育休判明でローン融資拒否! 高飛車な銀行は、これから滅ぶと思えるワケ

インターネット銀行で住宅ローンを申し込んだ男性が、本審査まで通過しているにもかかわらず、「育休中である」ことを理由に融資を断られた件が報道され、話題になっている。

審査通った住宅ローン 育休わかると「融資できかねる」(朝日新聞)

記事では、融資が断られた理由について「育休中や産休中の場合、本人に復職意志があっても、仕事に復帰できなかったり、復職時期が遅れたりするリスクがあるため、金融機関は融資に慎重になる。原則不可という金融機関もある」と説明されている。

この報道を受け、「国を挙げて『男性の育休取得率向上』を推進しているのに、育休取得によって信用情報に影響を受けるのはおかしい」「少子化対策が急務である社会に逆行する動き」「金融機関のやっていることは育休差別。こういう商慣行が残っているからSDGs(持続可能な社会)が実現できない」といった批判も多く寄せられた。一部の国会議員は事態を重く見て金融庁との話合いに臨んでこの議題を出し、金融庁側から「このような対応は不適切」「(不適切である以上)当該金融機関に対し個別に対応する」「業界全般に対し同様のケースがないかヒアリング中」との見解も引き出しているようだ。

確かに問題であるかのように思われる今回のケース。金融機関側としては、別に「育休中」であることを理由に差別しているわけではない、という立場のため、報道はネガティブな誤解を招くものだと不本意に捉えているようだ。では、なぜ金融機関がこのような対応を行ったのか考えてみよう。

育休中は「無収入」なのか
そもそも、ローンの審査において根本となる判断材料は申込者の「収入」である。そして、産休中や育休中は給与が出ないことが一般的であるため、職に就いていない人と同じ「無収入」状態として扱われる。当然、金融機関も営利企業であるから、回収が見込めない無収入の人にはそもそもお金を貸すことはできず、「ローン審査の対象外」という判断になるわけだ。

また本人が育休後復職する心づもりがあったとしても、保育園に入れず復職が遅れてしまったり、会社側の都合で復職できなくなったりするなどの可能性もある。そうなれば無収入の時期も相応に延長されるし、復職後のポジションや残業時間によっては、育休前よりも収入が減少してしまう可能性もあるだろう。そういった予期できないリスクがある以上、金融機関としても慎重にならざるを得ないという事情がある。

ここまでの話の中で、育休の法制にある程度詳しい方なら、こんな疑問を持たれるかもしれない。

「『育休中は無収入』ではないのでは? 育休には給付金や税金優遇などの制度があって、『出産前の8割程度の収入は確保できる』と聞いたことがあるが……」

確かにその通りだ。仮に勤務先企業に「育休中は無給」という規定があったとしても、実際は「収入がゼロ」になるわけではない。

現行法では育休中、雇用保険から支給される手当として「育児休業給付金」を受給できる。また女性の場合、産前6週間、産後8週間の休暇を取得できるが、その休暇中に「出産手当金」を受け取れる。そして育休中は、健康保険や

厚生年金などの社会保険料の支払いが免除され、雇用保険料もかからない。さらに育児休業給付金は非課税扱いであるため、給付金への所得税もかからない。受給した給付金に加え、これらの差し引かれていた保険料などを考慮することで、育児休業給付金支給額が「手取り額の約8割」に相当する額になる、というわけなのだ。

ただし、この「育児休業給付金は非課税扱い」というところが、ローン審査では引っ掛かってしまう。確かに給付金としての収入は得られるのだが、非課税扱いのため、「課税ベースでは無収入」という状態が継続していることになる。金融機関の審査は課税ベースの収入であるため、やはり育休中の審査が通らないことになってしまうのだ。

回避するには今のところ「育休前にローン手続きを済ませる」か、「復職後に審査し直す」しかない。ただし、給与振込やカード決済を行うメインバンクなら、これまでの履歴によってフェアに審査されるかもしれないし、育休中でも申込可能な特例プランを用意した金融機関を選ぶという方法もある。

とはいえ、終身雇用制が崩壊し、非正規雇用やフリーランスといった働き方を選ぶ人の割合が増えていく中で、従前のような「正社員男性が大黒柱となり、一家の収入を支える」「勤務先の信用=個人の信用」という慣行や法制自体に抜本的な見直しが必要ではないかと考えられる。

2019年におけるわが国の就業者数6724万人のうち、非正規雇用比率は男性が22.8%、女性は56.0%にものぼる。また法人企業は約421万社存在するが、そのうち99.7%は

中小企業だ。そして自営業主・家族従業者数も675万人。育休中の給与所得者と同様に、彼らも皆ローン審査はかなり難しいのが現状だ。

組織に勤めている限り、毎月給与が支払われるため、「安定した収入がある」「返済能力も高い」と見なされやすい。一方で非正規雇用者や個人事業主、中小企業経営者は、事業環境の変化が個人収入にダイレクトに影響する可能性が高く、けがや病気などがほぼ「休業」「収入激減」に直結するため、「ローン返済が滞ってしまうリスクが高い、不安定な存在」という枠組みに入ってしまうのだ。

実際、「売り上げは普通のサラリーマンの数倍あるのに、ローン審査に通らなかった」と嘆く個人事業主は多い。その理由は、審査基準が「所得金額」だからだ。サラリーマンや公務員のような給与所得者の場合、審査対象は「額面年収」だが、個人事業主の場合は売上から必要経費を差し引いた「所得金額」が対象だ。そして小規模企業経営者の場合は「自身の役員報酬の額面収入」に加えて「会社の利益」が対象となる。

そのため、住宅ローン審査に備えて、あえて経費を計上せず利益(所得金額)を過大にし、結果として多額の税金を納めるハメになってしまっている事業者もいるようだ。一方で小規模企業経営者が、社会保険料支払いを少なくするためにあえて低い報酬額を設定している場合、所得額が少ないと判断され、審査で不利になってしまう事態にもなり得る。また、多くの金融機関では「直近3年分の確定申告」を基に所得を審査する。そのため、3年以上事業を継続していて、かつ連続で黒字経営なら心配ないが、業績に波がある場合は、その中で最も低い所得額を基準に審査されてしまう。

これらはあくまで金融機関側の機械的な判断基準であり、目の前の相手が「育休中でもうすぐ復帰することが確定」していようが、「創業2年目の個人事業主で先行投資のためずっと赤字だが、受注が確定しており来期の年商は1億円を超える」状況であったとしても、担当者が個別事情を勘案したり考慮できたりする余地はほとんどないというのが現状なのだ。

しかし、それでは金融機関の審査に担当者というヒトが介在している価値もないのではなかろうか。税制に詳しい西村税理士事務所の税理士CFP、西村新一氏はこのように語る。

「住宅ローンの場合、判断基準となる要素はほぼ『申込者の返済能力』と『購入物件の担保価値』になるわけですが、百歩譲って結果的に審査に通らなかったことは仕方ないにしても、返済能力と担保価値の両方に問題があるのか、あるいは一方の問題なのかなどに関する情報は開示されません」

「もし問題があったなら、『年収があと○万円多ければ』とか、『物件の立地がもう少し駅に近ければ』といった形で、今後につながる情報開示はして頂きたいものです。家の購入は多くの人にとって人生で一番高い買い物。国民がそういった情報を知る機会を得ることは重要ではないかと考えています」

例えば日本ほど終身雇用が一般的ではないアメリカの場合、ローンの与信は、申込者個人の「クレジット履歴」と、「クレジットスコア」で判断される。「クレジット履歴」とは、ソーシャル・セキュリティ・ナンバー(

社会保障番号)下で管理された個人の支払履歴のことを指す。所有するクレジットカードの利用と支払状況、そして車など既に契約済のローンや借入金に関する状況が細かに記録されている。

そして「クレジットスコア」はその履歴を基に算出された、個人の信用度を数値化した偏差値のようなものだ。もしカード利用料金や医療費、養育費等の支払いが滞った場合、スコアが下がってしまい、新たなクレジットカードが作れなかったり、ローン審査が通らなかったり、契約時に多額のデポジット(保証金)を要求されたりしてしまうことになる。これらの要素は大企業勤務か否か、育休中かどうかといった個人の「属性」とは無関係なため、日本に比べれば公明正大であるといえよう。

就活生人気も過去のもの
従前、銀行といえば「経済社会にお金という血液を送り込む心臓のような存在」であり、「ビジネスの資金需要に応える付加価値の高い仕事」と捉えられていたし、銀行員といえば「知的でスマート、誠実で信頼のおける高給な職業」というイメージであった。当然その社会的地位も高く、就活生の就職人気企業ランキングにおいて、一時期はトップ10のほとんどが金融業界の企業で占められていたこともあった。

しかし、産業は興隆もすれば衰退もする。かつては花形産業の人気高給職であった「キーパンチャー」や「炭鉱夫」といった仕事も、現在は機械に置き換えられたり、職業そのものがなくなってしまったりしているのだ。そして、銀行や銀行員も例外ではない。

実際、16年から続くマイナス金利政策により、銀行の収益は大幅に減少しており、人員削減や支店閉鎖などのリストラを継続中。メガバンク各行の21年卒の新卒採用人数をみても、いずれも前年度から約10~15%減という状況だ。また、金融庁が独自に発表した業績分析によると、「15年3月期決算の時点で4割の地銀が赤字」「25年3月期には6割超へと赤字数が膨らむ」となっている。

しばしば「日本はオーバーバンキング(銀行過剰)状態」だといわれる。人口に対する銀行数こそ、諸外国と比べて決して多いわけではないが、他行と何ら差別化できず、さほど利益が生まれない融資業務から抜け出せない旧態依然とした経営を続けている所ばかりなのであれば、過剰といわれても仕方ないだろう。

昨今、インターネットを活用した融資や現金不要のキャッシュレス決済、スマートフォンでの送金、仮想通貨とそれを支えるブロックチェーンなど、金融サービスと情報技術を組み合わせた「フィンテック」と呼ばれる新たな動きが広がりを見せている。フィンテック分野においては、ヤフーやソフトバンク、楽天など金融業界外からの新規参入も多く、銀行業界としてはいかに早くデジタル化、ユーザーへの利便性、生産性の向上を成し遂げるかが鍵となるはずだ。

しかし、銀行業界の閉鎖的な体質は、こうした新たなサービスや異業種参入の妨げになりかねない。例えば、公正取引委員会は20年4月、銀行間の送金手数料について強く是正を求めるとする報告書を発表している。当該報告書によると、銀行間をまたぐ送金の際にかかる手数料は本来、交渉で決められるものだが、実際のところ変更交渉が行われないまま40年以上も変わっていない。諸外国では同様の取引において手数料をとっておらず、事務コストを上回る額を徴収しており、利用者の振込手数料にも影響を及ぼしている、との内容が記されている。

手数料への是正要求はまさに象徴的なケースだが、キャッシュレス決済の場合、サービス事業者や利用者が最終的に手数料を支払うケースが多い。銀行間手数料が下がるだけでも、事業者間の競争が促進され、新たなサービス開発や、利用者の利便性向上につながることが期待できよう。

黙っていてももうかる時代は過ぎ去った
黙って店舗を構えていれば、お金を借りたい人が頭を下げて集まってきた時代は終わった。これからは社会の根幹をなす存在として、顧客との寄り添い方を変える必要があるし、銀行としても新たな働き方やスタイルを創出していく必要がある。

人件費削減や支店閉鎖、もしくは銀行の統合や再編はあくまで手段の一つにすぎない。例えば、これまで膨大に蓄積された預金口座の決済データを基としてビッグデータを分析することで、従前はリーチできなかった顧客層にサービス提供できる可能性があるかもしれないし、自行のデジタル対応化で得た知見やノウハウを、取引先中小企業へのIT化支援という形で生かせるかもしれない。個人向けビジネスにおいても、それこそ今般の育休や住宅購入のように、顧客個人のライフイベントに合わせた形でタイムリーな提案ができるようになるかもしれないのだ。

金融インフラは重要な公共財であり、今後成長が見込まれるフィンテックの各種サービスの基盤となるものだ。筆者自身もメガバンクおよび地元信用金庫のユーザーとして、各行には地域特性を踏まえ、独自の顧客本位のビジネスモデルを構築し、地域顧客の役に立つ存在へと変革してくれることを願ってやまない。

(新田龍)

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