映画「えんとつ町のプペル」を大ヒットに導いたオンラインサロンは信者ビジネスなのか?

2020年、映画版「鬼滅の刃」が記録的な大ヒットを飛ばし社会現象を巻き起こしたが、現在話題となっているアニメ映画がもう1つある。「えんとつ町のプぺル」だ。

20年12月に公開されると、累計動員数140万人突破、興行収入20億円に迫るなど、コロナ禍の中では異例と言える大ヒットだ。何度も映画館に足を運んだ人が「3プペ」「5プペ」などとSNSでつぶやいた事も話題になった。この作品の原作は16年に発売された絵本「えんとつ町のプペル」だが、絵本の制作から映画の脚本、プロデューサーまで手がけたのがお笑い芸人の西野亮廣氏だ。

そして映画がヒットした背景には、西野氏が率いる「オンラインサロン」がある。7万人以上が参加するオンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」は映画のヒットにも寄与したといわれているが、サロンを活用した集客・マーケティングは賛否も呼んだ。

話題になりつつある一方で、「信者ビジネス」「情弱ビジネス」と批判も受けるオンラインサロン。Webマーケティングの業務に携わり、サロン運営にも関わる筆者の立場から熱狂的なファンを生むオンラインサロンビジネスの実体に迫ってみたい。

オンラインサロンとは何か?
オンラインサロンの仕組みはさほど複雑ではない。サロンの参加者は毎月会費を払い、参加者だけが受けられるサービスを利用する。サービスの内容は会員限定のコンテンツ(テキストや動画やセミナーなど)や、相談・コンサルティングを提供するサロンもある。

ファンクラブや勉強会、スポーツジムなど既存の仕組みをオンライン化したものがオンラインサロンである、と説明すれば分かりやすい。現在ではタレントやビジネス分野の有名人、いわゆるインフルエンサーと呼ばれる人たちがサロンを運営していることが多い。

有料のオンラインサロンの運営には課金の仕組みが必要なことから、課金プラットフォームが利用される。現在はクラウドファンディング大手CAMPFIRE(キャンプファイヤ)のCAMPFIREコミュニティ、DMM.comのDMMオンラインサロンが大手のオンラインサロン運営サイトだ。昨年からはコンテンツ販売のプラットフォームであるnoteでも、サークルという名称でオンラインサロンを運営する仕組みが開始された。

課金をこれらのサイトで行い、会員とのやり取りや情報提供はFacebookの「Facebookグループ」という機能で行うサロンも多い。非公開の設定にすることで課金している会員だけが閲覧・コメントできる。

西野氏のオンラインサロンもこういった仕組みだが、新しい仕組みで外部から何をやっているか分からないこともあってか、批判されることも多い。特に多い批判が信者ビジネス、情弱ビジネスといったものだ。

オンラインサロンの最終形態は、まさに「信者ビジネス」
実は筆者自身、オンラインサロンに入ったことを公言した際に「何か変な宗教にでも入ったのかと思った」と知人に心配された経験がある。

「えんとつ町のプペル」の映画化に際して、西野氏のオンラインサロンのメンバーは積極的にその実行と拡散に協力していた。前売りチケットを何十枚も購入して売り歩いたり、1人で何度も映画を見に行ったりという報告がSNSでも散見された。

はたから見るとサロンにお金を払っている「客」なのに、なぜ映画や西野氏のためにそこまで頑張るのか? いいように使われているだけじゃないのか? と思うのもおかしくはない。それが信者ビジネスや情弱ビジネスという批判につながっている。

とはいえ、熱狂的なファンを作りビジネスを動かしていくやり方は、実はブランドビジネスの王道中の王道でもある。信者ビジネスという表現はネガティブなイメージで使われるが、全てのビジネスの目指す先は熱狂的な顧客、別の呼び方をするなら信者の獲得だろう。

例えばブランド力の強い企業として名前が挙がるアップルやスターバックスコーヒーであっても、客は「他社のスマホと比べて機能が優れているから」「コーヒーが美味しいから」など論理的な理由だけでその商品やサービスを選んでいるわけではない。

アップルだから、スタバだから買う。これがまさにブランド力だ。

オンラインサロンは目的ではなく、手段である
西野氏の場合に顕著だが、彼の目的はオンラインサロンの会費で利益を得ることだけではないだろう。7万人におよぶ自身のファンや応援者をコミュニティに囲い込むことで、映画や絵本、イベントなどで必要なプロジェクトの資金調達や集客を容易にしている。

西野氏に限らず、主宰者が圧倒的な影響力を持つコミュニティにでは「主催者のために貢献したい」という参加者側の意欲が強い。それがクラウドファンディングの支援やボランティアスタッフとしての労働へ往々にしてつながっている。

ファンが集まることによって主宰者がより神格化されるという側面は否定できない。オンラインサロンはクローズドのコミュニティであり、似た価値観の人が集まりやすく、そのため「エコーチェンバー現象」が起きやすいからだ。エコーチェンバー現象とは閉鎖的な場でコミュニケーションが繰り返されることによって、特定の思想や考え方が強化される状況だ。

もし主宰者側が、サロンの参加者を金づるという意味で「信者」として扱っていれば問題だが、熱狂的なファンが信者となり、その人や商品を応援するという構図はいたってシンプルなビジネスの原理である。

あなたの周りにアップル信者と言われるような人はいないだろうか? このブランドの洋服しか着ないと公言する人はいないだろうか? 自身の生活を犠牲にしても歌手やアイドルを応援している人はいないだろうか?

彼ら・彼女らは客であるにもかかわらず、その良さを周囲に宣伝して回ることも珍しくない。信者ビジネスを「熱狂的な顧客を獲得しているビジネス」と定義するのであれば、問題があるどころかむしろ正しい手法ということになる。

オンラインサロン運営のメリット
こういったサロンビジネスのメリットに注目している企業もあり、筆者はそんな企業からオンラインサロンを運営したいといった相談を受けることもある。

オンラインサロンを運営する魅力は、何といっても継続的な売り上げを得られる仕組みと手軽さにある。参加者は毎月参加費用を支払い、退会しない限り、継続的に売り上げが発生するからだ。

一方で運営コストは、一般的なファンクラブや会員制度と比べてはるかに低い。現行のオンラインサロンの多くが、Facebookの非公開グループを活用したクローズドなコミュニティの形をとっている。このやり方ならば初期投資はゼロから始めることも可能だ。

「西野亮廣エンタメ研究所」の場合、月額980円で加入者は7万4000人(Facebookグループの参加人数より)。この全てが課金者だとすると、毎月の売り上げは7000万円を超える。ここから、決済の手数料や運営のための人件費等が引かれるが、これだけの売り上げが毎月継続的にあがるのだ。

加えて、顧客との関係を強化できるオンラインサロンはビジネスに役立つことは間違いない。では実際のサロンはどのようなタイプがあるのか?

オンラインサロン、3つのタイプ
オンラインサロンは「ファンクラブ型」「スキル/知識習得型」「同業者コミュニティ型」の3つに大別される。

「ファンクラブ型」として分かりやすいのが、芸能人やインフルエンサーが主宰しているものだ。オンラインサロンというとこの「ファンクラブ型」をイメージされることも多い。

先に挙げた「西野亮廣エンタメ研究所」をはじめ、堀江貴文氏の「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」(月額1万800円 約1100人加入)、ビジネスYouTuberとして人気を集める鴨頭嘉人氏の「Team Kamogashira Japan」(月額3000円、約700人加入)などがある。

ファンクラブ型のオンラインサロンは、サロン主である主宰者の情報にこそ価値がある。シンプルに「◯◯さんのことが知りたい」という人が参加するコミュニティだ。極端な例だが「今日食べた焼き肉が美味しかった」という話でも、オープンなSNSで語られていない情報は喜ばれる。

そんな情報にお金を払うなんてくだらない、搾取じゃないか、という人もいるだろう。しかし、タレントや有名人がSNSで近況報告をすることは珍しくなく、ファンにとっては意味のある情報だ。あくまで対象としているのはファンである。

もちろんこれらのサロン内では、それぞれの分野についての有意義なコンテンツ配信もされているが(後述するスキル/知識習得型としての要素)、彼らの圧倒的な影響力にお金を払っている参加者も少なからずいることは間違いない。

オンラインサロンのありがちな失敗例としては、主宰者がそれほどの求心力を持ち合わせていないにもかかわらず、個人の感想や、今日食べたものの話など日記レベルの発信をしてしまうことだ。手軽に月額課金を生み出せる一方で、飽きられてしまえばすぐに退会されるのもオンラインサロンの特徴の1つだ。

ビジネス系のオンラインサロンで行われていること
次に「スキル/知識習得型」。このタイプのサロンでは、主宰者そのものよりそこで提供されるコンテンツに価値がある。

例えばコンサルティング会社の経営者、山口義宏氏が運営する「マーケリアルサロン」(月額7800円 約300人加入)では、テーマがマーケティングに絞られている。山口氏は自身の著書もありビジネスマンとしても有名だが、サロンの紹介ページではハッキリと「マーケティングを学べる」という強みに焦点を当てている。

ただ、スキル/知識習得型のサロンをファンクラブ型のサロンと明確に切り分けることは難しい。初めはスキルを身につけたいと思って参加した人が、そこでのコミュニケーションを通じて主宰者のファンになることもあり得るし、もとからファンだった人が加入することもある。

Twitterで炎上キャラとして有名な田端信太郎氏が主宰する「田端大学」(月額9800円、約300人加入)は筆者も運営に協力しているサロンだ。インフルエンサーとしての田端氏にひかれて参加する人と、LINEやZOZOなどで培ったビジネススキルを学ぶために参加する人の両方がいる。

田端大学のコンテンツは複数あるが、メインのコンテンツは、塾長である田端氏が課題図書を選定してお題も設定し、参加者はお題に沿ってプレゼンテーションを行うというものだ。このプレゼン大会は毎月開催されてその様子は参加者全員がオンラインで視聴可能、MVP(1位)になるとその後の参加費は無料という賞品まで設定されている。

オンラインサロンは情弱ビジネスと揶揄(やゆ)されることもあるが、田端氏は「情弱ビジネスはやらない」と明言する。実際、参加者が最初の課題として行う自己紹介の書き込みに対して「あなたの価値って一体何? 全然伝わらない」「これであなたにお金払う人なんているの?」と、ファンクラブ的なつもりで参加した人ならば一発で心が折れるようなコメントをぶつける。

オンラインでピラティスを提供する「関清香オンラインピラティス道場」(月額5000円、約230人参加)の主催者である関清香さんは元々田端大学出身で、コロナ禍も影響してか開設当初から人気のサロンとなっている。関さんはサロン開設にあたって田端氏に相談をしたというが、サロンでの学びや運営を間近に見てきた経験も役立っていることだろう。

そして3つ目は「同業者コミュニティ型」。共通の業種、あるいは共通の趣味・嗜好(しこう)の人々が集まって形成されるコミュニティだ。この場合にはコミュニティそのものに価値があり、主宰者が誰かはあまり重視されない傾向がある。例えば、弁護士だけのコミュニティや、科学好きのためのコミュニティなどがある。

オンラインサロンでトラブル増加中?
オンラインサロンには、何かデメリットや問題点はないのだろうか。詐欺や悪徳商法に詳しいジャーナリストの多田文明氏によれば、国民生活センターへの取材でオンラインサロンに関するトラブルの相談は増加傾向にあることが分かったという。

多田氏が紹介するトラブルは、サロン入会時に高額な入会金を取られた、辞めたくても辞められない、知人を加入させると紹介料を払うサロンがあって強引に勧誘された、といった内容だ。

高額な入会金や辞められないといった条件については、一般的なオンラインサロンであれば入会金はゼロ、会費は数千円から高くても1万円程度、退会に条件がつくことも通常は無い。

紹介料については、タクシーアプリやウーバーイーツのようなデリバリーアプリでも友人・知人を紹介するとクーポンがもらえる仕組みがある。紹介料自体に問題はないが、それを目的に強引な勧誘をする参加者がいるようなサロンは問題だ。違法でなくてもこういった仕組みが嫌だという人もいるだろう。

いずれもオンラインサロンの仕組みに問題があるわけではなく、問題のあるサロンも存在している、といえる。

オンラインサロンのリスクとは?
しかし、これらのケースとは別の部分で、オンラインサロンはトラブルが発生するリスクをはらんでいる。

サロンの内容がつまらなかった、役に立たなかったということであれば、これも本やゲームがつまらなかった状況と同じで、問題があるとまではいえない。ただ「約束していたコンテンツが提供されない」というトラブルは起こり得る。

似た事例として「有料のメールマガジンで、毎週メルマガが送られてくるはずが月に一通しか届かなかった」といったトラブルがある。つまり約束していたコンテンツが提供されなかったというものだ。

オンラインサロンは個人が運営していることも多く、なおかつ気軽に始められる仕組みになっていることから、運営体制が整っていない事が原因のトラブルはあり得る。

これは小説や漫画や映画のように購入時に完成しているモノを買うのではなく、今後作られるテキストや動画などが定期的に届けられる、あるいは会員限定のセミナーやイベントに参加できる、つまり「契約時に完成していないコンテンツを将来にわたって継続的に購入する」という仕組みであるオンラインサロンの構造的なリスクだ。

田端大学であれば、主催者の田端氏が病気やケガで突然入院でもしてしまえば、これまで通りのサービスは提供できない。これは突然の中止もあり得るコンサートチケットと同じようなリスクだ。企業が組織で運営しているサロンならばこういったトラブルは起こりにくいが、それでもリスクはゼロではない。

利用者としても運営者としてもオンラインサロンには大きな魅力があることは間違いない。オンラインサロンというまだ新しいサービスが今後どうなるか注目したい。

(但馬薫/ウェブマーケター)

企画協力:シェアーズカフェ・オンライン

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