トイレ界のスタバを目指す! 東南アジアに広がる「1回33円」の有料トイレ

長引くコロナ禍により、より一段と“清潔さ”が重要視されるようになった昨今。タイ、ベトナムでは、徹底した清掃により「安全・安心」な環境を整えた有料の公衆トイレが、地元民から人気を呼んでいるという。

手がけるのは、2015年にスイスで誕生したスタートアップ「Mister Loo(ミスター・ルー)」で、同国のUBS銀行に勤務していたAndreas Wanner(アンドレアス・ワナー)氏とDominik Schuler(ドミニク・シューラー)氏が共同創業者だ。

2人は「トイレ界のスターバックスになる」とのビジョンを掲げて創業し、現在までにタイに40カ所、ベトナムに3カ所、インドネシアに2カ所をオープン、フィリピンでも近々オープンを控える。共同創業者の2人に起業の背景やビジネス戦略を聞いた。

最高レベルの清潔さを備える2種類のトイレ
ミスター・ルーが提供するトイレは、「プレミアム」と「レギュラー」の2種類があり、前者は0.3ドル(約33円)、後者は0.15ドル(約16円)の使用料がかかる。

プレミアムは、高品質なセンサー付きの衛生用品をはじめ、最先端のデザインを採用。エアコンによる最適な温度管理とフローラルな香り、BGMには地元の人気曲を流して心地よさにこだわる。ティッシュや除菌剤といったアメニティーのみならず、身長・体重・BMI・体脂肪・血圧を測定できる健康チェック装置とシャワー室まで完備する。

レギュラーは、最高レベルの衛生状態を保ちながらも機能は限定的で、アメニティーは最小限に。エアコンはなく、代わりに換気システムが設置されている。いずれもプロの清掃員を配置し、顧客がトイレを利用するたびに念入りに清掃するため、誰かが汚した状態のトイレを利用することはない。

「当社のトイレは、一般的な公衆トイレと比較して清潔さや付加価値が明らかに上回っている」とワナー氏は言う。

実際、タイやベトナムをはじめとした東南アジアでは、管理が行き届かず衛生状態が良くない公衆トイレも少なくない。また、便器に足を乗せて座るなど、環境衛生へのリテラシーが低い市民や観光客がいることから、トイレが汚れやすい点も否めない。だからこそ、より良い公衆衛生を求める市民から、同社の有料トイレが選ばれているのだ。

「利用料金は、観光客だけでなく地元住民にとっても十分に手頃です。現状、当社のお客さまは80~85%が地元民で、海外からの旅行者や観光客は15~20%程度です」(シューラー氏)

同社のトイレは1日に約1万2000人が利用し、20年は前年の利益を上回る実績も出ているそうだ。

環境にやさしい先進的な排水システムを利用
同社のトイレは、ショッピングモールや駅構内に設置する固定式のタイプと周辺環境を選ばずに設置できるプレハブタイプが存在する。後者は、各国のパートナー企業に依頼して90%の完成度まで建設、その後はそれぞれの設置場所に輸送して、わずか数日で設置することができるそうだ。

先進的な排水処理システムを持つパートナー企業との連携により、汚水は各施設内に設置された環境にやさしいリサイクル浄化槽で処理される。バクテリアが固形物を消化し、無臭で清潔な水に浄化された後、公共の排水システムに送られる仕組みだ。迅速に設置可能なこのシステムも、同社の急速なビジネス拡大に必要不可欠なのだろう。

各国の排水規制を満たした同社の排水システムは、環境や公衆衛生に害を与えないという証明が得られているが、東南アジアでは、未処理の排水が公共の水域に流れ込むことがいまだ少なくないという。

「東南アジアの排水の課題は当社としては受け入れがたいものですが、現時点ではそれが現実です。私たちの最優先事項の一つは、持続可能性を追求すること。現在は、排水を再利用可能な状態に処理するための高度な排水システムをテストしている段階です。最終的には、水資源のリサイクルや尿を肥料にするなどのアップサイクルによって、循環型経済を実現することが目標です」(ワナー氏)

トイレ界のスタバへ。約3億円の資金調達も実施
創業者のワナー氏とシューラー氏は、ともにスイスのUBS銀行出身の銀行マン。あえて高給取りの職業を手放し、異業種に挑んだ理由とは――?

「銀行員として、短期間でさまざまなスキルを積むことができましたが、私たちには起業家精神や経営陣のリーダーシップの質が欠けており、リスクを取ってでも起業に挑戦したいと考えました。具体的、かつ日常の基本的なニーズに基づいた大きな消費者市場で未開拓のビジネスの可能性を探っていて、ひらめいたのが東南アジアでのサニタリービジネスです」(ワナー氏)

ワナー氏は、東南アジアを旅行していた際、整備されていない古く汚い公衆トイレに多く遭遇。そこではサービス料を支払うのが一般的だった。帰国後、詳しく調査してみると、すぐにこのビジネスのポテンシャルに気付いたという。

銀行員時代、2人はともにアジア市場に関連するビジネスに携わった実績があり、前職で培った国際的なビジネスネットワークと財務スキルも、異業種でのビジネス拡大に大いに役立っているそうだ。

「創業からこれまでに約280万ドル(約3億900万円)を調達し、現在も1000万ドル(約11億円)を上限とした資金調達を進めています。財務のバックグラウンドにより、調達だけでなく、効率的な資本の配分ができていることも当社の強みです」(シューラー氏)

同社は、「トイレ界のスターバックスを目指す」と強い意欲を見せる。

「スターバックスは、コーヒーの価値を高める革新的な技術、魅力的なデザインと店舗の雰囲気、そしてフレンドリーなスタッフによって、独自の優位性を持つブランドに成長しています。同様に、当社でも独自性の高いユニークな顧客体験を提供し、大規模な店舗ネットワークと強力なブランドを構築したいと考えています。そうすれば、公衆トイレのイメージと人々の行動を変えることができるでしょう」(ワナー氏)

遠隔医療や尿検査。ヘルスケアセンターの展望も
設立当初、ミスター・ルーは観光客の利用をターゲットにしていた。パンデミックにより観光客は激減したが、人々の衛生への意識が高まったことから、市民の利用増により同社のトイレ利用率は全体的に上昇しているという。

「新型コロナの流行が始まった当初、政府の規制により多くの公共施設が閉鎖されたため、短期的にはマイナスの影響がありました。しかし、再開後は利用者が増加、抗菌作用にすぐれた表面を持つ国際的なブランドの機器も導入し、より安心してご利用いただける環境を整えました。3月にはインドネシアとフィリピンへの進出も達成しました。2021年末までに120カ所に拡大することが、現時点の目標です」(ワナー氏)

一定回数の利用者は無料になるリピーター向けのロイヤリティーも用意。また、市場やショッピングモール内に設置されたトイレでは、施設側が利用料を支払うことで、その施設のスタッフや来場客が無料で利用することもできる。

「会場の所有者(民間企業や公的機関)に対しては、2種類の協力モデルを提供しています。一つは、貸し出されたエリアの固定レンタル料を当社が毎月お支払いする契約、もう一つは、アップサイドビジネスの可能性から利益を得たいとお考えのオーナーに向けた、月々の利用者数によって分配額が変動する利益分配契約です」(ワナー氏)

設置地域・数の拡大と同時に同社が見据えるのは、将来的なヘルスケアセンターへの機能拡張だ。遠隔医療サービスや尿検査をはじめとした健康診断の提供を見込んで、アプリケーションやIoT技術を使い、オペレーションのモニタリングや効率化の推進、電子決済機器や施設に置かれた健康機器から顧客データの取得を実施しているそうだ。

「日本は世界でもっとも清潔な公衆トイレが整備されているので、日本でのサービス展開の予定はありませんが、他のアジア諸国では大きなビジネスチャンスがあると考えています」(ワナー氏)

日本以上の“おもてなし”を、東南アジアで広げようとしている。

(小林香織)

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