久兵衛屋の冬季限定メニュー「鴨ねぎつけ汁うどん」の持つ魔力

もはや一般常識だが、うどん生産量の全国1位は香川県だ。では、第2位をご存知だろうか? まさかの埼玉県である。

県民でさえ無自覚のうちに、虎視眈々と”うどん県”の座を狙う埼玉県。今年9月には、お得にうどんが食べられるアプリ「うどんパスポート」の配信も開始。着々と加盟店は増え、ダウンロード数も上々だという。

そんなニュースを眺めながら思い出したのは、「久兵衛屋」の存在だ。そう言えば、久兵衛屋も埼玉を中心にチェーン展開するうどん店だったな。美味いんだ、これが……などと考えているうちに、気付けば自然と足は埼玉へと向かっていた。

早いもので、気付けばもう11月半ば。であれば、きっとあるはずだ。”鴨”のうどんが――。
冬の味覚、鴨&ねぎを求めて埼玉県へ
よし、あった。正式メニュー名は「鴨ねぎつけ汁うどん」。久兵衛屋は”武蔵野うどん”を謳っているので、このうどんも鴨とねぎが入った温かい汁に冷たい麺を浸けて食べるスタイルになる。毎年人気の冬季限定メニューだ。

手短に説明すると、武蔵野うどんは江戸時代から武蔵国あたりで親しまれてきた郷土料理。具だくさんの温かい汁にうどんを浸けて食べるのが特徴で、加水率が低く、コシの強いうどんは噛み応え抜群。味も食べ方が異なるが、讃岐うどんに負けず劣らずの美味しさである。

入店してみると、なんともホットなキャンペーンの予告が。11月16日(月)~20日(金)の5日間は「鴨ねぎ祭」が開かれ、この日のターゲットである鴨ねぎつけ汁うどんが200円引きで食べられるらしい。「鴨がねぎを背負ってくる」という諺どおりである。

着席後は脇目も振らずにオーダー。天ぷらとのセットなども用意されていたが、この日は鴨ねぎつけ汁うどんを単品で注文した。

さて、鴨といえば冬が旬。今では1年中食べられるが、もともと鴨は夏場には姿を現さない渡り鳥で、秋冬シーズンしか食べられなかった高級食材である。ねぎも1年中スーパーで見かけるが、実は冬に旬を迎える野菜。鴨とねぎは何かとセットで料理になりがちだが、冬の味覚としてまさに最高タッグなのだ。

オーダーから数分で鴨ねぎつけ汁うどんが到着。刻まれた柚子の皮も添えられている。つけ汁をよく見てみると、ゴロゴロと入った鴨肉のなかに、鴨の団子も発見。ほう、これは珍しい。

うどんは相変わらずツヤツヤで立体感があり、見ているだけで弾力が伝わってくるようだ。うーん、凛々しい。それでは、いただきます。

きたきた、これこれ。ああ~、美味い。

特有の濃厚な旨味を含んだ合鴨肉はコク深く、上質な脂の甘さが食欲をますます掻き立てる。こってりした甘じょっぱいつけ汁はうどんにもよく絡み、合鴨との相性も抜群だ。

どうやら合鴨はもも肉と胸肉で食感が違うらしい。前者は柔らかくジューシーで、後者はやや弾力が強く、噛みごたえがある。

ねぎは埼玉県の特産品として知られる深谷ねぎを使用しているとのことだ。食感はシャキシャキと豊か。つけ汁の味がよく染み込んでいるだけでなく、ねぎ自体の甘みも強く、噛めば噛むほど甘みと味わいが引き立つ。

ねぎにはこんがりと焼き色がついているので、一度焼いてから汁で煮込んだのだろう。その香ばしさはつけ汁にも乗り移り、しっかり旨味のひとつとして主張している。

合鴨の団子もこれまた美味である。鴨の旨味がぎゅーっと凝縮して閉じ込められているイメージとでも言おうか。濃厚な旨味が、脂とともに中から溢れ出てくる。ああ、美味い。うどんをすする手が止まらない。

このまま一気に最後まで食べ切ってしまいそうが、せっかくなので刻み柚子の皮をひと欠け投入してみることに。本音を言えば、このままで良かった。それほど完成されていたからだ。ただ運ばれてきた以上、食べずにおくのも筋違いだ。まぁ一口だけ、と食べてみると……。

最高である。せっかくの合鴨特有のくさみが消されてしまうのではないかと懸念したのだが、杞憂だった。確かに後味はサッパリするが、むしろ柚子の皮の苦味と酸味が合鴨の旨味を際立てている。いい意味で主張が強すぎないのだ。一時は疑って申し訳なかった、と頭を垂れる次第である。

そろそろうどんもなくなりそうだが、最後の最後にひとつ気付いてしまった。「これ、辣油、絶対に合う」と。

つけ汁に辣油を2プッシュしてうどんをすすってみると、これが予想以上に完璧にマッチ。油分と辛味が追加されたことで、つけ汁にジャンクな側面が加わったのだ。濃厚な甘みを持つつけ汁と辣油が、実によく合う。

いや、合いすぎる。こんなハーモニーを奏でられたら、うどんがなくなってもつけ汁をズルズルと飲んでしまうではないか。塩分を摂りすぎてしまうではないか――。

完飲。やってしまった……。ラーメン店のつけ麺と違い、割り下で割ったわけではないからかなり濃かったのだが、「あと一口、あと一口」と飲んでいるうちに、気付けば器の底が露出していたという顛末である。

もともと鴨料理は大好物。冬になったら鴨南蛮蕎麦や鴨鍋を食べないと気が済まないタチなのだが、久兵衛屋の鴨ねぎつけ汁うどんは、そんな無類の鴨好きの期待に見事応えてくれた。それでもまさか、つけ汁を飲み干すことになるとは思わなかったが。

「今夜はランニングして塩分を排出しよう」と誓って店を後にした立冬の候であった。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする