもオフになり、バッテリーによって非常灯が点くだけでした。現在はほとんどの電車が電源切替を自動化しており、また大容量バッテリーも搭載しているので照明は消えません。有名なところでは常磐線の取手~藤城間、つくばエクスプレスの守谷~みらい平間などがあります。注意深く観察すると車内案内装置や空調が変化しますが、ほとんどの乗客は気付きません。

「観光急行」は古い電車なので、運転士さんが手動で電源を切り替えます。車内の照明も「しっかり」消えます。恐らく全国でここだけです。

ちなみに、えちごトキめき鉄道日本海ひすいラインの普通列車はディーゼルカーです。ディーゼルカーならば電源方式の違いとは関係なく走行可能です。高価な交直両用電車を新造する必要もありません。そしてこの節約策で思わぬ効果を得ました。「えちご押上ひすい海岸駅」の設置です。

以前から糸魚川高校の最寄り駅として設置要望がありましたが、デッドセクションに近いため電車を停められませんでした。しかしディーゼルカーならばデッドセクションとは関係ありません。そこで2021年3月13日に待望の新駅、えちご押上ひすい海岸駅が誕生しました。

直江津駅には2021年4月に「D51レールパーク」もできました。園内には蒸気機関車「デゴイチ」ことD51形があり、圧縮空気システムで直江津駅構内を走行します。車掌車を2両連結して走行可能。主に土日祝日の営業で、「観光急行」と合わせて楽しめます。D51の車庫では413系電車の先頭車も保存されており、車内で鉄道グッズを販売します。

糸魚川駅の「ジオステーション ジオパル」もオススメです。大糸線で活躍したディーゼルカー「キハ52形」、国産最後の蒸気機関車「くろひめ号」、かつて大阪と札幌を結んだ寝台特急「トワイライトエクスプレス」の「展望A個室スイート」と「食堂車」の一部を再現した車両があります。鉄道模型ジオラマは2つ。7×6メートルの大型Nゲージと、10×2.5メートルのHOゲージはどちらも大迫力です。

●えちごトキめき鉄道を楽しもう オススメは「鉄印帳集め」コース

今回取材した日程をご紹介します。

2021年6月28日に上越新幹線で越後湯沢へ、そこから上越線、ほくほく線を乗り継いで十日町駅に到着。鉄印帳を購入して1枚目の鉄印をいただきます。この日はほくほく線の旅を進めて、直江津駅に到着。直江津駅前のホテルに泊まりました。直江津駅でも鉄印帳をいただきます。

鉄印帳は、寺や神社でいただく“御朱印”の鉄道版です。全国40社の第三セクター鉄道が参加しています。専用の鉄印帳と鉄道会社の乗車券を提示すると、各社の専用ページに記帳、または印刷済みの鉄印をもらえます。2020年7月から始まりまして、当初は鉄印帳が売り切れ続出。ワタシもようやく参加できました。えちごトキめき鉄道はSL鉄印という記念鉄印もあります。鉄印帳は1社1ページ枠しかないので、「フリー版鉄印帳」も購入しました。

翌日は本編で紹介した「観光急行」に乗って、直江津と糸魚川を往復するコース。直江津に戻った後で、もう一度糸魚川へ行き、鉄印をいただいた後、「ジオステーション ジオパル」を見物。となりに糸魚川の特産「ヒスイ」などを展示販売するお店があって、新潟名物の草団子やかんずりを買いました。帰路はローカル線の旅。大糸線で松本へ出て、大好物の「山賊焼弁当」を買って、特急「あずさ」で帰りました。

鉄道の旅に限らず、旅は同じ経路を往復するよりも、ぐるっと回る経路がオススメ。引き返せばそこから「帰り」ですけど、回遊すれば「ずっと行き」ですからね(笑)。

(杉山淳一/乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。日本鉄道全路線の完乗率は100%)

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