日本進出7年で売上200億突破のアンカー・ジャパン、“成功の裏側”と多ブランド戦略の意図

Anker(アンカー)グループといえば2011年創業ながら、今やモバイルバッテリー等のチャージング関連製品を主軸としたメーカーとして、世界規模の知名度を誇るまでに成長したモンスターメーカーだ。日本法人であるアンカー・ジャパンは13年に設立。同年は約9億円だった売り上げも18年には約200億円を突破と、7年間で20倍以上に急成長し、日本国内でもデジタル関連機器のトップメーカーとなった。

チャージングブランドの「Anker」に加え、16年には家電ブランド「Eufy(ユーフィー)」を設立。そのほか、オーディオブランドの「Soundcore(サウンドコア)」、スマートプロジェクターブランドの「Nebula(ネビュラ)」など、次々と新ブランドを展開し、活動の幅を広げ続けている。

ここでは同社の急成長の秘密に加え、次々と新ブランドを展開する戦略と展望についてアンカー・ジャパンの猿渡歩COOに話を聞いた。

「当たり前のこと」をして積み上げた実績
――アンカー・ジャパンがトップメーカーとして日本国内で認知されるまで本当に短期間でしたが、その理由はどこにあるのでしょう

まずひとつは環境要因だと感じています。日本法人の設立当時は、スマートフォンの周辺機器というカテゴリーの市場がとにかく右肩上がりで伸びていました。そのなかでも、モバイルバッテリーというカテゴリーには勢いがありました。

当初我々は、製品を主にAmazon.co.jpで販売していたのですが、当時はAmazon.co.jp自体の販売規模も急激に大きくなっている時期でした。このような環境要因をしっかりと捉えてビジネス戦略を設計したのが最大の要因だと考えています。

なぜ日本でトップのチャージングブランドになれたかといえば、ロジカルに考え、「当たり前」のことを着実に積み重ねていったからという回答に尽きます。例えばAmazon.co.jpに出品したらまずプロダクトカテゴリーで1位を確実に取る。そうしたら次は充電器を出し、そのカテゴリーでも1位を取る……と、出した製品のシェアをしっかり勝ち取りながら、戦うカテゴリーを増やしていきました。

そしてシェアを取るためには、より良い製品を求めやすい価格で売る。マーケティングの基本である、いわゆる4P「プロダクト(製品)」「プライス(価格)」「プレイス(流通)」「プロモーション(販売促進)」が重要だと考えています。

――とはいえ、どの企業も4Pに関しては力を入れているはずです。その中でアンカー・ジャパンはなぜ突出した結果を出せたのでしょう

先ほど「当たり前のことを当たり前にすれば売れる」といいましたが、口でいうのは簡単ですが、正直ほとんどの企業が簡単にはできないと感じています。その理由の一つが意思決定のスピードです。

我々は当初、主な販売の場としてECを利用しましたが、ここはとにかく業界のスピードが早い。例えば、量販店だと棚割り(どの製品をどこへいくつ置くかといった陳列計画のこと)を1週間に1回も変えない場合もありますが、ECでは製品の売り上げランキングが1時間ごとに変わります。その変化に対し、きちんとリアルタイムで意思決定を行えるかどうかが重要だということです。このようなスピード感は、大企業には現実的に難しいところが多いだろうと想像します。

またAnkerグループでは、製品の開発・品質管理の担当者のほか、マーケティングやセールス、カスタマーサポートなど、製品に関わる上流から下流までのメンバー全員がAmazon.co.jpなどの製品レビューを含めたVOC(Voice of Customer)に目を通しています。さらにアンカー・ジャパンでは、事業部門のチームミーティングを週に1度開催しており、その最後にカスタマーサポートと一緒にレビュー件数の傾向やトレンドなどから、製品の動向をチェックする仕組みもできています。

この仕組みによって、星の付き方で売り上げを予測したり、初期不良の有無などをチェックできるため、特に新製品では重要になってきます。このように複数の部門が連携を取りながら、顧客の声との距離を近く保つ工夫も、大企業にはあまりないように感じています。

顧客の声の中でも、他国にはない日本特有のものと感じている点は、製品そのものの品質等にはあまり関わらない、箱が潰れているとか説明書に誤字があるといった部分なども、しっかり教えていただけることですね。

日本の場合、全てに不備がないのが当たり前です。それもあって、ネガティブなことがあったときだけレビューを書くという人も多い。とはいえ、日本でみなさんに認めていただくには、日本の顧客が満足するレベルでサービスを提供するしかありません。その意味でも顧客のレビューは、非常に役に立っています。個人的には、日本の顧客を満足させられれば、世界のどの国の人も満足させられると思っています。

直接顧客と向き合えるECでファンを増やす
――Ankerグループは時代に先駆けてDtoC(Direct to Consumer:小売店などを通さず、生産者が消費者と直接取引する販売方法)を軸にしたことが、トップブランドへ躍り出た成功要因だとよくいわれています

確かによくいわれますが、そもそもDtoCというのはこの数年の言葉です。さらにアパレル業界では、1980年代にアパレルブランドのGAPがSPA(Speciality store retailer of Private label Apparel:製造から小売までを自社で行うビジネスモデルのこと)を行っており、ある意味これもDtoCですし、広い視点で見ると珍しくない業態です。

ですので私としては、DtoCという形態自体の先駆けだとは思っていません。我々が創業した時点で、すでにAmazon.co.jpや楽天市場などのECプラットフォームは充実していたので、我々は、それを利用して製品を販売することにまずは全リソースを投入した、という流れでした。

もちろんECを利用したのは、参入が簡単という以外にも大きな理由があります。DtoCというと一般的に「メーカーが直接製品を売るから、中間に人をはさまず、結果としてコストを抑えられる」というメリットが注目されがちです。しかし我々にとって、コストよりも大切だったのは顧客との距離の近さ、つまりECのほうが製品やブランドの魅力を伝えやすいという一点に尽きます。

小売店だと店員さんが「おススメの製品はこれです」とか「今売れているのはコレ」といった説明をしてくれます。ですが店員さんも、全製品の細かな魅力まで網羅して把握しているわけではありません。あるいは製品の説明ができても、どういうブランドなのか、という細かな説明までを店員さんに求めるのは難しいことだと思います。

しかしスタートアップにとっては、「ブランドのファンを増やす」のは非常に重要な課題です。その点ECなら、我々が伝えたいことを伝えたい形で伝えることができます。その意味でも、大きな魅力がありました。

――ネット通販はアフターサポートが心配という風潮のなか、アンカー・ジャパンは従来からカスタマーサポートが充実している印象があります

カスタマーサポートというのは、ほとんどの企業ではコストセンター(売り上げを計上しない部門のこと)だと捉えられがちです。しかし、顧客の意見と最も接しているのはカスタマーサポートなんですね。カスタマーサポートに連絡する顧客は、ほとんどが不満を持っています。そして、カスタマーサポートとのやりとりで、どのような体験をするかがブランドの印象として残りやすい傾向があります。

カスタマーサポートの対応次第では、製品を1年使って壊れたけれど良い体験ができた、と思っていただけることもあります。逆に、よく分からないブランドのよく分からない製品を買って、壊れて電話しても通じず途方に暮れたとなれば、もう二度と買わない、と思うことでしょう。製品を購入する母数に対して1人というのは確かに小さいですが、購入者その人にとってはその1つの体験が、その製品、ひいてはそのブランドに対する評価になります。

そうした一つ一つの蓄積が、年間数十万件になり、年単位になると膨大に数になる。そしてブランドに対する信頼性にもつながっていきます。もちろん世の中には、海外の廉価製品をとりあえずECで売り、悪い口コミが増えればEC上の店舗を潰す……というような商売のやり方もあるでしょう。ですが100億円規模のビジネスを作ろうとすれば、ブランドを作らないといけませんし、そのためには顧客の一つ一つの「体験」をケアしていくことが大切だろうと考えています。

位置情報ゲームの「Pokemon GO」がリリースされたとき、あまりに大きな流行だったために、市場からモバイルバッテリーが一瞬にしてなくなってしまいましたが、当社は最後まで量販店に製品供給ができました。また品切れが続いた結果、値上げを行うメーカーもありましたが、アンカー・ジャパンは定価で売り続けた。これもブランドの信頼を失わないためです。信頼というのは積み上げるのは大変ですが、失うのは一瞬ですから。

試行錯誤で臨む、「多ブランド戦略」
――Ankerグループは家電やスマートホーム製品を展開する「Eufy」、オーディオブランドの「Soundcore」、モバイルプロジェクターの「Nebula」など次々とブランドを増やしています。Ankerで構築したブランド力がありながら、あえて新ブランドを立ち上げる理由はどこにあるのでしょうか

マルチブランド戦略はAnkerグループ全体の方針ですが、これについては新ブランドを作ったのが正しかったのか、今の私には答えがまだ出ていません。ただ、ブランドを分けた理由はもちろんあります。そもそもAnkerは今でこそスマートフォンを使っている多くに知っていただいているブランドですが、かつては最先端のガジェットなどが好きな尖った男性をメインターゲットとするブランドでした。

一方、Eufyのロボット掃除機を購入する層はDINKSだったり、導入の最終決定者が女性であることが多いなど、Ankerとはターゲットが明確に違います。そのため、ブランドを分けたほうが、製品のメッセージが伝わりやすいのではないかという仮説があります。

とはいえ、そもそもハードウェアというのは製品の品質や保証などの信頼性からブランド買いされることが多いですし、ブランドを分けたデメリットももちろんあります。ですので、最近は各ブランドの下に「By Anker」と入れるようにしています。

中途半端なやり方でもありますが、このあたりはまだ正解が分かっていないというのが正直なところですね。とはいえ、カテゴリーごとに各ブランドメッセージをしっかり伝えるというのは、引き続き大事にして行っています。

――そもそもバッテリーブランドとして認知されていたAnkerが、家電を開発したのはなぜなのでしょうか

Ankerグループのコーポレート・ミッションは「Empowering Smarter Lives」。ハードウェアを通じて人々の生活をスマートで豊かにするというものです。ロボット掃除機は家事の手間を減らすことで時間を創出し、生活を豊かにするという点でミッションに合致しています。

このコーポレート・ミッションを達成できる製品であれば、特にジャンルは限定していませんが、我々が持つノウハウで生活を豊かにするために何が作れるかを追求したところ、イヤホンやロボット掃除機、プロジェクターになったということです。

ただし我々は、やみくもに製品を増やしたいのではなく、そこには「生活」に根差した製品という軸があります。先ほどコーポレート・ミッションの説明で「ハードウェアで……」とお話したとおり、枕や洋服を作る予定はありません(笑)。

――とはいえ、これまでと全く違うジャンルだと、例えばロボット掃除機などは、すでに知名度の高いライバルも存在します

ここは私個人の考えをお答えしますが、ハードウェアのジャンルにも競争相手が多いレッドオーシャンと新規開拓してくブルーオーシャンがありますが、レッドオーシャンで勝つ方が効率が良いと考えているのです。

その理由として、ハードウェアで新規参入する場合に多い失敗に「ブルーオーシャンだと思って飛び込んだらそもそも海なんてなかった」というものがあります。画期的で便利な製品でも、結局は市場が熟成されるほどのユーザーニーズがない場合があります。市場がないと、どうにもならないんです。

一方、イヤホン市場はすでに多くのライバルがいますが、我々は後発参入ながらAmazon.co.jpでシェア1位を取っています。市場があるところでしっかり勝っていくことが大切だということです。

やり方は非常にシンプルで、同じ品質のものをより安い価格で提供するか、同じ値段でより良い製品を開発することです。販売チャンネルが同じなら、これで売れるはずだと。あとはプロモーションで、差を補う。最初にお話した4Pを愚直にやっていけば勝てるはずだと考えています。

ただし重要な前提として、我々は伸びている、もしくは今後伸びるマーケットにしか製品展開をしません。例えば、少し前までAnkerはmicro USBケーブルでトップシェアを獲得していましたが、現在はUSB Type-Cが取って代わったため、micro USBケーブルの新製品は一切作っていません。過去に1位を取ってもしがみつくことなく、市場のトレンドに合わせて即座に対応します。これはより便利な製品をより多くの人に届けるためにも、企業として必要な判断だと信じています。

自社製品の魅力を、存分に伝えられる直営店
――最近はネットの他、直販店やコンビニでの販売など、実店舗での販売も目立ちます

18年に当社はAmazon.co.jpや楽天市場、Yahoo!ショッピングといった大手ECプラットフォームを中心としたオンライン販路で、取り扱いのある製品カテゴリのほとんどでシェア1位を取ることができるようになりました。そして14年ごろから徐々に拡大してきた量販店や携帯キャリア、バラエティーショップといった実店舗での販売網もある程度整ってきました。

その後、どういった販売チャンネルを増やすかを考えたときに、直営店というアイデアが出てきました。理由としては、ロボット掃除機やプロジェクターといった、複雑で高額な製品が増えてきたためです。

モバイルバッテリーは安価な製品が多いジャンルのため、Ankerが参入する前までは「ブランドで選ぶ」という傾向は、あまりありませんでした。みなさんも3000円くらいのバッテリーなら、スペックを比較してより手頃なものをオンラインでサクッと買ってしまうという経験がおありだろうと思います。

しかしロボット掃除機やプロジェクターなど3万円以上というような製品となると、それほど検討せずオンラインでサクッと買うという人はほぼいません。そういったときに直営店があれば、実際に製品に触れたり試したりできますし、スタッフもアンカー製品に精通しているのでしっかり説明できる。

もちろん単純にPRという側面もあります。日本の一等地に看板を出すとなると大きなコストがかかりますし、気軽に撤退できません。そういった点から(本拠地が米国にあるアンカーが)日本でしっかりコミットして商売をするという意思表示の意味もあります。

またAmazon.co.jpや楽天市場などのECでハードウェアを購入される方は、ほしい製品やテクノロジーに対して一定の知識をお持ちの人がほとんどです。例えば、ネット上にある製品比較表を見て、この製品は出力20Wで、あっちはUSB PD対応……と、機能や性能を理解し、自ら選べる人はECでいいと思います。

しかし世の中には、そもそも何を比較すべきか分からない、出力という言葉の意味も分からないという人も少なくありません。こういったユーザー層にもリーチし、製品の魅力を丁寧に説明できるのが、直営店なのです。

また「キャンプ」や「防災」などのシーン別に製品を展示したり、リビングを再現してNebulaのプロジェクターでテレビを100インチの大画面で楽しむなど「この製品で何ができるか」を分かりやすく提案できるのも直営店ならではの良さですね。製品の機能や性能に詳しくない人にとっては、細かなスペックよりも「何ができるか」を伝えることが重要だと考えています。

直営店ならではの良さをさらに追求したいとの思いから、当社ではアンカー・ストア株式会社という、子会社を4月1日に設立します。今後は直営店を通じて「当社の製品でできること」を、機能や性能に詳しくない方々にもより一層訴求していきたいですね。ハードウェアを通じて人々の生活をスマートで豊かにしたいという、コーポレート・ミッションをさらに実現していければと考えています。

(倉本春)

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