コロナで余儀なくされたオンライン化 東京五輪開会式のプランナーが仕掛ける“障がい者サーカスカンパニー”

コロナ禍ではイベントもこれまでのようには開催できなくなっている。しかし、その逆境をオンラインでつながることによって乗り越え、場所を問わずに参加でき、従来よりも多くの観客にイベントを見てもらえるなど新たなビジネスの可能性を見いだそうとしているサーカスカンパニーがある。その名前は「SLOW CIRCUS PROJECT」。障害のある人とアーティストが参加する2019年に立ち上がったソーシャルサーカスカンパニーだ。

本来であれば「SLOW CIRCUS PROJECT」は、11月18日から24日まで開催されている現代アートの国際展「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020」で公演するはずだった。ところが、新型コロナの感染拡大によって、リアルでのパフォーマンスを断念。その代わりに、限られた時間の中で、メンバーだけでなく世界のサーカスアーティストが出演するサーカスアニメーションをオンラインで制作した。

撮影はコロナ対策のため、出演者を1人ずつ撮影。国内各地と海外の出演者をCGで組み合わせた。国内にいる「SLOW CIRCUS PROJECT」のメンバー十数人と、世界各地で活動するサーカスアーティストの競演がテクノロジーの力によって実現した。

作品はYouTubeで公開されていて、結果的により多くの観客にパフォーマンスを見てもらえている。こうしたテクノロジーを使った制作から公開までの一連の流れは、カンパニーとしての今後の活動の方向性だけでなく、コロナ禍における新たなイベントビジネスの可能性を示している。サーカスアニメーション制作の背景を聞いた。

オンラインでの撮影・公開が、発表の場を世界に広げた
YouTubeで11月18日から公開しているサーカスアニメーション「MEG-メグの世界-」。メグという女の子が、何となく「毎日、面白くないな」と思って過ごしているときに、飼い猫のクロに誘われて、時空を超えた旅に出る。そこで世界のサーカスアーティストたちに会って、メグが変わっていくストーリーだ。

出演しているのは、ソーシャルサーカスカンパニー「SLOW CIRCUS PROJECT」のメンバー。ソーシャルサーカスとは、サーカス技術の練習や習得を通じて、協調性や問題解決能力、コミュニケーション力などを総合的に育むプログラムだ。障害の有無にかかわらず多様な人々が参加している。今回はカナダの両足義足のサーカスアーティストのエリン・ボールさんをはじめ、イタリアやチリからもサーカスアーティストが参加した。

「SLOW CIRCUS PROJECT」は本来、11月18日から24日まで横浜市役所で開催している障害者と多様なプロフェッショナルによる現代アート国際展「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020」で、サーカスのパフォーマンスを披露するはずだった。

ところが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、リアルでの公演を断念。代わりにコロナ対策のため国内数カ所にスタジオを置いて、メンバーによるパフォーマンスや演技を1人ずつ撮影。海外で撮影したサーカスアーティストの映像とともにCGで組み合わせることによって、アニメーションを制作した。

カメラに向かって1人で踊りや演技をするのは簡単ではない。出演した女性は「連絡をいただいてからあまり(準備をする)時間がなかったので苦労しました。1人だけというのは踊りにくい。合わせる人がいないので誰を基準にすればいいのか、難しかったですね。でも楽しかったです。皆さんにも楽しんで欲しいなと思います」と話していた。

撮影もオンラインなら、公開もオンラインのYouTube。その場その場でしか見ることができないステージよりも、より多くの人に見てもらうことができる。さらに、字幕が自動でつくことから、海外の人たちも容易に視聴できることは思わぬ効果だった。

演出を担当した「SLOW CIRCUS PROJECT」ディレクターの金井ケイスケ氏は、「今回参加してくれた海外のアーティストは、ソーシャルサーカスの草分け的な人ばかり。ここから世界につながれたことは大きい。このクリエイトスタイルは、これからのニュースタンダード(新たな基準)になるのではないかと思います」と手応えを語った。

シルク・ドゥ・ソレイユがサポート
「SLOW CIRCUS PROJECT」は、17年からシルク・ドゥ・ソレイユのサポートを受け、多分野の専門家と共にプログラムを開発している。障害のある人がガイド役になってサーカスを体験するプログラムは、コミュニケーションを通して多様性を体感できることから、中学校や障害者福祉施設だけでなく、企業からも注目を集めている。実際に協賛企業の

健康食品メーカー、サン・クロレラ(京都市)とは協働してプロジェクトを進めた。その他、協賛企業などに対して個別にプログラムを提供している。

「SLOW CIRCUS PROJECT」のクリエイティブプロデューサーを務めているのは、東京2020オリンピック・パラリンピックの開会式・閉会式の総合プランニングチームのメンバーでもある栗栖良依氏。「SLOW CIRCUS PROJECT」の運営や、「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020」を企画しているNPO法人スローレーベルの理事長でもある。同氏は10年に骨肉腫によって右下肢機能全廃を経験したことで障害者福祉の世界と出会い、リオパラリンピック閉会式のステージアドバイザーを務めるなど、国内外のさまざまなイベントをプロデュースしてきた。

ソーシャルサーカスを立ち上げたのは、「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014」の企画でワークショップを開催したことがきっかけだった。当初は活動を知られていなかったこともあり、障害のある人が集まらなかったと栗栖氏は話す。

「2014年は障害のあるパフォーマーを集めるのに苦労しながら、金井さんと障害者施設にプログラムを届けにいくなどして開拓しました。徐々に仲間が増えて、ついに昨年カンパニーとして立ち上げることができました。

障害のある人が集まらないという経験を踏まえ、物理的・心理的なバリアを取り除き、誰でも参加できるパフォーマンスを実現するため、障害のある人と一緒に創作をする『伴奏者』という意味のアカンパニストや、環境を整えるアクセスコーディネーターを育成しています。今回のヨコハマ・パラトリエンナーレでサーカスをお披露目できるはずだったのですが、映像作品になってしまいました。けれども、逆に映像だから時空を超えて、カナダやチリやイタリアのアーティストととも共演できたと思っています」

病院で過ごしている人や、移動できない人も参加
「MEG-メグの世界-」をプログラムの1つにしている「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020」は、他にもネット番組「パラトリテレビ」や、本と写真、映像、音楽などを組み合わせたアートコンテンツの「BOOK PROJECT」、障害福祉について考えるオンラインゼミ「パラトリラボ」などを展開。プログラムや展示の制作などに関わった人は、コア会期開幕時点で750人にも及ぶ。

しかし、開催時期と新型コロナの感染拡大が重なった。イベントが始まった11月20日に、21日と22日に予定していた公開イベントの観覧を急きょ中止せざるを得なくなった。それでもプログラムは全てオンラインで公開していたことから、リアルイベントの観覧を除けば予定通り開催されている。

オンラインが中心になったことで、思わぬ成果もあったという。これまでの「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」では、展示作品づくりやイベントも会場に集まって行っていた。会場に来なければ、基本的にはイベントに参加できなかったのだ。

それが全てのプログラムをオンライン化したことで、病院で過ごしている人や、移動に困難を抱えた人たちがプログラムに参加できるようになった。コロナ禍でのオンライン化が、障害の有無を超えて、より多くの多様性のある人たちをつないだといえる。それは栗栖氏が目指していた世界観でもあった。

「オンライン化することで、障害があるとかないとかといった(バックグラウンドに)関係ない世界がつくれたと思います。14年に立ち上げたときに、『20年に障害者という言葉がなくなる社会を目指す』という目標を掲げていたので、そういう意味では、テクノロジーの力によって障害者という言葉がない世界観をつくれたのではないでしょうか」

「SLOW CIRCUS PROJECT」も含めたプログラムは、イベントのためだけに取り組んでいるのではない。栗栖氏はソーシャルサーカスなどで得たノウハウを、今後は社会実装していく考えだ。

「これまで生み出してきたソーシャルサーカスのプログラムや、アカンパニストなどを、いかに社会の中で根付かせていくかという次のフェーズに来年以降は入っていきます。教育、医療、福祉などのリアルな現場に、私たちのプログラムを走らせていく形で続けていければと思っています」

(ジャーナリスト 田中圭太郎)

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