ホテル業界復活のカギは「朝食」にあり? コロナ禍でヒルトンが進めた115項目の改善

ホテルにとって朝食はキモ。“朝食でホテルを選ぶ”人も多いだろう。是々非々をスタンスとするホテル評論家としては“良いホテル悪いホテル”という表現を控えるようにしているが(どのホテルにも良いところと悪いところがある)、人気の尺度という点で“朝食の良しあし”は注目されるポイントになっているのは事実だ。

人は最後に体験したことが強い印象として残るという“ピークエンド効果”からいえば、ホテルステイの最後である朝食が好印象だと、仮にそれまでの滞在でネガティブに感じた点があってもホテルへの印象が違ってくる。そのような体験は筆者にもある。

集客を望むホテルにとっても、ハードの改修や設備機器の投入など、莫大な費用がかかる改善ができれば言うことはないが、そう簡単にはいかない。一方で朝食は、食材の変化やアイデアで改善しやすく、顧客満足度へも反映されやすい。コロナ禍でホテル朝食も大きく変容しているが、限られた条件の中で朝食の改善へ注力し顧客満足度を上げているホテル現場を取材した。

筆者自身への自戒も込めているが、時にこうした寄稿の際につい「ホテル朝食戦争!」などといったセンセーショナルなタイトルをつけがちだ。一方で、定点観測的に約半年に渡って取材を続けたが、各ホテルが地道に改善を積み重ねていることを感じた。

朝食改革で顧客満足度がアップした「ヒルトン東京お台場」
ヒルトン東京お台場(東京都港区)は、そもそも朝食について決して印象の良いホテルではなかった。

昨秋のGoToトラベル期間中に訪問する機会があったが、ロビーに面した「シースケープ」で提供される朝食ブッフェは、外資系デラックスホテルの華やかなイメージとは異なり、サラダ・フルーツ類の豊富さを除けば“ビジネスホテルレベル”といっても過言ではなかった。デラックスホテルといえば、各種卵料理の実演なども常識的だが、そういったレベルでもない。

料理だけではない。例えば、ディスタンスと動線の方向を促すプレートが床へ置かれていたが、ツルツルと滑って勝手な方向に向いてしまっている。ブッフェボードには、だらしないテーブルタップのコードが平然と見えている。スタッフの動きも散漫としておりゲストに接する緊張感もない。

当時、すでに除菌・消毒など新型コロナウイルスの感染対策は確立しつつあり、マスクの着用も常識であった。しかし、スタッフがバラバラのマスクを着用している「絵」は、スタイリッシュな外資系ホテルにあって見苦しささえ感じた。

その後、GoToトラベルも中止となり同ホテルの稼働率は激減。ホテル側は“暇”ということになるが、改善を模索していたようで、ゲストのいない時期だからこそ、外部の意見も取り入れ朝食のブラッシュアップとサービス改革に乗り出していったようだ。

コロナ禍を逆手にとって、改善を進めるこうした動きは他のホテルでも多くみられた。同ホテルでは、問題点を洗い出したところ115項目にも及んだという。現場ではリスト化と、一つ一つの課題をつぶす日々の努力が始まった。もともと能力の高いスタッフばかりである。マネジメント層が方向さえ示せば、高いポテンシャルを発揮する。

そんな朝食改革の話を関係者から聞いたこともあり、4月に同ホテルを再訪してみた。

「コストを落とす考え」を変更し原価を”上げる”戦略に
筆者は、ホテルの朝食ブッフェを見るときに「ソーセージ」と「焼き鮭」のクオリティーに注目している。いずれも朝食ブッフェでは定番メニューにして、おいしさの比較がしやすいことがその理由だ。

鮭の切り身・ソーセージいずれも業務用食材の卸値が分かりやすく、仕入れ原価を上げるとリアルに食感が変わる。鮭でいえばふっくらジューシーに、ソーセージならば”パリッシャキッ”が際立つ。以前は“残したい”と思う同ホテルのメニューだったが、劇的に進化しており、おかわりするくらいのクオリティーに驚いた。また、卵料理は実演コーナーが賑わっており、蟹爪の乗ったオムレツも感動的。

担当者によると「これまではいかにコストを落とすかという方向で考えていたが、発想を切り替えいずれも原価を相当上げた」という。

朝食で利益を出そうというのは決して褒められたものではないと、ある人気ホテルの朝食担当者から聞いたことがある。「基本的に朝食は宿泊プランとしてブレイクダウンし売られているが、朝食で利益を出そうとしてもたかが知れている」「赤字ギリギリまで原価とクオリティーを上げると必ず評判は連動し、結果として宿泊単価も上がっていく方向になる」と話す。

食事以外では、表記やポップが分かりやすく明瞭に置かれているのが印象的だ。スタッフはアドリブも交えながらゲストを案内し、テーブル対応が丁寧で素晴らしい。以前は変な方向に向いていた足元のディスタンスプレートは固定され、テーブルタップの配線もキレイに改善されていた。こういう部分は、日々現場で仕事をしていると意外な盲点かもしれない。

朝食の改善で顧客満足度は上昇
全体として以前より会場がスッキリ感じられるのは、ゲストに見える(見せて良い)場所、見せるべきではない場所がはっきりと峻別(しゅんべつ)されているからだろう。

ホテルの運営統括部長である高橋尊治氏は「ホテルゲストコメントによると、朝食の顧客満足度は2020年10~12月の38ポイントから21年1~6月の54ポイントへと上昇していた。依然として厳しい稼働の中ではあるものの、他ホテルとの比較でも稼働率は堅調に推移している」と朝食・サービスの改善と業績について話す。

そういえば、スタッフのマスクも変わっていて驚いた。ヒルトンのロゴがあしらわれたマスクを着用している。これだけでホテル全体が引き締まって見えるのだから不思議なもの。これもまた、コロナ禍を逆手にとったブランディングといえるだろう。

瀧澤信秋 (たきざわ のぶあき/ホテル評論家 旅行作家)

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