制作費を半分以下に? 100万回以上再生された「ジョブカン」CMの裏側

「ジョブカントラックやっと会えたよー!」「駅でジョブカン発見!」

SNS上でなにやら盛り上がりを見せる「ジョブカン」とは、株式会社Donuts(東京都渋谷区)が運営する、企業のバックオフィス業務を効率化するクラウドサービス。今年の10月より放映しているCMは、俳優の哀川翔さんと元NEWSの手越祐也さんを起用したことで話題になった。

実はこのCM、カメラ、美術、技術以外は全て社内で賄ったという。制作期間は3分の1にして、制作費は50%以上も削減。にもかかわらず、哀川さん、手越さんのコラボ動画も含めた総再生回数は100万回を超える、ハイコスパCM。マーケティング室長の千田拓さん、監督を務めた井上尚也さん、プロデューサーを務めた青木良憲さんにCM制作の裏話を聞いた。

テレビ局出身のスタッフだからこそ実現できたコストカット
――そもそもなぜCMを自社制作に?

千田: もともと動画やライブ配信に加えて、「自分たちで番組も作ろう」といった話があったんです。過去にもアイドルのPVやミュージックビデオを撮る機会があって、その際は外注していたのですが、内製化したほうがコスパがよく、相談もしやすいだろうなと考えていました。今年、業界経験者(井上さん、青木さん)がジョインしてくれたので、自社での制作を決めました。

井上: 僕は2年くらい前まで、テレビ局で働いていて、バラエティ、音楽番組、生放送、ドキュメンタリーなど幅広いジャンルの番組を作っていました。テレビ局を辞めてからはCMもいくつか制作してきました。CM業界って役割が細分化されていますが、僕の場合は、企画、脚本、監督、編集まで担当していました。テレビの世界だと、それが普通なんですよね。

青木: 以前、私もテレビ局で働いていまして、今回プロデューサーを務めさせていただきました。ドラマの場合、100人規模で作るケースが多いのですが、僕がやっていた再現ドラマは、4人くらいで作っていました。で、視聴率がいいこともあったので、「ドラマ制作って、たくさんの人が必要なのかな?」と思うことがありました(笑)

井上: 通常、CMは多額の予算を使って制作されています。われわれテレビ出身の人間からすると、「もっと低予算でも可能なのでは?」と思っていたんですよね。今回のCMはこれまでのものと比べて、半分以下の予算で制作できました。最初は10分の1くらいの予算で作れるかもしれないと思っていましたが、やはり美術スタッフや撮影班など外部の人のチカラは必要でして、ちょっとずつ単価は上がってしまいました。それでも、3パターン5シリーズ作ることで、一本当たりの単価は本当に破格です。

社外調整がなくなり時間短縮
――今回のキャストは、どのように決められたのでしょうか?

千田: 哀川さんは、当社の他サービスでお付き合いさせていただきました。認知度調査をしたところ、99%が「哀川さんの名前も顔も知っている」という結果が出たので、お願いしました。もう一人はSNSに強い人がいいと考えて、手越さんに決めました。

青木: 8月初旬に「CMをやりたい」と話して、哀川さんと手越さんのスケジュールを調整して、撮影日は9月22日。放送は10月1日スタートなので、「編集期間は1週間やん!」って(笑)。でもテレビだと、5日後に放送する番組を3日くらいでやらなきゃいけないこともあるので「できる!」と思いました。

――それは通常の番組の話ですよね。CMだと中々そういうわけにはいかないのでは?

井上: 通常だと実現できないと思います。いろいろな会社が関係するので、調整がありますし。今回は基本内製ですので、調整する時間が不要でした。

青木: 直前まで内容が定まらないこともありました。通常のCMだと直前の変更って、NGなんですよね。「決まっているのに、なぜ変えるのですか?」といった声が出てくるのですが、撮影の直前まで対象することに。

井上: より良くしていくために、「こっちのセリフのほうがいいよね」といった形で、台本を変えていきました。撮影の一週間前、細かいところは決めないまま余白を残していました。キャストのテンションに合わせて、現場のノリで演じてもらう部分もありました。

例えば、振り返って「ジョブカン」というシーンがあるのですが、大まかな演出は決まっていました。ですが、手越さんに「もっとふざけていいですよ。面白いの、なんかちょうだい」と言って、お願いしました(笑)。で、最後に「改革だー」と叫ぶシーンを入れたり、手越さんの「テイッ」を入れてみたり。視聴者が面白がってくれるのでは? というポイントを現場で入れていきました。見ている人が「面白い」と感じることは“礼儀”だと思っているので、私たちは常にその努力をしなければいけません。

あと、ジョブカンの承認画面で副部長の名前が「田中エマ」になっているのですが、エマちゃんは手越さんの愛犬の名前なんですよね。承認時間「11月11日10時54分」というのは、手越さんの誕生日11月11日と、テ(10)ゴシ(54)。これ見た人気付くかな? と思って、密かに楽しんで編集していました。

視聴率を上げるのは「リアル」
――CMで手越さんが乗っているランボルギーニは手越さんの愛車だとか。

井上: そうです。手越さんが自分で運転してきて、撮影現場では細かな位置まで自分で合わせてくれました。また、哀川さんの背景に映っているカブトムシパネルは、哀川さんのマネージャーさんと打ち合わせしたときに、「カブトムシパネルって、実際に自宅に置いてあるのですか?」といった話が出て、「だったら、部長の席の後ろに置いちゃおう」と撮影の直前に決まりました。よく見た人だけが分かる小ネタがいろいろ入っているんです。

青木: あと、哀川さんから「撮影現場に着いたよ」といった連絡があって、迎えに行ったところびっくりしました。哀川さんは衣装のほかに、パネルを5枚ほど抱えていたんですよね。出演者の私物を出してもらうことによって、よりリアルに見えるほか、そこまで出してくれる潔さが映像にも反映される。これは、テレビで学んだ手法。視聴率をアップさせる方法の一つとして、どうすれば“自宅の映像”を撮影することができるのかがある。ここがポイントになっていまして、今回、それができたのかなあと。

井上: 手越さんが通勤中に「早くやってくれよ」と、哀川さんに依頼するシーンがあるんですよね。ちょっと舐めている感じが伝わると思うのですが、実際、あの2人がサラリーマンだったらこんな雰囲気なんだろうなと思いながら撮っていました。タレントのキャラを前面に出し、振り切ることも大切でして、多くの人がその面白さを感じることができたのではないでしょうか。

CM放送後、反響
――CM放送後、反響はありましたか?

千田: 10月初旬、当社のWebサイトやYouTubeで公開したところ、ファンの方から「ありがとう」というコメントをたくさんいただきました。当初はYouTubeのコメント欄を開くかどうか迷ったのですが、視聴者のオープンな意見が聞きたい。また、手越さんのファンがきっと盛り上げてくれるはず、と思い開いてみたところ、批判的な意見はほとんどなく好意的なコメントばかり。結果、哀川さんと手越さんのYouTubeのほかに、5つのCMを合わせると100万回ほど再生されました。

井上: 社内には「やってみないと結果は分からない。それでコストが下がったらラッキーじゃん」といったマインドの人が多い。今回のCMは満足度が高い作品に仕上がったので、今後も社内リソースを使ってやりたいですね。常に変化を起こしながら、作品を作っていくことができればと。

(岡のぞみ)

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