小畑健や津森千里が審査 コピックアワードを開催した製造会社が提示する「アートの可能性」

漫画家やイラストレーターに長年愛用されている彩色用画材・コピック。油絵のように色を重ねることができ、速乾性もあるのが特徴だ。マジックのようにキャップをあけてそのまま色を塗れる手軽さから、プロだけでなく、絵描きを趣味にする中高生をはじめとする、多くのアマチュアにも愛されている。

そのコピックの製造会社が、「コピックアワード」と題する作品コンテストを2017年から開いている。国内だけでなく、世界中から多数の応募があるのが特徴だ。3回目となる「コピックアワード2020」も5月から開かれ、応募点数は第2回の2150点の倍以上になる、世界89カ国から4321点だった。アワード開催の狙いについては、アナログ回帰のコピック 製造会社社長が描くグローバル戦略と「アワード開催の真の狙い」で前回レポートした。

審査員の豪華さも「コピックアワード」の特徴だ。20年の審査員は、『ヒカルの碁』や『DEATH NOTE』の作画を手掛ける漫画家の小畑健さん、「ツモリチサト」のファッションブランドで知られるデザイナーの津森千里さん、美術出版社の取締役で、雑誌『美術手帖』の総編集長を務める岩渕貞哉さん、イラストレーターのせきやゆりえさん、そしてアートディレクターで東京藝術大学教授の松下計さんが担当している。そうそうたる顔ぶれだ。

9月4日には最終審査が都内で開かれ、30日には審査結果が発表された。グランプリに選ばれたのは、HAMUさん(日本)の「silk hat cat」。準グランプリには、HiddenServiceさん(ドイツ)の「Vielfalt」と、Salvador Piumaさん(アルゼンチン)の「Humedo」の2作品が、次世代アーティスト賞グランプリには、Ja_Sutapatさん(タイ)の「Don’t believe everything at face value」が選ばれた。このほか、5人の審査員が選んだ審査員賞、pixiv賞やクラフト賞やSNS賞といった特別賞も選出された。

なぜ、ここまで応募点数が増えたのか。前回の「2019」でも審査員を務め、今回審査委員長を務めた松下計・東京藝術大学教授はこう分析する。

「直接的には、去年開催したときの広報活動が功を奏したのではないかと見ています。単に点数が多かっただけでなく、作品のレベルも格段に上がっています。コピックは足し算のように、色を書き足していけるのが特徴の画材。彫刻のように引き算で作っていくものとは対照的です。つまり、失敗を恐れずに誰でも取っかかりやすい。こうした性質から、去年の作品を見て『これなら私もいける』と気付いた人が世界中にいたのではないのでしょうか」

また、雑誌「美術手帖」総編集長の岩渕貞哉さんも、「近年はこうした美術作品のコンペを開催しても、世界89カ国から4000点以上もの作品を集められるものはあまりない」と目を見張る。

国内だけでなく、ここまで世界中からの応募があるのは、ひとえにコピックがそれだけ世界中の絵描きから愛されていることにほかならない。この背景には、「コピック」というブランドを通じた、同製品を製造するトゥーマーカープロダクツ(東京・品川)によるグローバル戦略がある。

同社の石井剛太代表取締役社長はこう話す。

「コピックはプロのデザイナーやイラストレーターなどに仕事で使っていただいている、いわば『B2B』の製品という側面もあるのですが、本質はプロもアマチュアも関係なく、絵を描くことが好きな人のライフスタイルを支援する『B2C』にあると考えています。そこには国境はありません。アートの力で課題を解決し、人々をつなぎ、世界を変えていきたいという思いが当社にはあります」

審査員も発見する妙
コピックというブランドの本質を「ライフスタイル」に置いている以上、審査員はただ有名な人を選ぶだけではない。毎回担当する審査員は、コピックになじみのある人物をなるべく選んでいるという。

「小学生の頃からコピックを愛用している」というイラストレーターのせきやゆりえさんは、コピックの魅力についてこう語る。

「コピックは色数も多く発色が良い。ペンだけで完結している画材は他にありません。描きたいと思ったときにすぐ取り出して描けるのが強みだと思います。絵の具だとこうはいきません」

そんなせきやさんでも、今回審査員を務めたことで大きな発見があったという。

「長年コピックを使い続けていますが、応募してきた作品を見てこんな使い方があったのかと驚かされました。今回審査員をやらせていただきましたが、自分はまだまだコピックを極められてないと痛感させられました。帰ったら早速自分でも試してみたいと思います」

ファッションデザイナーの世界でも使用
ファッションデザイナーの世界でも、コピックは使われているという。津森千里さんがこう話す。

「実は『コピック』だと意識して使っていなかったのですが、20年以上前から使っていました。ファッションの世界では頭に描いた構想を絵に起こす『デザイン画』というところで使います。ぼかしができたり、重ね塗りできたりするのがいいですね」

小畑健さん「絵の表情が変わる」
そして、コピックを駆使して数々のヒット作品を生み出してきているのが、漫画家の小畑健さんだ。

小畑さんはコピックを愛用する理由についてこう打ち明ける。

「コピックに出会うまで、カラーインクなどを使っていたのですが、週刊連載を抱えていると、インクが乾くまでどうしても時間がかかってしまうという問題がありました。ところがコピックを使ってみると、乾くのが早くて、塗りやすくてすぐ形になり、すぐに切り替えました。とにかく早く仕上がり、直感的に描けるのが魅力ですね」

小畑さんは特に、黒系のコピックを活用することでファンの間でも知られる。

「モノトーンの絵がもともと好きというのがあります。コピックだとグレーだけでもいろんな味のグレーが多くそろっており、グレーとグレーを重ね塗りできる奥深さがありますね。カラフルで色数を多く使った絵でも、グレーを1つ置いただけで絵の表情が変わります。グレーによって微妙な色合いに変わって絵が描けるので、グレーは好きですね。かなり使います」

デジタル化が進んでいる現代でも、小畑さんは手描きで絵を描いている。最後の「仕上げ」という工程だけは手描きの絵をスキャナーで取り込み、コピックで表現しきれない部分だけをデジタル処理する。そのためコピックを今でも日常的に多用している。中でもペンの先端が筆状になっている「コピックスケッチシリーズ」を愛用している。シリーズ全358色を仕事場に置いており、予備にさらにもう1セット常備し、さらに買い足しているという。

「デジタルはどうしても使いこなせなくて。手で覚えてしまっているので、手で描いたほうが早いんですよね」

小畑健さん「非常に勉強になりました」
小畑さんも、今回審査員をしたことで新たな発見があったという。

「本当はこういう審査員は苦手だったんですが、自分がコピックを普段から使っているのもあり、コピックで描かれた絵に興味がありました。さまざまな作品を見させていただいたことで、紙によって質感が違ってくる点や、『こういう塗り方ができるんだ』などいろいろな発見がありました。自分もこういう紙で描いてみようかなと思いましたね。非常に勉強になりました」

最後に、小畑さんはコピックの魅力についてこう語る。

「手練れのプロの人でも使う道具ではありますが、絵を描き始めたばかりの人でも使えるのがコピックの特徴。手に取りやすくて、ちょっと描いてみるだけでも絵を描く楽しさを味わえますし、絵を見る側にとってもそれが伝わるのがコピックの魅力です。その人の持つ創造性を引き出してくれる、ポテンシャルが半端ではないツールですね」

現在トゥーマーカープロダクツは「コピックアワード2020」の受賞作品11点を、同社の直営店・トゥールズの3店舗(東京、神奈川、大阪)で展示している。

コピックアワードは来年以降も続けていく予定だ。コロナ禍の最中に実施された今回は、「STAY HOME」をテーマに描いた作品もあった。ポストコロナとなるであろう次回、果たしてどんな世界が作品展で映し出されるのか。「アートの力で課題解決」を図る、トゥーマーカープロダクツの挑戦はこれからも続いていく。(フリーライター河嶌太郎、アイティメディア今野大一)

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