羽田空港で走行! 自動運転が可能な「WHILL」は移動手段になるのか

「すべての人の移動を楽しくスマートにする」をミッションに、車いすでもバイクでもないパーソナルモビリティ「WHILL(ウィル)」を製造・販売するWHILL株式会社(東京都品川区)。

2018年9月には約50億円の資金調達を実施、米国や中国など12の国と地域で事業を展開し、20年6月には自動運転システムを搭載したWHILLが羽田空港で実用化された。空港における人搬送用途での自動運転パーソナルモビリティの実用化は世界初となり、コロナ禍の空港において3密を避け、安全に人を運搬する手段として貢献している。

世界各国の空港でも導入の検討が進んでいるというWHILLは、新時代の移動手段となりえるのか。同社で広報を務める辻阪小百合氏に話を聞いた。

規格上は「電動車いす」、WHILLの定義とは
WHILLの創業は12年。元日産のデザイナーの杉江理氏(CEO)、元ソニーのエンジニアの内藤淳平氏(CDO)、元オリンパスのエンジニアの福岡宗明氏(CTO)の3名が、いずれも20代で創業した。

パーソナルモビリティ事業を始めた背景にあったのは、「100メートル先のコンビニに行くのをあきらめる」という1人の車いすユーザーの声。街中の段差を1人で超えられない、加えて「障害者」として見られる心理的なバリアも外出のハードルになっていた。

「デザインとテクノロジーでその障壁を取り除ける新しい乗り物をつくろう」――。その思いがカタチになったのがWHILLというわけだ。

14年9月、同社初のプロダクトとなる「WHILL Model A」(99万5000円、非課税、以下同)を発売。こだわったのは、スタイリッシュで乗りたくなるようなデザインと7.5センチまでの段差を乗り越えられる走破性だ。同プロダクトは15年にグッドデザイン大賞を受賞、最初の50台はあっという間に予約完売するほどの人気ぶりだったという。

同社は、WHILLを電車やバス、タクシーを降りた後の近距離移動用の乗り物として「パーソナルモビリティ」と位置付けているが、道路交通法の規格上は「電動車いす」となり、歩行者扱いとなる。乗車するための免許は必要なく、最高時速は6キロと速歩き程度のスピードで移動ができる。

走破性と小回りの良さを実現した特殊な「オムニホイール」
WHILLはこれまで4種類を発売しており、そのうち1種類は大学や企業向けの研究用として展開している。メインユーザーは65歳以上の高齢者や病気などにより歩行が困難な人々だ。

一般的な車いすでは困難だった5センチ以上の段差をWHILLが乗り越えることができるのは、「オムニホイール」と呼ばれる独自に開発された特殊な前輪があるから。一つひとつのローラー自体が横に回転するため、パワフルでありながら非常に小回りが効き、細い路地や砂利道でも走行できる。

10月中旬より発売予定の最新モデル「WHILL Model C2」(47万3000円)は、5センチまでの段差を乗り越える一般道を走るには十分な走破性やエレベーターの中で一回転できるほどの小回りの良さなどが特徴だ。運転は手元のコントローラーで行い、片手で直感的に操作が可能。手を放すと坂道でも自動でブレーキがかかり、安全性にも配慮されている。

価格帯はModel Aの半分以下だが、一般の電動車いすと比較すると、やや高価格帯の部類に入る。レンタルも可能で月額2万7000円、介護保険を利用すると月額約2700円となる。

世界初の快挙。羽田空港でWHILLの実用化
WHILLは、一般ユーザー向けの販売・レンタルに加え、MaaS事業も手掛ける。これは、テーマパークや病院などの施設で短距離の移動手段として、WHILLをシェアリングで活用するものだ。20年6月には羽田空港第一ターミナルに3台のWHILLが正式導入され、世界初の事例として国内外のマスメディアで多く取り上げられた。

施設内を走行するWHILLは、時速約3キロと一般向けの機種より減速したことに加え、同社初となる「自動運転システム」を搭載。地図情報をインプットしたコンピュータを座席下に、今いる場所の把握や障害物の検知をするセンサーを後方に、センサーとダブルで障害物を検知するカメラが前方に付いている。これによりユーザーが操作せずとも障害物を避けて目的地まで走行、目的地から待機場所に戻るまでの一連動作を自動で行える。

実証実験段階ではシステムが正しく動作せず頭を悩ませたものの、WHILLにインプットした地図情報に「実在しない壁」の存在を埋め込み正しいルートに誘導させるなど、試行錯誤の末に多くの課題を解決、精度の良いシステムを完成させた。

3密の回避が求められる環境下で介助者を必要としないWHILLは、安全な移動手段として、また人員削減のために大いに貢献しているという。これまでは使用後の車いすをスタッフが手動で元の位置に戻していたが、WHILLは自動で待機場所に戻るため、かなりの手間が削減されているのだ。

「羽田空港での導入が早期実現に至った一番の理由は、ニーズが顕在化していたことです。これまではスタッフが手動で車いすを押して旅行者を運搬していましたが、コロナによってそれが“接触による感染のリスクがある”とみなされるようになり、一刻も早い自動運転可能な移動手段の導入が望まれていました。導入後は、杖を使っている方や長旅で疲れた高齢者の方を中心に多くご利用いただいています」(広報:辻阪氏)

次世代の移動手段が超えるべきハードルは
引き続き、さまざまな場所でMaaS事業の実証実験が行われており、20年9月からは慶應義塾大学病院と横浜市のみなとみらい21地区で実験が始まったばかり。

慶應義塾大学病院では受付からとある案内所までの約100メートルを、自動運転システムを搭載したWHILLで移動できる。一方、横浜市では指定された地区内を利用者が自身で運転して走行する。これらの実証実験は長期間の実施を見込んでおり、さまざまな課題を抽出して懸念事項を一つひとつつぶしながら、実用化を目指す狙いだ。

今後の展望として同社が掲げているのは、3~5年以内に世界中で1000万人のユーザーの獲得、そして世界の上位50空港でのサービス導入。そのために超えるべきハードルは、同社が望むカタチで世間にWHILLを浸透させていくこと。

電動車いすではなく、近距離用モビリティとして、歩行が困難な人だけではなく、シェアサイクルやタクシーに近い感覚で気軽に乗る乗り物として、認知を広げたいと辻阪氏は言う。

空港をはじめ、広大な敷地面積を持つテーマパークや美術館、観光地など、導入を見込める場所は世界各地に無限にある。欧米や欧州で爆発的に伸びている電動キックボードやシェアサイクルと並び、WHILLは次世代の移動手段となりえるのか。羽田空港での実用化が世界中で報道されたことで、各国の空港から問い合わせが相次いでいる現状を鑑みると、その可能性は大いにあると言えそうだ。

(小林香織)

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