「シニア=無能」なのか? 多くの企業が導入する早期退職・シニア活用施策に潜む違和感の正体

年齢とともに徐々に給与が上がっていくという年功賃金は、今も多くの職場の中に浸透し受け入れられているシステムです。年功賃金の考え方には、年齢に応じて勤続年数を重ねた分、仕事能力も向上していると見なして評価するという前提があります。

確かに、ある程度限定された範囲の技能を磨き続けて、職人を育成するようなケースであれば、年功賃金の考え方は比較的当てはまりやすいといえる面もあるかもしれません。しかし、それでも個人差はあります。ある技術を3年で習得できる人もいれば、10年かかっても習得できない人もいるのが実情です。年齢が同じだからといって、腕前も同じというわけでもありません。

年功賃金の考え方が浸透していると、「あの人はまだ若いから」とか「あの人はもう年配だから」と、何かにつけて人を年齢にひもづけて捉えようとしてしまいがちです。そんな考え方が世代の間に壁を作ってしまうこともあります。

2021年5月28日にパーソル総合研究所が発表したシニア人材の就業実態や就業意識に関する調査結果によると、シニア人材の活躍状況が若年社員の転職志向に影響を与えているようです。

調査結果のグラフでは、シニア人材の待遇について「給料をもらいすぎていると思う」と回答した人の比率が、年代が下がるほど高くなっています。世代間隔が離れるほど、壁が高くなっていくようすが伺えます。

その一方で、自社にいるシニア人材が「何をしているか分からない」あるいは「孤立している」と感じている若年社員ほど、転職したがる傾向にあると指摘されています。世代間には壁があるものの、互いの状況が見えずに不信感が生じるなど、影響も及ぼすということです。

21年4月から改正高年齢者雇用安定法が施行され、会社には70歳まで社員の就業機会を確保することが努力義務として課されました。多くの会社はもともと「60歳」が定年ですが、65歳までの雇用延長が義務付けられ、その対応にめどがついてきた矢先、努力義務として就業機会の確保が70歳まで延長された形です。この間、シニア層への対応は、会社にとってずっと課題であり続けています。

年功賃金の考え方をそのまま当てはめると、年齢が高いほど能力も高いということになります。もし、50歳よりも60歳、60歳よりも70歳の方が能力がより高くなるのであれば、シニア層は引く手あまたなはずです。しかし実際は、シニア層への対応が会社にとって懸案事項となっているわけですから、年功賃金の考え方が現実に即していないことは既に証明されているといえます。

年齢が上がるとともに賃金も上がるという仕組みの矛盾は、仕事能力や担当役割以上に高い賃金を得ているシニア層を生み出すことになります。そのため、一定の年齢層で線を引き、早期退職制度などの人員削減策を実施する会社が現れます。

一方、若年世代は数が減少し続けています。厚生労働省が公表している人口動態調査を見ると、直近50年では1973年をピークに、出生数が年々減少の一途をたどっているのが分かります。

新卒採用市場はコロナ禍でやや落ち着いているとはいえ、就職氷河期状態に戻ることなく推移しています。これまでのような横並び採用ではなく、新卒でも能力の高さに応じて給与に差をつけたり、グループ会社の社長など思い切った役職に抜てきしたりと、採用側が新卒を含む若手人材の待遇を手厚くする方向で工夫を凝らすケースが増えています。

それに対し、70歳までの就業機会確保が悩みの種になっているシニア層はどうでしょうか。若手層と比較すると、扱われ方に雲泥の差を感じてしまいます。

「シニア層は外、若手層は内」
年功賃金の考え方の影響で能力以上に給与が高くなりすぎたがために、会社としてはできれば外に出ていってほしいシニア層に対し、年々希少な存在となっているがために、厚遇で迎え入れたい若手層。会社側は表立っては言わないものの、本音としては節分の豆まきのごとく、「シニア層は外、若手層は内」ということなのかもしれません。

働き方改革が推進され、グローバル競争の中で生き残ろうともがく中で、会社組織は体質改善に必死です。できる限り生産性を高めようと聖域を設けず改革を進めなければなりません。ただ、本来であれば、長年会社に貢献してくれたシニア層の社員を邪険に扱うようなことはしたくないはずです。それでも、節分に鬼を追い払うかのごとくシニアに厳しい施策をとらなければならないのは、一にも二にも会社組織の体質改善のためです。

しかしながら、シニアに厳しい施策をとったとしても、一時的に組織の年齢構成が変わるだけで、会社組織の体質そのものを改善するには至りません。根本的な誤りが、少なくとも2点あります。

(1)「シニア=能力がない」わけではない

一つ目は、シニアに厳しい施策そのものが、年齢で人材の能力を判定する考え方の派生であり、年功賃金の誤りを正そうとして同じ過ちを繰り返している点です。

例えば、対象年齢を定めた早期退職制度です。

仮に早期退職制度の対象者を定年まであと10年となる50歳以上と設定した場合、対象者の中には、賃金以上に能力を発揮している人材もいるはずです。逆に、50歳未満の中にも能力発揮できている人材もいれば、そうでない人材もいます。年齢で一斉に線引きしてしまうということは、個々の実力をフラットに評価するのではなく、有用な人材も含めて十把一絡げにしてしまうということです。

これでは、年齢で人材の能力を評価するという年功賃金の考え方と根本的には同じです。年齢に関係なくフラットに仕事の実力で判断する仕組みに転換しなければ、年功賃金がもたらしてきた弊害を修正することはもちろん、評価に対する社員の納得感を得ることもできないはずです。

実力主義が浸透している世界を見れば、年齢を基準に人材を評価することがナンセンスであることが良く分かります。分かりやすい事例の一つが、芸能界です。お笑いコンビ霜降り明星のお2人は並み居る先輩たちを飛び越え、結成6年目の20代半ばでM-1グランプリを制しました。フラットに実力で評価される世界では、年齢は関係なく、実力さえ伴えば評価されて頂点に立つことができます。

一方で、今もトップランナーとしてお笑い界を引っ張り続けているダウンタウンのお二人は50代後半。もし、所属する吉本興業が一般的な会社と同じように、一定の年齢で線を引いて早期退職制度を実施すれば対象者になりそうな年代です。

同じく吉本興業の明石家さんまさんに至っては、一般企業であれば定年を迎えて再雇用されている年齢です。しかし、今も誰よりも観客の笑いをとり続けるトップランナーとして活躍しています。一般企業にも、誰よりも受注を獲得して伝説の営業と呼ばれるようなシニア社員がいます。しかし、再雇用制度が年齢で一律に適用される会社の場合、実力が伴っていたとしても一定の年齢に達したという理由だけで、一線からひくことになります。

年齢がその人の仕事能力を測る物差しとして本当に適切なのか否か、あらためて問い直す必要があるはずです。少なくとも、芸能界やプロスポーツなど、実力主義の世界で年齢は関係ありません。シニアでも実力があれば第一線で活躍し続けられますし、キャリアの浅い若手でも実力があれば頂点を極めることができます。一般企業が早期退職制度などの条件を年齢で区切ることは、年齢差別といわれても仕方ないのではないでしょうか。

(2)シニアは若手の未来を映す鏡

もう一つの、シニアに厳しい施策の根本的な誤り。それは、若年層にとってシニア層は未来の自分自身の姿だということです。自分が若手層の年代の場合、シニア層だけが優遇されていると感じれば不公平感を抱いてしまいます。一方で、シニア層がないがしろにされ、活躍できていない職場であれば、将来若手層がシニア層になったとき、同じようにないがしろにされ、活躍の場が与えられなくなることを暗に示されているということにもなります。

シニア層から活躍の場を奪うという考え方は、結局は巡り巡って若手層の未来から活躍の場を奪うことになるのです。冒頭で紹介した調査結果にもあったように、シニア層への対応は少なからず若手層にも影響を及ぼします。「シニア層は外、若手層は内」という施策は、典型的な自己矛盾に陥っているということです。

だからといって、実力主義の考え方だけでドライに給与が決まってしまう仕組みでは、日々安心して暮らしていくための生活費が不安定になってしまう可能性もあります。子どもの養育費や介護費用など、ライフステージや家庭環境によって必要となる収入が変わってくることへの配慮は必要です。しかしながら、必要となる生活費の在り方においても年齢だけで線引きしてしまう考え方はやはり乱暴です。

子育てで最もお金がかかるのは高校以上の教育費です。しかし、そのタイミングを迎える親の年齢としてはさまざまなケースが考えられます。子どもが大学進学するときに、親が50代の場合もあれば、30代の場合もあり得ます。家族の介護もいつ発生するか分かりません。18歳未満の子どもが介護するヤングケアラー問題も近年クローズアップされています。

年齢が上がるにつれて生活費も増えるという考え方は、一つの傾向として当てはまるかもしれませんが、個々の事情に応じたケアの在り方にも目を向ける必要があります。これまで年功賃金が果たしてきた役割の一つである生活費のケアについて、個別最適の観点から、年齢にとらわれずにカバーする仕組みを検討する必要があるのではないでしょうか。

若いころは経験が足りず未熟、年配になると経験は増すものの総合的な能力は衰える。そんな固定観念が、必ずしも個人一人一人の状況に当てはまるとは限りません。

プロ囲碁棋士として活躍する仲邑菫さんは現在12歳。アニメ、ドラゴンボールの主人公孫悟空役で有名な声優、野沢雅子さんは御年84歳で今もトップランナー。和食の鉄人として名をはせ、今はYouTuberでもある道場六三郎さんは90歳。年齢に対する固定観念を超越して活躍している人が、既にたくさん存在しています。

年齢のイメージに縛られた旧来のシステムにいつまでもとらわれ続けるのではなく、個々の実力に応じて評価し、実情に照らし合わせてケアするシステムへと再構築するべき時期に来ているのだと思います。

(川上敬太郎)

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