瀕死の観光産業を救うか? GoToで注目される「ずらし旅」とは

コロナ禍で苦境が続く観光業界。移動を控え地元再発見がテーマの「マイクロツーリズム」が好調だ。他方、移動を伴う旅は、10月1日から東京発着の旅行が「GoToトラベルキャンペーン」の対象に加わったことで上向いてはきているものの、いまだ厳しく、運輸関連の企業は先が見えない状況が続く。

航空会社の9月の減便率はJAL40%、ANA47%。陸へと目を向ければ、9月16日に発表があった2021年3月期通期連結最終損益予想は、JR東日本が4180億円、JR西日本が2400億円のいずれも赤字と、かつてない状況となっている。

出張者でにぎわい「ドル箱」といわれた東海道新幹線を運行するJR東海も他人ごとではなく「8月が対前年25%、9月は23日までで対前年38%(いずれも東海道新幹線輸送量)」と回復傾向にあるものの、依然として厳しい状況だ。

先行きの不安は続くが、9月のシルバーウィークは観光地に久々に賑わいが戻り、人々の心理面でもwithコロナで楽しむこと、経済を回すことへと関心が高まっているようにもみえる。観光業界ではコロナ拡大に警戒をしつつも、10月1日から東京を対象に加えて本格稼働したGoToトラベルキャンペーンへ、「今度こそは」と観光需要創出の起爆剤として期待をよせる。

JR東海が仕掛ける「ずらし旅」
そんな絶好のタイミングで、JR東海は「ひさびさ旅は新幹線!~旅は、ずらすと、面白い~」として「ずらし旅」のキャンペーンを発表した。「ずらし旅とは、ガイドブックやSNSで人気のある定番の旅から、時間や場所、移動手段、方法などをずらすことで、他の人が経験したことのない新たな発見をし、旅の楽しみを大きく広げようというもの」だと、JR東海の金子慎社長は語る。

「ずらし旅は、人を避ける旅でもあり、コロナ禍でも安心して楽しめる旅のカタチだ」と金子社長はwithコロナにおけるコンセプトでの重要性も強調する。確かに「ずらす」はシンプルであるものの、三密を避けるという意味では有効な手段だ。旅行者の不安を解消し旅への後押しをするとともに、利用の平準化が進むことは、観光業の将来にとってプラスになる。

同社では「ずらし旅」のキャンペーン開始に先駆け、9月26日からCMの放映を開始した。

俳優の本木雅弘さんを起用し、東海道新幹線沿線を中心に、東京、横浜、静岡、伊勢、京都、大阪を舞台に計11か所で撮影をしたという。CMでは「伊勢神宮を早朝に参拝し、神聖な空気を独り占めする特別感」「東京タワーをあえて階段で昇る達成感」などが、臨場感あふれる形で描かれ、旅へと気持ちがかき立てられる。そんな中でも目を引き印象的なのが「自転車」だ。

CMでは大阪や東京の街をさっそうと自転車(バイクシェア)で観光する姿が登場する。JR東海は、旅先の移動手段の「ずらし」として自転車に注目、ドコモの子会社であるドコモ・バイクシェアとコラボレーションすることを発表した。

旅の二次交通「自転車」
ここ数年、MaaS(Mobility as a Service)の実証実験が各地で行われ、自転車は旅の二次交通として注目を集めていた。MaaSとは、マイカー以外の公共交通機関である、バス、電車、タクシー

、自転車などを、シームレスに結び付け便利に使えるようにする取り組みのことだ。

小回りが利く自転車は、「歩くと微妙に遠い」「公共交通機関はあるが、本数が少ない」など移動の隙間を埋めるシチュエーションでの利用ニーズが高い。コロナで、特に地方の公共交通機関を維持することが今後難しくなることも予想され、生活や旅先での移動手段として自転車の役割は大きくなりそうだ。

ドコモ・バイクシェアの堀清敬社長によると、コロナ禍になり、バイクシェアの稼働は好調だという。4月~8月の電動自転車の平均利用回数は対前年120%で推移し、利用に際して必要な新規会員登録者数は対前年130%にのぼる。三密を避けるため「通勤で自転車の利用者が増えた」という報道もみかけるものの、東京・大阪など大都市圏での同社の時間帯ごとの稼働状況からみると、意外にも「平日の朝夕、通勤時間帯の利用減少が顕著に出ています。テレワークが浸透したことで通勤する人そのものが減っているのが要因だと推測しています」(同社広報)とのことだ。

通勤する人の中での自転車利用の割合は増加傾向と思われるが、全体数は減少しているという。その減少分を補い順調な推移を支えるのが土日利用の増加だ。「理由の分析はまだ十分に行っていませんが、買い物や近くの公園など、自宅を中心としたおでかけ需要が増えているのは間違いないと思う」と堀社長は語る。バイクシェアの走行記録はデータ化されており、将来に向けての分析も今後行っていく予定だ。

発表会の壇上には、ドコモ・バイクシェアのノーマルな赤色の電動自転車とともに、「ずらし旅」の特別仕様である、黄色と白色の電動自転車が並んだ。よく見ると細部に新幹線のデザインが施されていて、黄色はドクターイエロー、白色はN700Sをイメージしたデザイン。ユニークで鉄道ファンならずとも興味がそそられる。これらは東京・大阪にそれぞれ1台配置されるが、どこで貸し出しがあるかなどはアプリ上では分からず、ずらし旅仕様のレアバイクに出会えるかどうかは、運にかけるしかなさそうだ。

アフターコロナ時代を見据えて
また、コロナ前は外国人旅行者にも人気があり、「旅行会社が実施する都内の自転車ツアーでの利用も多かった」(堀社長)という。現在ツアー催行はなく、一日乗り放題のパスも販売数はコロナ前より減少している。それだけにJR東海とのコラボレーションは「観光利用を復興させるチャンスで、大いに期待している」(堀社長)という。

「動力が人力」である自転車は、健康志向、環境への配慮という観点からも魅力あるコンテンツだ。単なる移動手段としてだけではなく、自転車に乗ることが目的の旅(サイクリング)は旅のトレンドとなっており、瀬戸内海のしまなみ街道は海外でも知名度が高く、多くの外国人観光客で賑わっていた。筆者も旅先で自転車をよく利用するが、風光明媚な観光地を楽しむ方法として、都市観光の足として、自転車活用の伸びしろは大きいと考える。

JR東海の会見後の質疑応答では、金子社長が自身のずらし旅を披露。「混雑している日中ではなく、時間をずらして早朝の京都嵐山での竹林散歩」「人気が集中する紅葉ではなく、時期をずらして新緑の青もみじ鑑賞」に加え、「自転車での旅はぜひとも挑戦したい」と語った。理由は「見える景色がかわりそうだから」だという。車とも歩きとも違う自転車での旅は、土地を深く味わい、さまざまな発見をし、寄り道をするにはちょうど良いスピード感だ。子どもから年配の方まで楽しめる気軽さもある。

「決まったコースの旅ではなく自分なりの旅、他の人が経験したことのない旅は プランを練る時も楽しく、人と違う経験は誰かに伝えたくなる。そんな経験をするきっかけにしてほしい」(金子社長)といい、JR東海の「ずらし旅」のWebサイトでは、「ずらし旅アドバイザー」が、人とは違う独自の(ずらした)視点で旅のこだわりや楽しみ方を伝える。一般からもアイデアを広く募集しシェアをしていくという。

GoTo終了後を見据えて
「ずらし旅」がきっかけで自分らしい旅のスタイルを見つけてシェアをする。それを参考に旅へ出た人が、新たな発見をしてシェアをする。その連鎖こそがナレッジとなり、真の意味での観光復興への大きな力となり、後押しになると筆者は考える。

GoToトラベルキャンペーンは、自粛ムードを切り替え、元気のない観光業への支援、コロナで疲れた心身をメンテナンスする機会を作るという意味では重要だ。ただし、終わりがあるのを忘れてはいけない。

大盤振る舞いの旅行代金の補助がなくなった時、「人が旅へ出たいと思う原動力は何か?」を今から考え準備しておかなくては、明るい未来は描けない。私は、その1つは「プライスレスな旅の成功体験」だと考えており、今までの定番の旅とは違う、自分視点での「ずらし旅」にチャレンジすることは成功体験の一助となると感じている。

キャンペーンを通じて、多くの旅行者が発見した「ずらし旅」のコンテンツは、地域の新たな魅力や付加価値にもなる。「ずらし旅」は、GoToキャンペーン終了後、さらにはアフターコロナ時代にも、観光復興を支える力を発揮するに違いない。

(旅行ジャーナリスト 村田和子)

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