「THE MODEL」型営業組織の落とし穴 「自社にあったTHE MODELを作る」が失敗しがちな理由

法人向けの営業・マーケティング部隊の体制を作る時、「THE MODEL」を参考にする企業は多い。THE MODELとはセールスフォース・ドットコムの日本法人で福田康隆氏を中心に実践された組織戦略・運営のフレームワークの名称だ。2019年に発売された同氏の書籍『THE MODEL』(翔泳社)により、SaaS企業を中心に一気に認知度が高まった。

「営業部隊をマーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスの4部署に分けて運営する体制」というのが一般に認知されているTHE MODELの解釈だ。この体制をそのまま取り入れようとする企業や、少しアレンジをして「自社にあったTHE MODELを作ろう」と考える企業は多い。

しかし、筆者はTHE MODELを通して事業運営のリーダーが理解すべきポイントは別にあると考えている。なぜなら「社内の組織体制を作ること」自体は目的たり得ないからだ。

本記事ではTHE MODELの解釈を中心に、営業・マーケティング部隊の組織を改善して事業を成長させるために必要な考え方を紹介する。

「営業部隊を4部署に分けて運営する体制」が生まれた背景
「営業部隊を4部署に分けて運営する体制」が生まれた背景を簡単に振り返る。この体制が登場した背景の一つがサブスクリプション型サービスの台頭だ。

サブスクリプション型とは、サービスの利用期間にわたって一定の金額を払い続けるサービス体系のことで、初期費用および解約コストの両方が低いのが最大の特徴だ。「始めやすく辞めやすい」ので、サービス利用者側にとってのメリットは大きい。

その市場規模は19年で6839億円、さらに24年には1兆2117億円と約1.8倍になると予測されている(矢野経済研究所「2020 サブスクリプションサービスの実態と展望」)。

代表的なサービスに、法人向けであればSalesforceやSansan、個人向けであればSpotifyやNetflixなどがある。

サブスクリプション型サービスを提供する場合、事業者側では投資回収期間が長期化する。顧客が契約を更新し、ある程度継続利用することを前提としているため、初回契約だけで解約してしまうと赤字になることも多い。そのため、いかに解約を防いで継続利用をしてもらうかが、経営課題となる。

この背景から生まれたのがカスタマーサクセスだ。従来、契約後は営業のフォローと問い合わせへの受動的サポートが一般的だったが、積極的に利用継続を促す活動が必要になってきた。そこで契約の獲得が主軸任務である営業とは別に、能動的に顧客のサービス利用を促す専門チームが立ち上がり、カスタマーサクセスと呼称されるようになったのだ。

サブスクリプション型の普及は、契約後のサポートだけではなく営業フローにも影響を与えた。

始めやすく辞めやすい形式のため、問い合わせの数が多くなった。またオンラインでの情報収集が普及したことにより、顧客が営業担当と直接やりとりをしないで検討する機会が増加・長期化している。

そのためマーケティングや営業の役割の他に、大量のリード(顧客情報)を効率的に見極め、かつ長期的に顧客とコミュニケーションをとるチームが必要となり、それがインサイドセールスと呼称されるようになった。

以上の背景からマーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス(=従来の営業の分業化)、カスタマーサクセスという4チームで事業運営するスタイルが生まれた。今では職種ごとの求人も増え、各領域のイベントが実施されるなど、専門性の高い情報交換の場が生まれている。

「自社にあったTHE MODELを作る」という発想の落とし穴
THE MODELの書籍と、そこに書かれたフレームワークが広く知られたことで、営業部隊を4部署に分けて運営する体制をそのまま自社で導入しようとする企業が増えている。しかし、書籍で展開されている体制や施策をそのまま自社にあてはめてもうまくいかないことが多い。なぜなら企業ごとに提供サービスや対象とする顧客、何より自社内の組織文化が異なっているため、各社で目指すべき、あるいは目指しうる理想像がそもそも違うからだ。

そういった流れを受けて今度は「自社にあったTHE MODELを作ろう」というスローガンが掲げられることが増えてきた。書籍の体制をそのまま取り入れるのではなく、自社にあったカスタマイズを行おうという転換だ。それ自体はとても好ましい変化だろう。ただし、言葉の意味そのままのスローガンでは、ある重大な観点を見落としがちになる。それは「社内の組織体制を作ること」自体は目的たり得ないということだ。

チームを立ち上げることが目的化してしまったり、チームの型と業務から入ってしまうことで負担ばかりが大きくなったりする場合も多い。例えば「取りあえず今までカスタマーサポートだった部署をカスタマーサクセスという名前に変えました。何をやるかはこれから考えます」というような立ち上げ先行型の企業を目にすることは少なくない。

顧客行動によって変化するボトルネックの見極めを
では、どのような観点を持つべきだろうか。

重要なのは「顧客行動に応じて変わるボトルネックを素早く特定し、根本原因となる部分から改善し続ける」意識だ。チームの役割などに目が行きがちだが、THE MODELの分業体制が登場した背景を見ても明らかなように、大切なのは時代により変化する顧客の行動にあった体制を作り、効率的に事業を拡大することだ。

特に顧客との関係性が長期化し、チャネルも多様化している中、事業にとって「変数となる要素」はこれまでよりも増えている。

例えば問い合わせがあった顧客に対して、短期的に商談を行うだけではなく、一度失注したとしてもその後の見込みがある場合にはメールや資料による最新事例などの情報提供を欠かさず行い、再度検討いただけるタイミングを見計らってアプローチするといった活動が必要になっている。

そうすると変数としては獲得する問い合わせリード数・商談化率に加えて、ナーチャリング(育成活動、メールやセミナーで顧客の関心を高めること)での接触率・そこからの再商談化率・商談化までの平均期間なども考慮する必要がある。

このように変数が多様化すると、事業の数値が伸び悩んだときにどこにボトルネックがあるのかを特定するのが困難になってくる。新たな競合商品が出たのかもしれないし、営業のアプローチ効率の問題、もしくは契約した顧客の解約率が高まっているのかもしれない。問題や変化が発生したときに、どこが注力すべきボトルネックか、それを解決するためにどうすればいいかを判断し続け、休むことなく次の一手を打ち続ける必要があるのだ。

こういった状況に変化する過程での一つのフレームワークがTHE MODELだ。同書籍の中でも「最もやってはいけないことは、部門ごとに『課題を解決せよ』と言うことだ」と紹介されている。まさにその通りで、事業成長を先導するためには、全体を視野に入れてボトルネックの特定と改善をすることが肝心だ。そしてそのボトルネックの可視化と改善主体の明確化が容易なモデルの一つとして、THE MODELという分業形式があるという構造なのだ。

そのため自社で考える際には「自社にとっての事業の変数は何か、それをスピーディーに可視化しボトルネックを特定して改善の手を打ち続けるには、どのような体制が最適か」ということを考え続ける必要がある。また体制は一度作って終わりではなく、市場や競合環境、自社の体制に応じて柔軟に変化させていくものでもある。だからこそ、一度で作って終わりという意識ではなく、休むことなく変化させるべき点がないか考え続ける姿勢が重要になってくる。

「分業」ではなく「連携」を大切に
THE MODELは分業による効率化に主眼が置かれがちだが、長期化するカスタマージャーニーに組織として対応するという側面を忘れてはならない。長い顧客との関係性をどのように複数部署が連携して作りあげるか、そして各チームがシナジーを生む仕組みをどのように作るかという観点が重要だ。

THE MODELの分業体制では、一つの部署のKPIが隣の部署の活動の分母になっているので、無配慮に体制図やKPIだけを導入してしまうと部署間の対立やサイロ化、ひいては他責思考がまん延し事業成果の低下にもつながりかねない。確かに試行錯誤の過程で、ある程度の部署間対立が起こることは否定しないが、その未来を予測した上で先手を打てるかどうかで事業の成長角度は変わってくる。

連携において大切なのは「共通の目標を追うこと」そして「互いを見ずに顧客を見よ」だ。お互いのKPIがともすれば相反関係になりやすいなかで、共通の目標なくして連携や協同はありえない。共同で売上目標を背負ったり、カスタマーサクセスでの成功事例がマーケティングに還元される仕組みなど、相互に連携しあうことが各チームのメリットになるような目標設計を行うのが事業を率いるリーダーの仕事だ。

もう一つの根幹は顧客理解である。チームごとに異なった見方で顧客理解をしていては、長期的な関係性構築には程遠い。連携というと互いのチームの人間や活動を見がちだが、社内の視点にとどまらず顧客理解の活動を続ける必要がある。全チームでの導入顧客インタビューやそれらの一次情報の情報シェア、一緒にカスタマージャーニーを描く機会を持つことなどが有効だ。

表面的な体制論にとらわれず、顧客行動に応じて変化するボトルネックを見極めて改善し、チームメンバーの連携を促す心構えができれば、あとは実践あるのみだ。ぜひ、自社のサービスと顧客、そして組織特性を理解して事業拡大に取り組んでいってほしい。

著者紹介:礒野亘(いそのわたる)
株式会社ビービット カスタマーサクセス

京都大学経済学部を卒業後、ビービット入社。コンサルタントとして教育・メディア・金融など50以上の企業でUX改善・成果向上に従事。その後、UXコンサルティングプロジェクト責任者を経て2018年よりUXチームクラウド『USERGRAM』のカスタマーサクセス立ち上げ・運営に携わる。累計300社以上のUX企画推進・人材育成を支援し、2021年よりインサイドセールス責任者。

株式会社ビービット:https://www.bebit.co.jp/

Twitter:@wataridori89102

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