特権階級? 「勝ち組的トンデモ発想」が生む、就活セクハラの闇

また、そう、またもや「就活」を悪用した不適切行為が明らかになりました。

近鉄グループホールディングスの人事部採用担当の男性社員が、インターンシップに参加していた女子大学生をLINEで呼び出し、和食を食べ、酒を飲ませ、揚げ句の果てにタクシーでホテルに連れて行ったといいます。

報道によれば女子学生は、「エントリーシートの添削をしてくれるというので、その誘いに乗ってしまいました」とのこと。近鉄の社内規定では、個人携帯のメールやLINEなどの使用を禁止、就活中の学生と業務外で個別に会うことも禁止しているそうです。同社は6月8日付けで男性社員を懲戒解雇処分にしました。

まったく、いったい何度、立場を利用したトンデモ行為が繰り返されるのか。

2019年2月に、ゼネコン大手の大林組に勤める27歳の男性社員が、OB訪問に来た女子大学生にわいせつ行為をした疑いで逮捕。男性社員はパソコンを見ながら面接指導をすると言って、学生を自宅マンションに誘いこみました。

同年3月には、就職活動でOB訪問に訪れた女子大学生を居酒屋で泥酔させ、女子大生の宿泊先のホテルでわいせつな行為をした疑いで住友商事元社員の24歳の男性を逮捕。被害者から住友商事側に被害の連絡があったため、男は懲戒解雇されました。

この2つの事件は、どちらも、就活中の大学生とOBやOGをつなぐマッチングアプリがきかっけでした。当時、登録している社会人のほとんどは企業側が公認しているユーザーで、一部の“非公認”のボランティアユーザーと呼ばれる社会人も含まれていたため、件のゼネコン会社の“事件”以降、ボランティアユーザーを中止したり、面談のガイドラインを作成したりと企業側は対応を強化しました。

そして、今度はLINEです。しかも、OB・OGではなく、正真正銘の「人事採用担当」による不適切行為。「エントリーシートの添削」を餌に、自分の身分を利用したのです。

こういった事件が起こるたびに、女子学生の脇の甘さが指摘されますが、それは全くのお門違いです。就職という大きな人生の節目で、学生たちはみな「ちょっとでもいい会社に入りたい」と必死です。もっとも、今の就活の在り方や、安定志向=大企業志向の高まりには思うことはたくさんあります。

しかし、いずれの事件も、悪いのは男性社員であって女子学生ではない。自分が属する企業の社会的地位を、自分の価値と混同した末の悪事であることは紛れもない事実です。

また、「“一線”を越えそうなら、きっぱりと断ればいい」と批判する人もいるかもしれませんが、それって、そんな簡単なことではない。私のような“ジャジャ馬”でさえ、若い時分、電車の中で痴漢に遭った際には怖くて声を上げることができなかった。今となってはそんなウブな時代があったなんて、自分でも信じられませんが。

だいたい“不適切行為”をした男性社員たちは、企業名を出さず、個人の名前だけで、同じような卑劣な性的行為を女子学生に強要できたでしょうか?

内定が欲しい学生たちの必死さを悪用し、「大企業の会社員」という身分を利用し、卑劣な行為に及んだ側の問題であり、犯行なのです。

そして、おそらくこれらは氷山の一角にすぎないでしょう。女子学生への不適切行為ばかりが問題になりますが、男子学生の中にも

セクハラ行為に悩む人がいることも忘れてはなりません。

「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和2年度 厚生労働省委託事業)によれば、就活またはインターンシップでセクハラを経験したと回答した人の割合は、約4人に1人、25.5%もいたのです。男女別では、女性よりも男性の方が高いという結果も出ました。

男女共に、「性的な冗談やからかい」が最も多く、男子学生では女子学生よりも「性的な事実関係に関する質問」「性的な内容の情報の流布」「性的な言動に対して拒否・抵抗したことによる不利益な取り扱い(採用差別、内定取り消しなど)」が上回っていました。

前述したような不適切行為につながりかねない、「食事やデートへの執拗な誘い」は男女ともに約3割の学生が経験したという、許し難きリアルも明らかになっています。

なのに、学生たちの多くが、「セクハラを受けた」ことを誰にも言っていないのです。

件の調査で、「セクハラを受けた後の行動」を訪ねたところ、一番多かったのが、「何もしなかった」。24.7%、実に4人に1人です。その理由は「何をしても解決にならないと思ったから」(47.6%)と答えている。「何をしても解決にならない」などと、学生に言わせてしまう就活って何なのでしょうか。

「内定」という二文字には、学生にとって大人の想像をはるかに超える“重さ”がある。何が何でも内定がほしい。少しでもいい会社に入りたい──。そんな思いから、誰にも相談できず泣き寝入りしている学生も、かなりいるのではないでしょうか。

問題はそれだけにとどまりません。

セクハラの行為者としては、「インターンシップで知り合った従業員」が32.9%と最も多く、次いで「採用面接担当者」(25.5%)、「企業説明会の担当者」(24.7%)。男女別では、「企業説明会の担当者」「学校・研究室等へ訪問した従業員、リクルーター」 などは男性の方が割合が高く、「インターンシップで知り合った従業員」「志望先企業の役員」 は女性の方が高かったとされています。

「志望先企業の役員」が女子学生にとは……、空いた口がふさがりません。

コミュニケーション下手の男性が、さしたる自覚もなくついうっかりやってしまう類のものとは大きく異なります。もちろんそれはそれで許されない行為ではありますが、会社の“顔”でもある役員が、自らの優位性を背景に弱い立場の学生に手を出すだなんて、到底許される行為ではない。

情けないやら、あきれるやら。まさか、20年6月から大企業で義務化された「パワハラ防止法」で、雇用関係がない就活生への防止措置が「努力義務」になっているから? 社員を誘ったら、即刻問題になるけど、就活生ならグレーだと軽く見た? そんな疑念すら湧いてきます。

とにもかくにも、“特権階級”=正社員、による「何をやっても許される」という「超勝ち組的トンデモ発想」の根深さが、今回の事件と調査結果から垣間見えることは歴然たる事実といえるでしょう。

以前、ある大企業に就職した学生が、研修会で「キミたちはえりすぐりのエリートだということを忘れないでほしい」と言われたと話してくれたことがあります。「会社の廊下でも、外の道路でも、真ん中を歩け!」と。話を聞いたときは失笑してしまったけど、要は「キミたちは最上級の階層に属する人間である」と言いたかったらしいのです。

会社の知名度や規模、収入や役職、社会的地位などの“外的な力”は、人の生きる力を強め、満足感を高めるリソースであり、それ自体は何ら悪いものではありません。しかし、外的な力を過信し、偏重するあまり、謙虚さや誠実さなどの内的な力が低下していくことは往々にしてあります。

特に、格差が拡大し、非正規雇用も増えた社会では「超勝ち組的トンデモ発想」を持つ大馬鹿モノは量産されがちです。

社員が「エントリーシート添削」だの「内定」という“人参”をちらつかせながら、学生に「個人的」に会うような行為を、企業は絶対に放置してはなりません。社内のルールを徹底し、そうした行為の余地がないように定期的に見直すべきです。

学生たちは「未来の自分たちの仲間」かもしれないのです。セクハラなど、言語道断です。

そして、学生たちには「学生を守れない会社に未来はない」ことを分かってほしいです。

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