中央線「昭和グルメ」を巡る 第54回 挽きたて豆のオトナな味わいを”思い出横丁”で「但馬屋珈琲店」(新宿)

いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、新宿のコーヒー専門店「但馬屋珈琲店」です。

思い出横丁にたたずむ老舗コーヒー専門店へ
中央線や総武線が新宿駅に近づくと、窓の向こうに”和洋折衷レトロ”とでもいうような、いい感じの建物が見えるのです。しかも場所は、以前ご紹介した「かめや新宿店」のある思い出横丁の角。

ある意味で、思い出横丁の雑多な雰囲気とはやや異なるたたずまい。ミスマッチな気もするのですが、だからこそ気になっていたわけです。というわけで、ある平日の午前中、ぶらっと訪れてみたのでした。

ちなみに平日午前中を選んだのは、当然のことながら混雑を避けるためです。なにしろ、人通りの多い場所ですからね。

でも、お昼前だとさすがに人もまばら。思い出横丁のお店もほとんどが開いておらず、なんとなく閑散としています。その静けさは、ちょっと意外なくらい。

いつもと違う空気が流れているなと思いながら線路のほうに進むと、お目当ての「但馬屋珈琲店」という名のお店がありました。

壁の白、柱や壁のダークブラウンとモノトーンの色調で統一された雰囲気は、昭和の後期あたりに一世を風靡したコーヒー専門店のスタイル。1980年代中期あたりにはそういうお店が多く、僕もしばしば利用していたので、懐かしさを感じます。

ちなみに調べてみたら、但馬屋珈琲店は新宿に4店舗、吉祥寺に1店舗を展開しており、ここが本店のようです。とはいえ、いかにもチェーン店という感じではないので、ゆっくり落ち着けそう。

でもね、ドアを開けてみて驚いたんです。さっき書いたように平日午前なら空いているだろうと思っていたのに、大半の席が埋まっていたから。

右側にL字型のカウンターがあり、左側にテーブル席がいくつか。たまたま空いていたカウンターの中央あたりの席に座り、コーヒー専門的の顔というべき「ブレンドコーヒー」をオーダーしました。

目の前の壁には、コーヒーカップ&ソーサーがずらり。

そうそう、こういうタイプのお店って、お客さんの雰囲気を見て、似合いそうなカップを選んでくれるんですよね。さて、僕にはどんなカップを選んでくれるんだろう。

手帳を眺めている人、新聞を読んでいる人、物思いにふけっている人など、カウンターに並ぶ人は思い思いにその空間を楽しんでいます。一方、テーブル席に座る人たちは、仕事の話などをしている様子。

つまり、誰もがみんなよそ行きっぽくはなく、あくまで日常生活の延長線上で、お店の雰囲気とコーヒーを楽しんでいるのです。

さて、目の前の女性スタッフがコーヒーをたてはじめてくれました。豆の味わいを理想的に引き立ててくれるといわれているネルドリップ。高校時代からコーヒー専門店でバイトしていたので、その程度の知識なら僕にもあります。

バイトしていた店はペーパードリップだったのですが、ネルドリップの場合は豆のふくらみ方に動きがあるんですよね。おかしな表現かもしれませんが、豆の生命力を感じさせてくれるのです。

だから、見ているだけでも楽しい。

かくしてコーヒーができあがり、カップ&ソーサーが目の前に出されたとき、ちょっとうれしくなってしまいました。なぜって、深い朱色を基調としたそれは、僕の好みにぴったりだったから。

コーヒーの味はといえば、これまた僕の好みどおり。自家焙煎しているという豆に酸味はなく、キリッと引き立った苦味が心地よい深煎りタイプです。

その味わいを楽しみながら本を読んでいたら、周囲に何人もの人がいるにもかかわらず、自分だけの空間がそこに生まれたかのように錯覚しました。つまり、落ち着けるということなのでしょうね。

しかも、新宿駅からすぐ近くの場所。こんなところに、これだけ落ち着けるスポットがあったとは。

これからも新宿に用事があったときには、ふらっと立ち寄ってみようと思います。

但馬屋珈琲店住所:東京都新宿区西新宿1-2-6
営業時間:10:00~23:00(L.O.22:30)
定休日:元日

印南敦史 作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書に学んだライフハック――「仕事」「生活」「心」人生の質を高める25の習慣』(サンガ)ほか著書多数。12月14日発売の最新刊は『それはきっと必要ない: 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』(誠文堂新光社)。6月8日「書評執筆本数日本一」に認定。 この著者の記事一覧はこちら

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