年間36万人がいなくなっている!? アメリカの子どもの行方不明事案

アメリカでは毎日、約2000人もの子どもたちが行方不明になるという。スーパーマーケットなどに設置されている掲示板には、行方不明になった子どもたちの情報提供を求めるビラがところ狭しと並んでいるのが日常風景だ。
2020年に全米犯罪情報センターに登録された0~18歳までの子どもの行方不明事案は36万5348件(FBI調べ)。これは先進国の中では突出した数字であり、子どもの失踪問題は長らくアメリカ社会の懸案事項となっている。なお、日本における同年代(9歳以下及び10歳代)の行方不明者数は1万6825人である(警察庁発表、令和元年度調べ)。
米当局も手をこまねいているわけではなく、各州で集中捜査を行っている。2021年3月には、南部・テネシー州で「2カ月におよぶ捜査の末、行方不明になっていた子ども150人を保護した」という報道があった。これほどの人数が短期間で発見されるのは異例だという。また、同州には及ばないものの、ジョージア州やテキサス州などでも30人前後の子どもたちが発見、保護されている。さらに、行方不明に携わったとして、多くの逮捕者も出ているという。
一体なぜ、アメリカではこれほどまでに多くの子どもたちが行方不明になるのか? ここではその実態などについて、公開データやニュース記事を基に検証していきたい。
まず、合衆国司法省の傘下にある「少年司法および非行予防事務局(OJJDP)」は、行方不明事案の実態を把握すべく「行方不明、誘拐、家出、および育児放棄された子どもに関する全国事件調査(NISMART)」を1988年から約10年周期で行っている。それによると、子どもの行方不明事案は「家族による誘拐」「他者による誘拐」「家出/育児放棄」「遭難/事故」「誤報」の5種類に大別できるという。

また、政府系の非営利団体「全米行方不明・被搾取児童センター(NCMEC)」が2020年に携わった2万9800件以上の事案のうち、家出が9割以上を占め、家族による誘拐は5%、遭難が1%で、他者による誘拐は1%以下だった。ちなみに、テネシー州で起きた事案についても、発見された150人のうち、人身売買を目的に誘拐されたのは5人であった。
「家族による誘拐」は、ほとんどが離婚などによって親権を失った片方の親によるものだ。アメリカでは、親権を持つ親の同意を得ずに子どもを連れ去ることは重大な犯罪と見なされており、そのような事案に対しては「誘拐(kidnap)」ではなく「拉致(abduction)」という強い表現が使われている。この問題には日本も深く関わっており、国際結婚の破綻した日本人の母親が、子どもを日本に連れ去るケースが後を絶たない。FBIのホームページには「実子誘拐罪」の被疑者リストが公開されているが、その中には日本人の母親が数名含まれている。
「他者による誘拐」は、血縁や法的親権のない者や、完全に面識のない他者によるものだ。その動機は、身代金を目的とした営利誘拐や違法な養子縁組、性的および身体的な虐待を目的とした人身売買、そして殺人といわれている。NCMECの10年間にわたる調査によると、他者による誘拐のほとんどは子どもたちが登下校するときか、路上で遊んでいるときに行われるという。これは、未就学児にくらべ学齢期の児童は親の目を離れて行動していることが多いことに起因する。また、標的となる児童の年齢が上がるほど、犯行に性的な動機が含まれるようになるという。

「家出」は前述したように、子どもの行方不明事案の大多数を占める。NCMECによると、子どもが家出をする動機としては「家庭や周辺環境に居心地の悪さを感じる」「虐待」「家庭内不和」「性同一性や性的嗜好に対する不寛容」「メンタルヘルスの不調」「妊娠」「インターネット上の誘惑」「友達、恋人、(養子であれば)実の家族との同居を望む」といったものが挙げられる。また、NCMECに報告された家出事案のうち77%が15~17歳だった。
失踪した原因がまったく不明であったり、家出をするには年齢が低すぎる子どもたちは「遭難」、もしくは何らかの事故に巻き込まれたとNCMECは定義している。しかし、情報が乏しい上に誤報も多いため、発生する条件をパターン化することは難しい。ただ、「自閉症の幼児が動物や乗り物などに気を取られているうちに迷子になってしまう」「自分が迷子になったことを自覚できず、恐怖や孤独を感じないまま延々とさまよってしまう」「帰り道がわからず、それでも自分で何とか帰宅しようとした結果として迷子になってしまう」など、いくつか共通する特徴もあるという。
NCMECは、これら行方不明事案のパターン化を進める一方で「報告されない事案も多く、実際に行方不明になっている子どもたちの総数を確実に把握する方法はない」とも付け加えている。 実態のつかみづらい子どもの行方不明事案に対応すべく、アメリカでは1996年から「AMBERアラート」と呼ばれる緊急事態宣言システムが導入されている。AMBERとは「America’s Missing: Broadcasting Emergency Response」の略であると同時に、1996年に誘拐され殺害された少女(Amber Hagerman/当時9歳)の名前に由来する。

AMBERアラートは、誘拐事件や行方不明事件が発生した際にテレビやラジオ、インターネット、そして道路上に設置されている電光掲示板に至るまであらゆるメディアを通じ、事件の発生を速やかに地域住民に知らせる。配信される情報は行方不明になっている子どもの氏名や身体的特徴のほか、犯人の車のナンバーなども含まれている。NCMECによると、2020年にはAMBERアラートをきっかけに1029名の子どもたちが救出されたといい、一定の効果を上げている。
しかし、行方不明事案の全容を解明することは依然として困難であり、テネシー州で行われたローラー作戦のような、一時的な対応しか取れないのが現状のようだ。また、行方不明事案には「巨大な人身売買グループが関わっている」といったような報道もされがちだが、原因の大半はNCMECが述べているように「家出」である。さらに、家出の理由は虐待や性差別など、アメリカ社会が抱えているその他の社会問題が強く影響している。
行方不明事案の増減は、アメリカ社会の歪みがそのまま反映されていると言えるかもしれない。
■ゼロ次郎(ぜろじろう) 2015年からライターとして活動中。不良と縁のない人生を歩んできたのに、実話誌などで記事を書くことになり人生が一変。「月刊サイゾー」では、主に海外ネタを担当。仕事を通じて知り合った面白い人々を呼んで、阿佐ヶ谷ロフトAでトークライブを不定期開催中。

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