「半分青い」ヤクルトを、どう売ったのか 認知度が低くても、営業マンがスーパーを口説き落とせた理由

乳酸菌飲料商品「ヤクルト」でおなじみの大手食品メーカー、ヤクルト本社(以下、ヤクルト)。ヤクルトレディの宅配サービスで知られるが、近年は顧客接点を開拓すべく、スーパーやコンビニなどの店頭販売事業にも力を入れている。そのためにヤクルトの営業担当者がスーパーやコンビニの本部、店舗を訪れて、ヤクルト製品の売り場構成を提案している。

課題の一つは、ヤクルト“以外”をどう売るか、だった。ヤクルトの吉川純也氏(直販営業部チェーンストア課)は次のように話す。

「おなじみの『ヤクルト』は消費者の8~9割に広く認知されているのですが、それ以外の『Newヤクルトカロリーハーフ』『ヤクルトファイブ』『ジョア』といった商品はヤクルトほど認知度は高くありません。

そこで、認知度が高くパッケージの赤色が映えるヤクルトの隣にそれらを置くだけでお客さまの目にとまりやすくなり、売り上げも増えることが経験則から分かっていました。当社の商品をまとめて配置する『ヤクルトコーナー化』を小売店に提案しています」

自社製品をまとめて配置すれば売り上げが増えることは、これまで多くの店舗の現場で、実践を積み重ねて定性的に把握していた。しかし客観的に説明できる材料が乏しく、小売店に説得力のある提案をなかなかできなかったという。

ヤクルトコーナー化の有効性を、より説得力をもって提案するにはどうすればいいか。吉川氏らは、データを使った定量的な分析を行うことにした。

データ分析で、何が分かったのか
まずはアイトラッキングの仕組みを用いて、売り場を訪れた消費者の目線の動きを計測。その結果、消費者の多くが真っ先に目線を向けるといわれる棚の最下段に、自社商品をまとめて置くことで、ヤクルト以外の製品の視認性が高まることが判明した。

この他にも同社はもともと、ID-POSのデータを集計・分析したり、買い物かごにICチップを取り付けて顧客の導線分析を行ったりと、データを活用した商品企画や売場提案に積極的に取り組んできた。しかし、吉川氏によれば既存のやり方だけでは、同社のデータ分析ニーズを十分に満たせなかったという。

「POSデータでは『何が買われたか』は分かるのですが、『何が買われなかったのか』は分かりません。競合分析という意味では、お客さまが当社のどの製品と他社のどの製品を比較して買っていただいたのか、あるいは買っていただけなかったのかを知りたいのです」

そこで、AIによる画像分析を取り入れた。コニカミノルタが開発・提供する「Go Insight」と呼ばれる、顧客行動分析ソリューションだった。店舗の天井に設置したカメラで店内の顧客を撮影し、その映像をAIで分析。顧客の属性や行動に関する知見を抽出するものだ。

もともとヤクルトと取引のあった大手スーパーチェーンの店舗がこのGo Insightを導入していたため、その店舗に協力を依頼。新たに乳酸菌飲料売場にもカメラを向け、実験的にデータを収集することにした。

こうして、乳酸菌飲料売場に立ち寄った顧客が「どれだけの時間、売り場に滞在したか」「どの商品を手に取ったか」「他にどの商品を手に取って比較したか」「どれだけの時間、商品を手に取っていたか」「商品を買い物かごに入れたか、それとも棚に戻したか」などの客観的なデータを得られるようになった。

データを分析した結果、ヤクルト商品を集めて配置するヤクルトコーナーを設ける前と後とでは、売り場を訪れる顧客の行動に明らかな違いが見られたという。

「ヤクルトとそれ以外の商品を離して置いたときより、隣り合わせで置いたときの方が明らかにヤクルト以外の商品を手に取ってもらえる頻度が上がりましたし、他の商品と比較検討してもらえる回数も増えました。それまで私たちが定性的に把握していた『自社製品をまとめて置いた方が売れる』という仮説が、データによって裏付けられたわけです」(吉川氏)

売り上げ16%増 データが明らかにした、乳酸菌飲料の優位性
これまでは「ヤクルト商品をまとめて配置しましょう」と小売店の担当者に提案しても、「自社製品を売らんとするセールストークなのだろう」と相手に勘繰られてしまう可能性もあった。客観的なデータを示すことで、営業担当者も自信満々にヤクルトコーナー化を提案できるようになったという。

さらに、ヤクルトコーナーを設置するとヤクルトの商品だけでなく、他社の乳酸菌飲料も含めたカテゴリー全体の売り上げがアップすることが分かった。

「かつて同じ店舗で、ヤクルトの隣にプライベートブランド商品を置いたところ、その売り上げが伸びたことがありました。そうした経験から、ヤクルト商品をまとめて配置すればよりお客さまの目を引きやすくなり、それに釣られて周辺に置いた商品の売り上げもアップするだろうという仮説を立てていました。データによって、確かにその通りの結果が得られました」

実証実験を行った店舗では、ヤクルトコーナーを設置した結果、他社商品も含めた乳酸菌飲料全体の売り上げが16%アップした。また、吉川氏によれば、乳酸菌飲料のカテゴリーそのものの優位性も明らかになったという。

「お客さまが店舗を訪れる前に、あらかじめ『これを買おう』と決めて購買することを『計画購買』といいます。卵や牛乳などは計画購買の代表的な商品である一方、お菓子などは手に取って買われる確率が半分ほどしかなく、計画購買される傾向は低いといえます。ヤクルトを含む乳酸菌飲料は、手に取って買われる率が7~8割と、計画購買される傾向が高いことが分かりました」

店舗側からすると、計画購買される傾向が強い商品の品ぞろえを充実させたり、その売り場を客の目につきやすい場所に設けたり──と、改善につながる。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、スーパーで買い物をする際、滞在時間をなるべく短くすることが推奨されている。そうした中、計画購買の確率が高い乳酸菌飲料は、顧客がすぐ手に取って買う可能性が高いので、滞在時間の短縮化という意味でも歓迎すべき商品だといえる。

「このように客観的なデータを基に、ヤクルトの商品だけでなく他社商品の売り上げも含め、メリットを小売店に示せるようになりました。ヤクルトコーナーの設置により多く協力してもらえるようになり、他の店舗から『うちでも試してみたい』と声を掛けていただくこともありました」(吉川氏)

他の分析結果とも“掛け算” よりインサイトを深める
現在もヤクルトはGo Insightを活用し、さまざまな切り口の実験を続けている。

当初は「アイランド型」と呼ばれる陳列棚にターゲットを絞って検証を行ったが、他のタイプの棚でも同様の検証を行い、棚のタイプ別に傾向を分析している。棚だけでなく、平台に商品を陳列した場合でも検証した。

今後は、発売したばかりの商品の売れ行き分析にも、活用していく考えだ。「想定したターゲット層が手に取ってくれているか?」「どの商品と比較検討されているのか?」といった切り口で売り場での顧客行動を分析すれば、その後の商品企画やマーケティング活動に役立つという。

さらに将来は、Go Insightによる分析結果を他のデータ分析手法の結果と突き合わせ、顧客の購買行動に関するより深い知見を導き出したい、と吉川氏は抱負を語る。

「例えばID-POSのデータと掛け合わせることで、お客さま一人一人の分析結果が得られます。また、データや映像からは『なぜ買おうと思ったのか?』『買った結果どう感じたのか?』というお客さまのマインドまでは読み取れませんから、消費者調査の結果なども合わせて分析できれば、よりインサイトを深められるのではと考えています」

こうしたデータを活用した店頭販売ビジネスの強化は、同社が掲げる長期ビジョン「Yakult Group Gloval Vision 2030」と中期経営計画(21~24年)でも、重要な位置付けになっている。中期経営計画の中では、24年度の国内乳製品売り上げ総量を20年度比で「8.6%アップ」を目指すとしている。この目標を達成するためには「店頭販売事業の成長とそのためのデータ活用の取り組みが大きな鍵を握る」と吉川氏は話す。

「現在、乳製品の宅配販売とそれ以外の販売チャネルの比率は半々ほどです。宅配になじみのない若年層のお客さまに今後ヤクルト商品のファンになっていただくには、やはり店頭での顧客接点を強化していく必要があります。

そうやってお店で購入してファンになったお客さまが、その後宅配でも購入するようになれば、宅配と店頭の相乗効果が生まれます。そのためにもまずはデータ活用などさまざまな取り組みを通じて、店頭での顧客接点を充実させていきたいと考えています」

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