内燃機関から撤退? そんな説明でいいのかホンダ

4月23日、本田技研工業は新たに社長に就任した三部敏宏(みべ としひろ)氏が就任会見を開くと供に、ホンダの近未来計画を説明した。

ホンダは新目標を大きく2つに絞った。一つは「ホンダの二輪・四輪車が関与する交通事故死者ゼロ」であり、もう一つは「全製品、企業活動を通じたカーボンニュートラル」。そして何より素晴らしいのは、その年限を2050年と明確に定めたことだ。

2つの目標に向かって、今後のホンダがどうあるべきかについては、進化をリードする会社であり続けるために、「意志を持って動き出そうとしている世界中全ての人を支えるパワーとなる」という哲学を掲げた。長らくホンダが掲げてきた「Power of Dream」の進化形だと捉えることができる。

内燃機関からの完全撤退
思えばF1の撤退も、オールホンダの経営資源をカーボンニュートラルの実現に重点投入するためと説明しており、自らが「モータースポーツはホンダのDNA」とまで言うホンダが20年10月にF1の撤退を決めたその覚悟からも、ホンダがカーボンフリーに賭ける真剣さが伝わってくる。

ただのお題目ではないのか? という疑念が浮かぶが、続く「四輪車電動化」についての発表を見ると、その決意は凄まじい。先進国トータルで30年にはEVと燃料電池車(FCV)を40%まで加速させ、5年後の35年にはそれを80%まで推し進める。さらにその5年後の40年にはこれをグローバルで100%にするという世界でも前例のほとんどない高い目標を掲げた。

特筆すべきは、この比率にはハイブリッド(HV)もプラグインハイブリッド(PHV)も含まれていないという点である。つまりホンダは得意の2モーターHVである「e:HEV」を含め、全ての内燃機関から完全卒業し、EVとFCV以外を生産しない、世界で最も環境適応の進んだ会社へと意思を持って進もうとしている。

三部社長は、自動車のライフをおよそ10年と見て、50年のカーボンニュートラルを見据えて、少なくとも40年には内燃機関の新車販売を完全に終了し、100%をEVとFCV化する、不退転の意思を就任記者会見で発表したのである。そうでなければ100%などという数字を、エンジニア出身でもある三部社長が口にできるはずがない。それはつまり、F1もTypeRもe:HEVも、これまで大切に培ってきた全てを二度と顧みない決意の下、変革に全てを投入するというホンダが創業以来掲げてきたチャレンジ精神そのものである。

ホンダ自身の言葉によれば「創業以来、高い目標を掲げての挑戦こそ、価値創造の源泉」と定義している。そのためにホンダは「売上高の増減に左右されず、今後6年間で総額5兆円程度を研究開発費として投入」することを決めた。具体的にいえば、現在ラボレベルでの成果がすでに明確になっているホンダ独自の全固体電池を、数年後の20年代後半のモデルに採用するという。

こうした三部社長のプレゼンからは、ホンダの凄まじい決意がうかがえる。40年に内燃機関から完全撤退するというスケジュールから逆算すれば、当然30年頃には内燃機関の開発は完全に打ち切ることになるだろう。

新開発の内燃機関を数年だけ販売して終了では、開発費がリクープできない。となれば、現在ホンダで内燃機関を開発しているエンジニアは、残る9年間でEVまたはFCVの技術者にシフトするか、リストラ対象となることになるだろう。また膨大なサプライヤーも同様に、シフトか整理かの二者択一を迫られると考えるのが、会見内容からの常識的な理解になるはずだ。

それだけの痛みの伴う大改革を断行する決意なくして、40年のEVとFCV100%は実現できないことになる。そこまでの決意がよくできたものだと驚愕(きょうがく)を持ってこの発表を受け止めたのだが、続く質疑応答で、その印象はむしろ疑念に染まっていくことになる。以下、公式の記者会見動画から、会見後の質疑応答を主要部分だけサマリーしてみる。

質疑応答
Q ずいぶんと踏み込んだが方策はあるのか?

A 2050年カーボンニュートラルを達成するということは、すでにF1撤退の発表から決めていました。それを必ず達成するということを前提にしますと、クルマの保有を約10年と見ますと、40年には新車から出るCO2をゼロにしなくてはなりません。今手の内にある技術でそれを達成できるのは、EVもしくはFCVということになります。ですから今日はEVとFCVというような表現をさせていただきました。

しかし、まだ20年ありますので、これからまた新しい技術ができれば、そういうものも加わると思いますが、今日の時点ではあまりボケないように、敢えて今手の内にあるEVとFCVという言い方をしております。2050年カーボンニュートラルという目標においては、先送りにして最後で辻褄(つじつま)を合わせることはできないので、政府提案の13年比で30年に46%削減という目標は極めて妥当な数字であると思います。非常に厳しい高い目標ではあるかとは思いますが、ホンダとしても全面的に支持するとともに、全力を挙げて達成に向けて取り組んでいきたいと思います。

課題はないのか? と問われますと、当然あります。例えば原材料を含めたバッテリーの調達といった問題については、これだけでも相当ハードルが高いと考えています。中国や北米など地域地域ごとにいろいろな作戦が必要かと考えておりますので、鋭意進めているところです。技術進化ということも当然ありますので、全固体電池などの技術ができればいろいろなシナリオも変わってくると思います。課題はたくさんありますが、一番重要なのは、2050年にカーボンニュートラルを目指すんだということで、そこを目指すということで新たないろいろなシナリオなり技術ができてくると思っています。

Q (米国メディアの日本特派員から)北米でEVは人気がないのに、これだけの野心的な目標を掲げられる理由は?

A 非常に難しい質問ですね。今EVの話題が注目を浴びていますが、シェアとしては非常に少ないです。北米にしても日本にしても(EVのシェアが)1%に満たない状況の中で、今回の非常にアグレッシブな提案というわけで、ハードルは非常に高いと考えています。まず現段階では、EVを買っていただいているお客さまはイノベーターというかアーリーマジョリティというか、そういう新しいモノに非常に興味のあるお客さまに買っていただいていると理解しています。普及という観点で言うと、その次に来るマジョリティのお客さまがEVを買うかどうか。お客さま視点でいうと利便性で見て、今のガソリン車(の使い勝手を)そのままEVで置き換えるということはまだまだできておりませんし、そういう顧客視点で買っていただけるEVが30年までに供給できるかで、普及するしないがだいぶ変わってくると思っています。

最近でいうとただEVを作ればいいということではなく、やっぱり今のクルマに無い新しい価値、ソフトウェアディファインドカーというような言い方をしていますが、EVというクルマ(ハードウェア)そのものの価値もあるんですが、そこに載っているソフトウェアでさらにそこにクルマとしての価値を増していくということ、それに加えてインフラの整備、ちゅうちょなく充電ができる環境を作っていくこと。

ただ、想像していただくと分かると思うのですが、皆さんが住んでいるマンションに、充電設備がないところがたくさんあると思うのですが、すでに建っているマンションに充電環境が作れるかというと非常に大きな課題があると思います。商品の話だけでなく、充電ステーションをたくさん作るだけでもなく、住環境に充電環境における課題の解決も必要ですし、われわれとしても事業的に電動化によって収益が出る構造にしていかなければならない。

課題がたくさんあると申し上げましたが、まだまだ越えなければいけないし、電動3部品と呼んでいる、モーター、インバーター、バッテリーの性能を上げながら、コストも下げなければいけない。あらゆる課題について、同時に進めていく以外に方法がない。なかなか上手い手法がなくて、それら全部を地道に進めていくことによって、お客さまからも価値があり、われわれも事業が成り立つようなクルマ。これを30年までに成り立たせるためには、もっと手前の段階でそれを達成しなければならないと考えていますので、そういった意味では非常に難易度の高いことに挑戦していくし、その中で機種数をどのくらい出すかというあたりは案としてはたくさんあるのですが、まだ明確に決まったものはございません。非常に流動的な中、30年の目標値に向けてこれから進んでいきたいと。あくまでも目標達成に向けて前向きに取り組んでいくと考えております。

Q 19年後には内燃機関とHVの技術を止めるというプランだが、今後開発をどう進めていくのか?

A まず40年100%に向けての達成技術というようなところを言いますと、昨日自工会の豊田章男会長が、e-fuelの話をされたと思いますが、ホンダのスタンスも特定技術に対して決め打ちしてシナリオを描かないというのがあります。

やりたいのはEV何パーセントということではなくて、CO2をある時点までにいくつまで下げるということが最終的な狙い所です。そういった意味では技術はいかようにも進化していくので、あまり特定の技術には決め打ちしない。逆にいろいろな制度も含めても、例えばEVだけに対して特殊な税制というようなやり方ではなく、いろいろな技術に対しても可能性を残しておくべきだと思います。e-fuelは技術的にはすでに作ることはできますが、既存の燃料と比べて何十倍もコストが高い。今後化石燃料レベルまで価格が下げられるかどうか、大量に作ることができるかという点でも大きな課題があります。しかし、技術的には可能性はありますし、ホンダの中でも研究はしております。

今日はEVとFCVと申しましたが、あんまりいろいろ言うと論点がボケてしまいますので、今日は敢えてEVとFCVに決め打ちした形で表現しましたが、内部ではそういう可能性の検討を捨てていません。例えば飛行機などは代替手法がありません。バッテリーで日本からアメリカまで飛べるわけではないので、こうしたモビリティはカーボンニュートラルフューエルに置き換わっていくのが妥当だろうと思っています。

ただ自動車という非常に市場が大きいところでいうと、一部特殊車両のようなもの、それからドライビングを楽しむようなクルマの用途では、残っていくという可能性は十分あると思いますが、マジョリティとして置き換わるかというと、私個人の見解としてはかなり難しいのではないかと考えております。そういう意味で今手の内にあるEVとFCVという表現をさせていただいておりますが、技術の可能性としては全然否定するものではないと思っています。

Q 実現の課題は何か?

A 課題はたくさんございます。まず開発でいうと、一番大きいのはバッテリーだと考えています。既存の液体リチウムイオンバッテリーについては、非常に運ぶのが難しいという特性上、地域毎に戦略を変えなければならないので、そのあたりを慎重にやっています。慎重というのは、今のバッテリーは非常に燃えやすい特性があります。クルマのコストの約半分を占めるようなバッテリーが燃えて、品質問題を起こしますと、(巨額のリコール費用が発生する)大きな問題になります。今のバッテリーのコストでいうと一般的にはパック単位で1kWあたり100ドルを切るかどうかが限界線といわれておりまして、ただそれだと今のビジネスを前提とすると、そこまで下がっても収益が上がらないと認識しております。ですからそこにさらに全固体電池のような技術的ブレークスルーがあれば事業性の改善ができるのではないかと。もうひとつ全固体電池は、特性上非常に燃えにくいというのもあります。なので技術的キーはいろいろな意味でバッテリーだと考えています。

しかしそこだけでは事業的に成り立つことは非常に苦しいと考えておりまして、EVは部品点数が減りますので、生産工場のラインをEVに最適化していくことを、どこかのタイミングで考えていくことは検討中です。販売に関してもディーラーベースとなる既存の売り方ではなく、ディーラーを持たずにオンライン販売をする売り方を新興勢力は進めておりますが、それに対してわれわれ既存の自動車メーカーはどう戦っていくのか。

どの領域をとっても「こうすれば上手くいく」という方法がない中で、非常に難易度が高い目標を今日は提案したということです。目標を設定して、あらゆる領域で目標達成に向かって進んでいけば、必ず到達できると私は確信しています。根拠は何かと聞かれると、今ははっきり説明できないということですけれど、目標を明確にしたということが第一歩であるということだとご理解いただきたいと思います。

A 質問が出なかったので勝手に自分でしゃべりますと、なぜ日本だけ20%なのかということですけれど、日本は突出してHVの比率が高いということで、日本の電力事情を考慮すると、30年にCO2を下げるという観点でいうと、コンベンショナルなエンジンからHVに変えていくと相当CO2が減ります。当然EVも出していきますが、日本市場に限りますと、HVの比率を増やすということは現実的な解であると考えております。決して日本市場を下に見ているということではなく、30年までは少なくともその戦略で行った方がCO2が下がると考えております。

矛盾だらけの説明
さて、全体を読んでどう思われただろうか? 前半のプレゼンテーションでは、内燃機関とHVの打ち切りを明確に主張し、さらにEVとFCVに全ての経営資源を集中するという説明だったはずが、後半の質疑応答では、それらの具体的方法はひとつも明確にできず、むしろ課題をひたすら羅列することになっている。

さらにいえば、技術をひとつに絞ることはしないという発言は、明確に全ての内燃機関との決別を宣言したプレゼンテーションと激しく対立しており、どう考えても、実態としてホンダはマルチソリューションでやっていくことを示しているとしか思えない。プレゼンが正しいなら、e-fuelの研究は即刻止めるべきだし、国内のHVも打ち切るべきだ。

しかし、前半と後半でどちらに説得力があるかといえば、これは明らかに後半だ。前半は単なる決意表明であり、具体案が何もない。むしろ後半こそ丁寧に自社が直面している問題を露わにしていると感じる。

厳しい言葉で言えば、ホンダはこの会見で「絵空事のプレゼン」を行ったことになる。広報広聴とは企業の活動を、社会に対して真摯に丁寧に説明することであって、ウケの良い、あるいは耳ざわりの良いことを社会に迎合して発表することではない。その一事を持って、筆者はホンダの会見を否定する。実は当初、この記事のタイトルは「ホンダが死んだ日」にしようと思ったくらいだ。

それは自工会会長が一人で矢面に立ち、膨大な侮辱的批判を受けながらも実態を主張し続けた姿勢と対極にあるもので、むしろ社会から批判されないことのみに注力して、真摯に難しい説明を行う人たちへ逆風を後押ししたという意味では大きな罪だと筆者は思う。こういうところでラクをしてはいけない。

救いとなるのは、エンジニア出身の三部社長が、質疑応答の個別の質問に対しては正直であったところにあると思うが、それだったらどうしてあのプレゼンなのだという疑念が拭えない。ああいうコミュニケーションを行えば、新聞やテレビの見出しがどうなるかは、誰が考えても明白で、「EV化さらに加速。ホンダが内燃機関から撤退」となるのは火を見るより明らかだ。

どうしてそんなことになったのか? 三部社長の言葉の端々ににじむのは「2050年のカーボンニュートラルを目指すのであれば」というフレーズで、それはつまり、そこを前提として考えなさいという課題を政府から突きつけられているということを意味する。それについてはできるとかできないとかを考えることを許さないという意味である。いわゆる所与の条件としてこの枠組みを決められてしまえば、バックキャストでスケジュールを考えるしかなくなる。だからスケジュールだけが決まり、そのための具体策が何もないという馬鹿馬鹿しいことが起きるのである。

この問題、ホンダにも猛省を促したい。何より、こんな無理難題をお上から突きつけられたとしたら、技術の正論で反論すべきだったのではないか? それをせずに、ラクをして、とりあえず可能性すら分からないスケジュールを引いてみせるのがホンダのチャレンジスピリットなのか? 遠い昔、自動車貿易自由化に際して、通産省から押しつけられた自動車メーカー再編成合併案を否定すべくF1に打って出て、ホンダはひとりでやれる気概を示した時とは雲泥の差ではないか? お上へのお追従でホンダの精神を捨ててもいいのか?

そしてもっと悪いのは政府である。「いいからやれ」「できるかできないかではない。やるんだ」。それはブラック企業の常套(じょうとう)手段であり、企業に対する政府のパワハラである。本来であれば自動車産業の550万人の力を集結して逆襲すべき時だと筆者は強く思う。こんな横暴を許してはならない。

(池田直渡)

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