社説[小山田氏辞任]五輪精神を踏みにじる

「いかなる差別も許されない」と定めた五輪憲章、「多様性と調和」を掲げた東京五輪・パラリンピックのビジョンを揺るがす事態だ。
開会式で楽曲制作を担当するミュージシャンの小山田圭吾氏が、引責辞任した。過去に雑誌のインタビューで、障がい者らを積極的にいじめた経験を告白し、批判を浴びていた。
被害者を全裸にし、プロレス技をかけた。知的障がいが疑われる生徒を段ボール箱に閉じ込め、皆で笑いながら反応を観察した-。いじめと呼ぶにはあまりに悪質で、人間の尊厳を踏みにじる行為だ。
大会組織委員会が、小山田氏の起用を発表した直後から五輪への関与を疑問視する声がネット上で相次いだ。小山田氏は謝罪文をツイッターに掲載。組織委は「不適切な発言」とした一方、「現在は高い倫理観をもって創作活動に献身するクリエーター」とかばい、続投させる意向を示した。
世論とはかけ離れた組織委の対応は、国内外から一層反発を招いた。
知的障がい者の家族らでつくる団体が声明を発表している。小山田氏の言動を、筆舌に尽くしがたい苛烈な行為と非難し「いじめというよりは虐待、暴行と呼ぶべき所業」と断じた。より問題視しているのは、成人して著名なミュージシャンになった後に、インタビューで障がい者を差別的に揶揄(やゆ)し、武勇伝のように語ったことである。
発言は1994年と95年のもので、以降ネットで何度も炎上するほど強い批判があったが、小山田氏は、自ら説明や謝罪をしてこなかった。

辞任は当然である。
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組織委の対応にも大きな問題がある。
なぜ小山田氏がふさわしいと判断したのか。問題発覚後もなぜ続投させたのか。
世界中の人々が多様性と調和の重要性を改めて認識し、共生社会をはぐくむ契機となる大会とする-。東京大会のビジョンが損なわれたのは、今回が初めてではない。
2月に組織委会長の森喜朗元首相が、女性蔑視発言で辞任。3月には、開閉会式の演出を統括する佐々木宏氏が、出演予定だったタレントの容姿を侮辱するような提案をしたことが発覚し、辞任した。
この間、組織委は人選を巡る理由や経緯などについて、説明責任を果たしていない。
大会ビジョンとは程遠い日本の後進性を逆に内外に発信し続けているのは、残念というほかない。
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五輪開会式まで2日に迫った。今回の組織委の人選と混乱によって、機運が一層低下することは避けられない。
コロナ禍で、感染拡大の不安が高まる中、原則無観客で実施される大会で、より一層、重要なのは何のために開催するのか、というビジョンの共有である。
日々、練習に励む選手たちのためにも、組織委は、人種や性別、障がいの有無などあらゆる面での違いを肯定し、互いに認め合う社会の実現という東京五輪のビジョンを改めて胸に刻む必要がある。

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