コマツ小川啓之社長に聞く海外戦略 スマートコンストラクションを武器にさらなる市場を開拓

コマツの売り上げの約9割は海外。建設機械車両の世界の生産拠点は81カ所、販売拠点数は58カ所にわたる日本を代表するグローバル企業だ。

同社の海外進出の歴史は古く、自動車メーカーが本格的な自動車輸出をする前の1955年にアルゼンチンに建設機械の一種であるモーターグレーダーを輸出するなど、早い段階から世界を視野に入れた生産・営業体制を構築してきた。小川啓之社長インタビューの前編「コマツ小川啓之社長に聞くDX戦略 世界の現場を自動化し、遠隔操作」では経営の基本線である「DX戦略」の行方を聞いた。後編では、同社の海外戦略について聞く。

売り上げの中国比率は約7%
――コマツは中国関連銘柄といわれていて、マーケットでは中国との関係がよく指摘されますが、全体に占める中国市場の比重はどれくらいですか。

コマツは中国関連銘柄とよく指摘されますが、売り上げ全体に占める中国の比率は約7%でしかなく、中国銘柄といわれるのは事実とは異なっています。2010年のリーマンショック後に中国政府が4兆元のインフラ投資を行ったころは、外資メーカーのシェアが約7割を占めて、コマツも売り上げを伸ばすことができました。その後10年経過して現在は国内メーカーが約7割、外資メーカーが約3割となり比率が逆転しています。

15年に国内の製造業の高度化を目指した「中国製造2025」が発表されました。そのころから、中国メーカーの比率が急速に高まりました。しかし中国マーケットの現在の外資メーカー比率である3割という市場規模は大きく、北米、欧州市場にほぼ匹敵する需要があり軽視はできません。

中国市場でどうやってプレゼンスを上げていくかは課題です。コマツの戦略としては、この2年ほどは利益の大きい20トン以上の中大型油圧ショベルにリソースを集中する戦略を採っています。小型建機は負荷が軽い使われ方をするため、コンポーネントの耐久性や燃費などコマツの強みで差別化が図りにくく、収益性も良くないためです。

また、他社と差別化を図るため、延長保証プロジェクトとして機械の品質保証期間を延長しています。通常の品質保証期間は1年ですが、エンジンなどキーコンポーネントの品質保証期間を5年、1万時間に伸ばすなどしています。これができるのはキーコンポーネントを自社で開発し生産しているコマツの強みがあるからです。

延長保証プロジェクトはコマツが注力しているアフターマーケットのバリューチェーンビジネスにもつながります。中国で部品販売の売り上げの90%以上は20トン以上の中大型機械です。中国ビジネスでは建機の台数を追わずに、利益を追いたいと思っています。このほか、中国において車体の工場を集約することや、3月には中国に2つあった鋳造工場の1つを閉鎖しました。中国市場ではこうした構造改革とバリューチェーン全体での事業拡大を図っていきたいと考えています。

石炭の生産量 5年後の見通しは?
――世界の気候変動から二酸化炭素を多く排出する石炭への風当たりが強まっています。これにより石炭産出が減少すれば、コマツの営業戦略にもマイナスになる恐れがあるのではないですか。

コマツ全体の年間売り上げ約2兆5000億円に占める石炭顧客へ向けた割合は約11%で、燃料炭が約7%、原料炭が約4%の割合です。新興国では燃料炭は重要なエネルギー源で、資源エネルギー国にとって石炭は依然として重要なビジネスです。従って脱炭素の動きはあるものの、この5年間というスパンではグローバルでみれば、生産量が半分にまで大きく落ち込むことはないと見込んでいます。ただ、ほかの資源にシフトしていくだろうとは考えています。

――米国の動きをどう見ていますか?

例えば、北米では石炭生産量の85~90%を自国で消費しており、輸出はしていません。バイデン政権がエネルギー転換を求めるグリーン政策を取ったことで、北米の石炭ビジネスは衰退していくだろうと思います。コマツは17年に鉱山機械会社であるKMC(コマツマイニング)を買収しました。この会社は地下掘り事業の約75%が石炭で、そのうち約40%が北米なので、すでに石炭の減産の影響が出てきています。このため、石炭向け地下掘り事業の一部を売却するなど構造改革を進めています。

これとは対照的に、今後は電気自動車(EV)の普及に伴い、ハードロックと呼ばれる石炭以外の鉱物向けの事業に注力していこうとしています。銅はEV用のハーネスやケーブルに使われ、ニッケルはリチウムイオン電池に使われるため、今後需要増が見込まれるためです。KMCは石炭からこうした分野に転換していく必要があり、その際にコマツの強みであるコンポーネントを活用することでKMCの建機の品質向上や商品力向上、原価低減を図ることができます。

――他の地域はいかがですか?

豪州はコロナ禍の影響がなかったので20年度も好調に推移し、中国とオセアニアだけは増収となりました。資源国は、鉄、銅、石炭全ての事業が好調で、中でも銅は過去最高の価格で、21年度は鉱山向けの需要は伸びると思います。このため、仮に石炭の生産が減少しても、代わりにほかの資源の需要が増えるので、鉱山需要の先行きは期待できると確信しています。

一方で、循環型ビジネスとして林業ビジネスにも力を入れたいと考えています。単純に伐採する機械だけでなく、土地をならす機械や苗を植えるプランターの機械にも取り組んでいます。そうすることで森林の再生を早めることができます。

循環型ビジネスを行うことで、二酸化炭素の吸収にも寄与できるので、社会貢献につながるビジネスとして有望です。欧州には「コマツフォレスト」という会社があり、年間1000億円のビジネスを展開していますが、北米ではまだ弱い。これを強化するなどして、23年度には約1400億円のビジネスにまで引き上げたいと考え力を入れています。

永遠のライバル「キャタピラー社」への勝算は?
――「DXスマートコンストラクション」を推進するために、他社と組んだ新しい会社の設立を発表しました。その狙いは何ですか。

海外展開を進めるため4月に「EARTHBRAIN(アースブレーン)」という会社をNTTドコモ、ソニーセミコンダクターソリューションズ、野村総合研究所の3社と組んで立ち上げると発表しました。

この会社は建設現場の労務、サプライヤーとの取引をデジタル化する機器の開発や、機器からデータを吸い上げて処理するオープンプラットフォーム、プラットフォームを活用したアプリケーションの開発・提供・保守をします。この会社が開発したアプリは必ずしもコマツの建機だけに適用せずに、コマツ以外の建機であってもこのアプリが使える考え方で新会社を設立しました。

コマツはこれまではアプリケーションを単独で開発してきましたが、スピードが求められる今の時代は人的資源にも限りがあるので、3社とタッグを組んで新会社を発足させることにしたのです。ドコモが持っている5G、IoTなどの高度なネットワークやクラウド基盤や画像解析、ソニーの建設現場の情報可視化データに関するセンシング技術、野村総研のビジネスモデル変革・デジタル化の知見を生かしたソリューション開発・サービス提供機能などを活用すれば、DXスマートコンストラクションのビジネスが加速度的に進んでいくだろうと思います。

――コマツが世界の建機、鉱山機械市場でシェアを伸ばすためには、業界首位の米キャタピラー社に追い付かなければならないですね。そのための方策をどう考えていますか。

何をもってナンバーワンと言うかについては見方がいろいろありますが、キャタピラー社は当社のベンチマーク(比較指標)として学ぶべき点がある会社だと思っています。しかし、ビジネスのやり方が大きく異なります。エンジンを外販している点に加え、販売代理店は持っていません。

世界の建設、鉱山機械メーカーで、フルラインメーカーといえるのは世界でキャタピラー社とコマツの2社だけです。コマツは建設、鉱山機械のICT化では、他に先駆けてビジネスモデルを展開してきました。無人ダンプトラックはコマツが先発ですが、キャタピラー社は後発で参入しています。「スマートコンストラクション」ビジネスにもまだ参入はしてきておらず、コマツがうまくいけば入ってくると思います。キャタピラー社がコマツのことをどう思っているかは分かりませんが、コマツにとっては永遠のライバルで尊敬すべき存在です。

「脱炭素化」という逆風の中で
以上が小川社長のインタビュー内容だ。発言内容は全てが明確で、かなりの自信に裏付けられていることがうかがえた。過去に先進国の米国と新興国のインドネシアで工場長という現場の責任者をこなしてきた経験の蓄積のなせる技なのかもしれない。

「脱炭素化」という逆風によって鉱山ビジネスに陰りが出ているのかと思いきや、EV増産のおかげで石炭に代わる資源の需要増もあり、将来にも期待が持てそうだ。

デジタル化の分野では先行してきているが、さらなる進化を遂げようとしていて、建機の自動化、無人化は人手不足に苦しむ建設現場にとって朗報になる。できれば、日本の建設現場でも導入ができる小回りの利く建機にも応用できる製品を出してほしい。

(中西享、アイティメディア今野大)

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