「相続対策」はじめの一手、離れていてもできる準備はある? 税理士が解説

新型コロナウィルスの影響で、「終活」への意識が高まっているそうです。高齢の方や基礎疾患のある方だけでなく、若い世代の方にも死や病の不安というものが、今までに経験したことのないレベルで身近に感じられているのではないでしょうか?

実家に帰省することがままならない現在。親御さんの終活について、お手伝いできることはなんでしょうか? 新型コロナウィルスの感染拡大で「終活」の意識が高まっている今は、親御さんと財産のことをきちんと話す、ある意味チャンスかもしれません。

今日は、コロナで会えない今だからこそ、親御さんと離れていてもできる相続準備について、ご紹介します。
(1)実家に帰省できない! 離れたままで相続に関してできることは?

親御さんが終活を始めたい、そこまで言わなくても「なんかきちんとしておきたい」とおっしゃったら、まず最初に勧めてほしいのが、「財産一覧表」を作ること。

自分の現状が分からないと、とても不安なものです。ところが多くの方が、ご自身の財産くらい「分かっている、分かっている」と言って、この大事な一歩を踏み出さないままご相続を迎えてしまいます。

以前、あるタレントさんの遺言作りをお手伝いしたことがあります。その方にまずはご自身の財産を書き出すことをお願いしました。最初は「自分の財産は充分分かっている」と言っていらしたのですが、財産一覧表ができたとたん、第一声で「今日、これを書いたことが一番の収穫だった!」とおっしゃられました。とてもシンプルに自分のことが見え、自分にとって大事なものが何なのか分かり、すっきりしたそうです。

頭の中で分かっていると思うことと、実際書き出して目にすることは、大きな違いがあります。まずは、ご自身の財産を書き出してもらうこと、これをお勧めしてみてください。

それはお子さん方にとっても、大変貴重な手掛かりとなります。相続が発生した後に、親御さんが保有する財産がさっぱり分からず、苦労するお子さんは大変多いものです。

では、「財産一覧表」の具体的な作り方をご説明しましょう。実に簡単です。

自宅、賃貸不動産や別荘などの不動産、銀行預金、証券会社に預けてある株式や投資信託、公社債、金銀プラチナ、生命保険、その他財産価値のありそうなものを、ざっと縦に書き出してみましょう。それぞれの横に不動産なら所在地、銀行預金なら銀行名、支店名、口座番号などを書き出します。そして、それぞれに大体でいいので、金額を書き入れていきます。

銀行預金などの金融資産は、金額を書き入れやすいですが、「不動産の価値なんて、分からないよ」という方は、固定資産税評価額でも構いません。大事なのは、どこにどういった財産があるか、把握することなのです。

親御さんがどんな財産を保有しているかを残さずに亡くなってしまったために、加入していた生命保険に気づかず、保険金を受け取れなかったというケースもあります。生命保険金は受取人が請求しなければ受け取れません。せっかく親御さんが支払ってきた保険料が無駄になってしまうこともあるのです。

また、デジタル化が進んだことで、親御さんの財産を把握しにくくなっています。最近はネット銀行やネット証券を利用しているケースも多く、自宅に郵便物が届くことも少なくなっているからです。銀行預金でさえも通帳がなくなる時代ですから、親御さんが亡くなった後に通帳や郵便物によってその全財産を把握するのが難しくなっているのです。

つまり、財産一覧表を作ることは「見える化」による親御さんの安心と整理のためだけでなく、お子さん方のためにも重要なのです。なお、ネット銀行やネット証券については、IDやパスワードをどこかに書いておいてもらうことも忘れないようにしましょう。

こんなに役立つ財産一覧表ですが、親御さんはなかなか腰を上げないものです。歳をとると文字を書くのさえ、億劫になるからです。なかなか帰省できない場合は、リモートで財産一覧表作りをお手伝いしてみてはいかがでしょうか?

親御さんがペンを持って手を動かして一覧表を作るのは、確かに面倒くさい気がします。そこで、お子さんがリモートで、親御さんのお話を聞きながら、お子さん側のPCなどで一覧表を作ってあげるのです。そうすれば、会話の中から、「あれはどうしたんだっけ?」「もう売ったの?」「あ、まだ〇〇証券に口座が残っていたわ」などの気づきがあり、財産漏れを防ぐことにもつながります。
(2)今後、実家に帰省するタイミングが訪れたらやりたい相続対策

実家に帰省できたときにやっておきたい「財産」に関する相続対策としては、不動産の境界線が確定しているか、確認しておくこと。確定していなければ、親御さんの元気なうちに、親御さん自身が隣人と交渉して境界確定しておくことをお勧めします。相続が発生してからだと、一番事情の分かっているはずの持ち主(親御さん)が亡くなってしまっていますから、隣家とモメごとになる可能性もあります。

もう一つ、実家に帰省できたときにやっておきたい「人生」に関する相続対策としては、「この先どう暮らしたいか?」「体が動かなくなったら?」「認知症になったら?」「植物状態になったら?」など、大変デリケートな話だからこそ、実際会えたタイミングで、お話ししておきたいものです。

また、葬儀やお墓の希望について確認しておくことも重要です。最近は、お墓も多様化し、樹木葬や海への散骨など、さまざまなスタイルがあります。「富士山の見える場所で樹木葬にしてほしい」などの希望を持つ親御さんもいるでしょう。

葬儀やお墓をどうしたいのか、親御さんの希望が分かっていれば、お子さん方もできる限りその通りにしたいと思ってくれるでしょう。

いきなり、葬儀やお墓の話なんてできないよ、という場合は、両親がペットを飼っているなら、万が一の時にペットを誰に託したいのか、そんなところから終活を始めてもいいでしょう。

実家の親御さんと会う機会が貴重になっている今、その時間を大切に使うためにも、会ったときにどんな話をするか、事前に考えて準備をしておきたいものです。

税理士・1級ファイナンシャル・プランニング技能士 : 井口麻里子 いぐちまりこ 慶應義塾大学卒業。2009年2月、独立系の税理士法人としては最大手の辻・本郷税理士法人入社。その後、2年半にわたりメガバンクのプライベートバンキング部門へ出向。税務顧問として、主に富裕層の相続対策、資産承継、事業承継の相談に応じてきた。帰任後は相続部に在籍し、シニアコンサルタントとして相続税の申告はもちろん、生前からの相続対策などの相続コンサルティングを主業務としている。日々、多くの顧客と接する傍ら、セミナー講師活動、執筆活動も盛んに手掛け、相続問題の解決に全力で取り組んでいる。趣味はトレッキング。著書に『相続でモメずにお金を残したければ「この順番」で進めなさい』(すばる舎)、『55歳になったら遺言を書きなさい』(あさ出版)がある。 この著者の記事一覧はこちら

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