森口将之のカーデザイン解体新書 第41回 ホンダ「ヴェゼル」のデザインが激変した理由

ホンダがコンパクトSUV「ヴェゼル」の新型(2世代目)を発表した。なによりも目を引くのは、現行型の面影をほとんど残さないスタイリングだ。現行型はかなりのヒット作なのに、なぜデザインを一新したのか。インテリアやカラーを含めて報告しよう。

7年間で約380万台のヒット作、変貌をとげる
「ヴェゼル」がデビューしたのは2013年12月。「Bセグメント」と呼ばれるコンパクトカーのカテゴリーに向けてホンダが送り出したSUVだった。

初代ヴェゼルはコンパクトカーの「フィット」で実績を積んだセンタータンクレイアウト、つまり、前席下に燃料タンクを置くことで後部空間を使いやすくした独創のパッケージングを採用。そこにダイナミックなスタイリングを組み合わせたことで人気を集めた。日本国内では2014年から3年連続でSUV販売台数第1位を獲得。「HR-V」の名前で展開した海外向けを含めた累計販売台数は380万台以上に達している。

そんなヒット作の新型が2月18日にワールドプレミアを迎えた。まだボディサイズや価格はわからないが、事前説明会では実車が披露されるとともに、デザインやパッケージング、パワートレインなどについての説明があった。

現在のユーザーには、いいものを作るだけではなかなか選んでもらえない。そんな考えからホンダは、新型ヴェゼルを開発するうえで改めて「ホンダらしさ」に着目。身近でありながらスマートで、ワクワクがあるというホンダのブランド価値に、先進安全や電動化といった新しいニーズを融合していくこととした。

そこから導き出したのがグランドコンセプトの「AMP UP YOUR LIFE」(AMPはamplify、つまり増幅するという意味)だ。「信頼」「美しさ」「気軽な愉しさ」という3つのテーマが増幅していくようなクルマ、使いこなしていくことでライフスタイルが広がり、体験が生まれ、日常が豊かになるようなクルマ、そんな姿を目指したとのことである。

この方向性に基づいて描かれたエクステリアデザインは、写真でおわかりのとおり激変した。売れていたクルマの形をなぜ、ここまで変えたのか。エクステリアデザイン担当の阿子島大輔氏に聞いた。

スタイリング一新の理由
「現行型の延長線上では、これからの時代のパートナーとして力不足ではないかと考えました。現行型もクーペスタイルと広い車内空間を両立していましたが、窓が小さめだったので閉鎖感もありました。後席の価値を上げることで家族や友人と長い時間を過ごしたくなるよう、水平基調としてルーフをあまりスロープさせず、リアまで伸ばしたフォルムにしました」

さらに阿子島氏の説明によれば、水平基調にはもうひとつの理由があるそうだ。現行型はノーズをスラントさせたモノスペース的なフォルムだったが、力強さや安心感を求める市場の傾向を考慮し、新型では明確なノーズと長いキャビンで要求に応えつつ、軽快感を表現するためにサイドシルは上げ、長くて薄いボディが浮いているような、これまでとは違うクーペSUVスタイルを提案したという。

その過程では、リアドアのオープナーをドアパネルに付けることも検討したそうだが、ここはクーペSUVのアイコンとして残した。しかしながら、現行型より位置を下げて、操作しやすくしているとのことだ。

ノーズについては、フロントウインドー下端を下げるとともに、ピラーを後方に移動させることで、視界の良さにも配慮した。運転席からエンジンフードが見えるので、取り回しがしやすいと感じるはずだという。

クリーンなフォルムや視界への配慮という要素は、2020年にモデルチェンジしたフィットとも共通する。この点を尋ねると、社内的にそういう方向性になっているそうで、乗る人に寄り添う存在として骨格をきちんと定め、視界を考えたうえで、シンプルに仕立てていくという手法は似ていると阿子島氏は話していた。

ただし、顔つきはフィットからの発展形としつつも、SUVらしさを盛り込んだとのこと。ボディ同色のグリル、彫りの深いヘッドランプ、ダイナミックに張り出したバンパー下部などを特徴としている。

リアはユーティリティを確保したうえでパーソナル感を出すべく、空力性能にも配慮したファストバックのシルエットとした。リアゲート開閉のボタンを、自然に手を伸ばした高さに設置したこともこだわりのポイントだ。

「現行型は当時のトレンドに沿って、ダイナミックなスタイリングに仕上げました。しかしながら今は、クルマが主役ではなく、お客様が主役です。クルマを使ってどういう生活をしたいかという体験的な価値を大事にして、主張は抑えつつ、存在感を出すという形を目指しました」。これが阿子島氏の総括である。

冒険心を刺激する新グレード「PLaY」
インテリアはHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)という考え方で、瞬間認知、直感操作にこだわった。メーターやディスプレイを高めの位置に置くことで視線移動を少なくし、スイッチは運転姿勢を崩さずに扱える場所に配置して、乗る人の所作を美しく見せることにも配慮したそうだ。

そのうえで、開放感がもたらす愉しさも表現している。水平基調のインパネはその具現化であり、左右のエアコンルーバーは乗員に風を直接当てず、風の膜を形成しながらリアに導くような仕掛けが込められているという。光と風を取り込むことができる大型パノラマルーフ(一部グレードで標準装備)は、開口部の形状にも配慮してある。

グレードはガソリン車が「G」の1グレード、ハイブリッド車が「X」「Z」「PLaY」(プレイ)の3グレードとなる。CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)担当の斧山真弓氏からは、ハイブリッド車の3タイプは上下関係を構成しているわけではなく、自分らしい選択をしたい人たちのためのバリエーション展開であるとの説明があった。

「Xは飾らないナチュラルテイストが持ち味で、べーシックな色と親しみやすいファブリックで構成しています。Zはクオリティにこだわった上質な仕立てで、エクステリアもボディサイド下端をグロスブラックとし、クロームメッキを各所に配することで華やかさを演出しました」

PLaYはその名のとおり冒険心を刺激するプレイフルなグレードで、遊び心を刺激する2トーンカラーとガラスルーフが特徴。とりわけ、トレンチコートをイメージしたという展示車両のサンドカーキは個性的なボディカラーだ。内外装にはホンダらしさを表現するトリコロールのアクセントを加え、グレージュとブラックの2トーンインテリアはリボンでアクセントを付けた。

「ホンダでトリコロールというとモーターサイクルをイメージする方もいるかもしれませんが、コーポレートカラーは白地に赤ですし、米国は4輪車が青、2輪車が赤をイメージカラーとして使っています。こうした経緯からトリコロールとしました」(斧山氏)

メカニズムについても少し説明があった。パワートレインはガソリン車が1.5L自然吸気、ハイブリッド車は同排気量のエンジンに2モーターを組み合わせた「e:HEV」となる。ハイブリッド車が主力であることは、グレード構成を見ればお分かりだろう。

車載通信モジュールを搭載して緊急通報やスマートフォンによるエアコン操作などを可能とする「ホンダコネクト」、先進運転支援システムの「ホンダセンシング」はすべてのグレードに標準装備とするなど、装備もハイレベルだ。

新型ヴェゼルは日本では2021年4月に正式発表・発売の予定。最近のカーデザインのトレンドにもなっているシームレスなスタイリング、フレンドリーなインテリアには、現行型に対しては二の足を踏んでいた人も興味を抱くのではないだろうか。

森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら

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