【特集】オンライン会議・商談の「印象戦略術」 第4回 オンラインだからこそ生きるプレゼンやスピーチの極意–歴史上の人物に学ぶ

前回、手の所作が語るメッセージ性について書いたところ、「手は画面に映っているか?」という意見をいただきました。顔の認識も難しいほどの大人数のウェビナーでは映りませんが、そんなセミナーでも講師陣4人のウインドウが並ぶと手が映っている人、映っていない人で印象が異なります。

私はラジオ番組やYouTubeの収録のために、毎週1回のペースで衆議院・参議院会館の議員事務所で取材や動画撮影を行いますが、議員はメディア出演を重ねることで、ご自身の印象の分析ができている方が多く、所作や話し方も安定しています。手の位置も、机の上でふんわり重ねて「尖塔のポーズ」をされる方がほとんどです。信念のある意見には熱量があり、思いを伝えることに長けています。
ボイトレを受けていたヒトラー
スピーチで人々を煽動した歴史上の人物にアドルフ・ヒトラーが挙げられます。ここでは彼の人物像ではなく、彼の演説が準備とトレーニングの上に成り立ったものであったということにフォーカスしたいと思います。

彼の演説が上達した理由の一つに、正統な発声法を学んだことが挙げられます。日本の選挙でも、候補者が声を嗄らして叫んでいますが、彼も屋外演説が続き、酷使による声帯麻痺の恐れから、医師に発声法を学ぶことを勧められたことがきっかけでした。

ヒトラーはオペラ歌手のデフリーントから演説について学ぶことになりましたが、デフリーントが1932年にヒトラーに教えた内容が、1992年に私がイギリスで学び、改良を重ねて、今、クライアントに伝えていることと似ていることに驚きました。いくつかを紹介しましたので是非参考にしてみて下さい。カッコ内が現在の私のメソッドとなります。

発声法
人間の発声器官を吹奏楽器にたとえながら、力を振り絞らずに行うのが正しい発声法
(全身の力を抜いて、体全体をチェロと捉えて、腹式呼吸で発声する)
感情語の表現
感情語をその感情内容にふさわしい響きと色合いで発声すべき。ヒトラーは「幸せ」という言葉を発するのに、いかに幸せそうに艶やかに発するか練習し、境地に達したと述べています。
(感情を表す言葉は、その言葉と表現を一致させるべき。「申し訳ございませんでした」は感情をこめて、息づかいまで心を配る)
ジェスチャー
自分の感情に任せて動作を行うのではなく、胸に手をやる、指を差すなど意味のあるジェスチャーを。
(ジェスチャーは一つ一つに意味がある。誤ったメッセージを送らないように注意すべき)
目線
前列の仲間や崇拝者だけでなく、ホール後方の聴衆に目線を送る。
(私、全体を見渡すように、見ながらも、1人の大切な人を説得するように心がける)
悪の演説術は演劇がバックグラウンドだった
ヒトラーが半年のレッスンで自分の新たな立ち居振る舞いに自信が持てるようになった頃、デフリーントは、『演劇のABC』という本をヒトラーに渡しました。そこには姿勢を正す、横顔を見せて話さないなど詳細に書かれていました。彼はこの演劇法にいたく感心したそうです。

デフリーント亡き後、息子が彼の日記を社会学者に託したことから、このボイストレーニングの事実が明らかになりました。2007年に『わが教え子、ヒトラー』というタイトルで映画化もされ、話題になりましたが、おかげでヒトラーのボイストレーニングも私のメソッドも、バックグラウンドが「演劇」であるということがわかったのです。

イギリス人ビジネスマンがボイトレと「見せ方」にこだわる理由
「演劇」というと、皆さんには無縁の話に聞こえるかもしれません。しかし、20年前に私が通ったロンドンシティーリットのドラマコースの発声クラスには、クラスメイトに銀行員や会社員といったビジネスマンがいました。彼らは日常の営業やプレゼンで、低く安定した声で話すことを強みと捉え、信頼を勝ち取るのに欠かせないツールだと認識していたのです。

そしてイギリスのビジネスでは、伝えたいことに応じて相手に相応しい服装で話すことが常識だということを、ごく普通のビジネスマンの彼らから教わりました。

ヒトラーも一回一回の演説のために、自分の登場の仕方や服装にこだわり、ジェスチャーや発声の練習に相当時間を費やし、「見せ方」の研究に余念がありませんでした。

オンラインでは、マイクを通して話すわけですから、尚更、相手の心に訴える演劇のメソッドは有効です。

そしてオンラインの「見せ方」といえば、カメラの位置がおざなりになっていませんか?よく見かけるのがカメラの位置が低いため、あごが強調されているケースです。ヒゲの逸り残しまで映り込み、目線も見下すように映ります。また、自宅の寛ぎモードで猫背のケースもよく見かけます。自分の画面では気づかないことでも、他の参加者とウインドウが並ぶと、より目立ってしまうのです。

またオンラインで”映える”ファッションが話題ですが、その服装を選んだセンスが「あなた」として印象に残るということ、そして相手に相応しいかということを心得て選んでみてください。

第三者目線のコンサルタントをつけたケネディー
他に、視覚的要素を活かした政治家といえば、ケネディー大統領です。彼は、1960年の第44回大統領選挙で当時共和党副大統領のニクソンと戦うことになりましたが、当初は不利な状況でした。しかし、この選挙でケネディーに、第三者目線で印象を管理する専門家が付きました。それが「イメージコンサルタント」の起源と言われています。

ケネディー陣営は、ニクソンの豊富な経験を逆手に、「若さ」を徹底的に打ち出す戦略に出ました。2人が一緒に並んだ大統領候補者の討論会(1960年9月26日)は、史上初、テレビ放映された、記者会見方式の討論でした。

ダークネイビーのスーツを着こなした43歳のケネディーは、椅子にかけて待つ間の姿勢も、足を組んで膝の上で両手を重ね合わせていました。話す時もポーディアム(演台)に寄りかからず姿勢良く立ち、テレビ目線で剌としていて、身のこなし全てがスマートでした。

一方、ニクソンは椅子にかけているときも、手の位置が定まらず、ケネディーや司会者を見たりして視線も定まらない上に、足も内股に見えるなど、ぎこちなさが目立ちました。話す時はポーディアムの上部に両手を付くことから、背中が丸まって見えて、年齢がさほど変わらないにも関わらず、47歳のニクソンの老いが際立ってしまったのです。
「戦略ありき」が功を成す
なぜ、ケネディーやヒトラーの演説が人々を惹きつけたのか。2人には共通点がありました。それは、何事も「戦略ありき」だったことです。聴衆は誰か? 時間帯は? 場所は? 全ての行動に、聴衆を見据えた戦略がありました。

ケネディーは、演説の場面だけでなく、握手の仕方やペンの持ち方まで、一挙手一投足に若さを感じさせる戦略でした。

さらに仲睦まじい家族と過ごすオフの時間や、アメリカの富裕層の象徴的なライフスタイルを惜しげもなく披露することで、アメリカ人の憧れの存在として位置づけられたのです。

オンラインでも、あなたのライフスタイルや趣味趣向、感性、センスが、あなた自身の印象として反映されます。なぜ、その場所、部屋を選んだのか? 自宅なら、映り込む家具の棚は整頓されているか? 本棚が背景に映ると知的できちんと書斎で仕事をしている印象で好ましいですが、会議の相手に見られて好印象な本、不都合な本を仕分けるのも一つの戦略です。

それらを隠す壁紙もありますが、では、なぜ隠すのか、なぜこの壁紙を選ぶのか。主張した方がいいもの、しない方がいいものを考えるべきでしょう。オンラインでは、ペットボトルのラベルまであなたのセンスとして印象に残ります。

「彼を知り己を知れば百戦殆からず」。オンラインの機会をチャンスとして、是非、相手のことを考えて選択する戦略に挑んでください。

参考文献: 『ヒトラーの演説熱狂の真実』(高田博行 著/中公新書)

乳原佳代 うはら・かよ 印象戦略コンサルタント。有限会社キャステージ 代表取締役。 大阪府出身。航空会社退職後、英国ロンドンシティーリットでコミュニケーションを学ぶ。帰国後、印象戦略コンサルティング会社キャステージを起業。危機管理の観点から、行政や大手企業で演説トレーニングや服装戦略を手掛ける。また、日本政策学校講師、上智大学グリーフケア研究所認定臨床傾聴師、麹町中学校「制服等検討委員会」アドバイザー、ラジオ日本「ラジオ時事対談」レギュラーも務める。 この著者の記事一覧はこちら

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする