戦闘機に「栄光」ヘリに「はつかり」 実は存在する自衛隊機の日本語愛称 浸透しなかったワケ

自衛隊の航空機には「ファントム」や「イーグル」「コブラ」などの愛称がつくものがあります。しかし昭和の時代には国民に親しみを持ってもらおうと、自衛隊が独自に漢字やひら仮名表記の愛称を細かく設定したことがありました。
2021年3月18日、航空自衛隊の戦闘機F-4「ファントムII」戦闘機が半世紀にわたる任務を終了しました。その一方で、最新鋭ステルス戦闘機F-35「ライトニングII」の配備も2個飛行隊に広がるなど着々と運用拡大が進められています。
とはいえ、航空自衛隊のパンフレットや公式WEBサイトなどでは「ファントムII」や「ライトニングII」という名称は記されておらず、単にF-4EJまたはF-4EJ改、F-35Aのみです。これは「ファントムII」「ライトニングII」ともに開発元であるアメリカにおいて、メーカーや軍により名付けられた「愛称」だからといえるでしょう。そのため厳密には自衛隊の正式名称ではないものの、呼びやすいために飛行機ファンを中心に広く用いられており、自衛隊員や防衛省関係者も使っています。
自衛隊には他にもF-15「イーグル」、AH-1「コブラ」、E-2「ホークアイ」、CH-47「チヌーク」など、アメリカ生まれの愛称を持つ航空機が多くあります。
戦闘機に「栄光」ヘリに「はつかり」 実は存在する自衛隊機の…の画像はこちら >>F-104J戦闘機の編隊飛行。世界的には「スターファイター」という愛称で呼ばれるが、自衛隊は独自に「栄光」と名付けていた(画像:航空自衛隊)。

一方、F-2戦闘機やブルーインパルスにも使われるT-4練習機などの国産機、KC-767空中給油機のように米軍での採用実績がない機種の多くには愛称がありません。
ところが、いまから60年ほど前、1960年代半ばには自衛隊機に日本独自の愛称を公式で付けていたことがあります。いったいどんな理由で付けたのか、そもそもどんな愛称だったか振り返ってみました。
発端は前回の東京五輪が開催される前年の1963(昭和38)年のこと。防衛庁(当時)は自衛隊機の愛称を募集し、集まった5700通のなかから選考しました。ただ、当時の新聞や雑誌などには一般募集した形跡が見当たらないため、対象を自衛隊や防衛庁関係者などに限定したのかもしれません。
当時は第2次世界大戦の影響がまだ色濃く、かつての軍隊をイメージさせる自衛隊に対する世間のイメージは決して良いものとはいえませんでした。そのため防衛庁では「国民に愛される自衛隊」を目指し、国民行事や映画撮影への協力、装備品展示などの広報活動に積極的に取り組んでいました。
おそらく自衛隊機の愛称付与もその一環だったのかもしれません。翌年の1964(昭和39)年1月8日には、防衛庁から「陸海空自衛隊機のペットネーム」として発表されました。
自衛隊で独自に「はつかり」という愛称を付けていたH-19ヘリコプター(リタイ屋の梅撮影)。
愛称は以下のとおりです。・戦闘機:F-104「栄光」、F-86D「月光」、F-86F「旭光」・ジェット練習機:T-33「若鷹」、T-1「初鷹」・プロペラ練習機&救難機:T-34「はつかぜ」、T-6(SNJ)「まつかぜ」、KM-2「こまどり」、B-65「うみばと」、SNB「べにばと」・観測・偵察機:L-19「そよかぜ」、LM-1「はるかぜ」・対潜哨戒機:P2V-7「おおわし」、S2F「あおたか」、・輸送機&水陸両用救難機:C-46「天馬」、R4D「まなづる」、UF-2「かりがね」・ヘリコプター:KV-107「しらさぎ」、S-62「らいちょう」、H-21(V-44)「ほうおう」、H-19(S-55)「はつかり」、HSS-2「ちどり」、HSS-1「うみつばめ」、HU-1B「ひよどり」、H-13「ひばり」

このような形で、陸海空自衛隊が使用するほとんどの航空機に対してなんらかの愛称が付けられたのです。
命名基準や対象機種に不明な点が多いものの、親しみやすい「鳥」に由来するものが多い傾向が見て取れます。一方で、スピードと火力を誇る戦闘機には「光」、おとなしいプロペラ練習機には「風」、対潜哨戒機には空から獲物に襲い掛かる「わし」「たか」などの猛禽類と、任務や機体の性格がイメージできるものもあります。
変わったところでは、航空自衛隊で初めて夜間要撃が可能となったレーダー装備のF-86D全天候戦闘機には「月光」という愛称が。これは、旧日本海軍の夜間戦闘機「月光」にちなんだのかもしれません。
しかしこの試みも、残念ながら浸透することはありませんでした。愛称発表のニュースは新聞には載らず、航空雑誌のニュース記事で紹介されたくらい。その後も『自衛隊装備年鑑』に記載される程度で、国民に馴染むことなく自然消滅していきました。
自衛隊で独自に「天馬(左奥)」「ほうおう(右手前)」という愛称を付けていたC-46輸送機とH-21ヘリコプター(リタイ屋の梅撮影)。
ところが、60年ほど前に誕生し、ほとんど浸透しなかった愛称が、いまだ生き残っている界隈があります。それはプラモデルの世界です。1980年代頃まで、国内メーカーの自衛隊機製品のパッケージや説明書には「栄光」「旭光」「若鷹」「しらさぎ」などの愛称が残されていました。

2021年現在においても海外メーカーが自衛隊機を発売する際、日本らしさを演出するためか、当時の愛称を書き入れた製品が見られます。いまでも根強い人気を誇るF-104「スターファイター」戦闘機の場合、航空自衛隊機版のパッケージにはあえて「栄光」の二文字が描かれている製品がいくつも見られます。
ちなみに自衛隊装備の愛称に関しては、2000(平成12)年ころにも陸上自衛隊が一般公募の愛称を付けたことがあります。89式小銃「バディ」やOH-1ヘリコプター「ニンジャ」、高機動車「疾風(はやて)」、155mmりゅう弾砲FH70「サンダーストーン」、87式偵察警戒車「ブラックアイ」など。しかしこちらもほとんど使われていません。筆者(リタイ屋の梅:メカミリイラストレーター)は面白いと思うのですが、自衛隊員ですら使わなければ広く浸透することなどありえません。愛称の知名度は製品の普及率などにも左右されるため、なかなか難しいものです。

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