これからの人事担当者は、経営・テクノロジーも理解する「デジタルHRプロデューサー」になるべき

人事業界では一般的な用語になってきた「HRテクノロジー」。HR(Human Resources)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた言葉で、ビッグデータやAI、クラウドなどを活用し、人事業務の課題を解決していくサービスのことだ。

HRテクノロジーについて、多くの著書を上梓している慶應義塾大学の岩本隆氏(大学院経営管理研究科 特任教授)は、「事務作業や社員管理はテクノロジーが代替するようになった。これからの人事は管理業務を行う部署ではなく、経営者目線で戦略人事を行わなくてはならない」と提言している。

戦略は客観性、論理性、定量性が求められるものなので、データで定量化できるデジタルテクノロジーは相性がいい。人事担当者はデジタルテクノロジーを活用して、ビジネスに貢献する戦略的な人事をプロデュースする「デジタルHRプロデューサー」になるべきだと岩本氏は主張している。

デジタルHRプロデューサーは、専門であるHRマネジメントに加え、経営、テクノロジーを理解し、それらの分野の人とコミュニケーションがとれるような人事担当者だ。

HRテクノロジーの導入が遅れている日本
HRテクノロジーは現在、大手企業を中心に導入が進んでいる。しかし、日本では取り組みが十分ではないようだ。

日本オラクルが2019年11月に発表した、日本の「職場におけるAI」に関する調査結果によると、職場で何らかの形でAIを利用していると回答したのは29%と、世界10カ国・地域の中で最下位だった。「ワークプレイスにおいてAIを実装するマネジメントスキルを社内に保有する」と回答した人の比率も、日本は最下位だ。ただ、岩本氏は「日本は世界に遅れている一方で、ビジネスチャンスもある」と前向きに捉えている。

経済産業省では、人材政策にHRテクノロジーを取り入れようと、17年から研究会で議論を進めているという。現状を放置すると、AIやロボットなどで代替される仕事が増えることで低賃金化し、トップレベルのデータサイエンティストや研究開発も海外に流出してしまう懸念がある。HRテクノロジーを取り入れることで、グローバル市場を獲得し、質・量とも十分な仕事を確保するのが狙いだ。そのための「予算がかなり付いている」と岩本氏は説明する。

これからの人材マネジメントでは、欧米では一般的な役職であるCHRO(Chief Human Resource Officer/最高人事責任者)が重要だという考えも、経済産業省は示している。CHROは、CEOやCFOといった経営者と同じ目線に立ち、経営レベルで人事戦略を実行していく立場だ。

他方で、人材に対する投資家からのプレッシャーも強くなっているという。「投資家は人材についても知りたいと思っている。従業員数だけでなく、KPIを設定して人材について説明してほしいという動きがある」(岩本氏)ため、投資家向けに「HRレポート」を作成して発表する欧米の会社が増えているそうだ。

さらに、HRマネジメントは国際標準化の動きも出ている。「ISO30414」ではHRマネジメントの11領域における49項目を定量化することが求められている。欧米や一部のアジア諸国ではISO30414導入の関心が高く、さまざまな機関が動き始めているとのことだが、日本は「ガラパゴスっぽく」なっていて遅れが目立つと岩本氏は指摘している。

デジタルHRを実行するためのポイント
デジタルHRを実行するために、間接部門はテクノロジーに任せ、人事は戦略人事に集中することになる。

分析には、定量化されたデータが必要だ。音声や画像データ、メールのやりとりやパソコン上の行動データも活用されている。これらの分析には機械学習も使われる。テクノロジーの進化により、新しい分析手法が生まれることも期待されている。データがたまると将来を予測でき、解決策を導き出せる。

日本企業のこれからのHRマネジメントは、人事部が取り組んできた従来型の人事ではなく、CHROなど経営陣のイニシアチブで経営戦略とひも付いた人材戦略になっていく必要がある。ビジネスサイクルが短くなっている今は、戦略に合わせた柔軟な人材を育成、確保しなければならない。そこで最大の課題となっているのが個と組織の関係性における「個の自律、活性化」だと岩本氏は指摘する。

課題は大きく3つの視点から考えることができる。1つは従業員のエンゲージメントだ。ワクワク感、コミットメントを持つような企業文化をどう作るか、これについては取り組む企業が増えてきている。

2つ目はスキルギャップの解消。個々人のキャリアプランに対して、足りないスキルをデータベース化し、AIがレコメンドしていくことが必要になる。

3つ目はダイバーシティーとインクルージョンだ。これらに取り組むことで、画一的な社員育成から、個を生かすHRマネジメントに変わることが期待できるとしている。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする