コロナ時代の「オフィス再構築」が、ただ「縮小」では終わらない理由 総務にとってチャンスか、ピンチか

2001年前後のITバブル、08年のリーマンショックなど、市場を揺るがす大きな環境変化が起きた際には必ずといっていいほど、オフィスの再構築が起きています。そんな歴史の観点に立つと、新型コロナウイルスの感染拡大が引き起こした「オフィスの再構築」(リストラクション)は定番の流れでもあります。

ただ今回のコロナ禍は過去の変化とどのように性質が違うのでしょうか。それらを解き明かすと、これまでと共通する一般則と今回新たな進化を促している特殊な側面が見えてきます。

まだコロナ禍の最中なので、総務は大きな環境変化に対する経営判断を仰ぎながら対応に追われ、どちらかというと戦略というよりは目先のオペレーションに翻弄(ほんろう)され試行錯誤しているかもしれません。ただそのような時だからこそ、過去の経験、その連続する軌跡を振り返って分析すれば、今後の総務の戦略、役割変化、その進化の方向を冷静に予測できるのではないでしょうか。

著者紹介:金英範
株式会社 Hite & Co.代表取締役社長。「総務から社員を元気に、会社を元気に!」がモットー。25年以上に渡り、日系・外資系大企業の計7社にて総務・ファシリティマネジメントを実務経験してきた“総務プロ”。

インハウス業務とサービスプロバイダーの両方の立場から、企業の不動産戦略や社員働き方変化に伴うオフィス変革&再構築を主軸に、独自のイノベーティブな手法でファシリティコストの大幅な削減と同時に社員サービスの向上など、スタートアップから大企業まで幅広く実践してきた。

JFMAやコアネットなどの業界団体でのリーダーシップ、企業総務部への戦略コンサルティングの実績も持つ。Master of Corporate Real Estate(MCR)認定ファシリティマネジャー、一級建築士の資格を保有。

ただ「縮小」では終わらない理由
私自身の25年間、外資系・日系企業の合計7社をまたぐ“総務プロ”としての経験からすると、ITバブル崩壊(01)、リーマンショック(08)、コロナ変革(20)では図のような変化が起きています。

いずれも総務の立場から共通していえる部分は、不動産(オフィス)需要の縮小、つまり市場からすると、その後、空室率が上昇したことがファクトとして挙げられます。

ただここで注意が必要なのは、ITバブル、リーマンショックの際は「人材リストラ」(解雇)と無駄の排除(遊休資産の整理など)に基づいて起きたオフィス縮小であって、その後のリバウンド期(09年~19年)で解消したことです。その後のオフィス需要は「働きがいあるオフィス」「カッコいいおしゃれなオフィス」というトレンドとともに、むしろニーズが沸騰し、坪単価も上昇の一途をたどりました。

直近10年間に総務を経験された方々は、これらを肌で感じていることでしょう。自分たちの働く魅力的なオフィスを顧客や新入社員へ紹介する「ライブオフィス」が流行したのもこの延長線上のトレンドです。

会社内では「何でも屋」といわれる総務として、中にはつまらない仕事(失礼!)も正直たくさんある一方で、この「自社の魅力的なオフィスづくり」や新オフィスへの移転プロジェクトなどは非常に楽しい仕事の一つとして挙げられます。

インテリアレイアウトやホスピタリティあるオフィスサービスの構築など女性を中心にそのスキルを磨くチャンスも広がったことも事実です。社員への福利厚生の進化も優秀人材獲得戦略の一つとして、多くの企業である意味、競争が生まれるほど過熱してきました。総務の戦略と実践に大きな影響を与えている、健康経営、ウェル・ビーイング、ダイバーシティなどのキーワードも登場し、日々もろもろの活動に取り組んでいます──そんな状況で、今回のコロナがやってきたのです。

では、今回のコロナによるオフィスの変革は、過去の変革とは何が違うのでしょうか。上記に挙げたキーワードのように、ここまで総務の業務内容の健全な進化に対し、今後どのような方向修正が求められるのでしょうか。こうした変化は、総務やファシリティマネジメントのキャリアにとってチャンスなのか、それともピンチなのでしょうか……。

私の場合は、大きな「チャンス」と捉えています。

図表の「不動産」に関して比べてみましょう。リーマン危機の時は、市場の縮小に伴い、ビジネスの内容は変えずに規模を縮小、それを追うようにしてリストラを実施する企業が多かったため、単純にオフィスのニーズ減少に伴い、不動産市場の収縮が起きました。

これに対し、今回のコロナ危機のケースで明らかに違うのは、リストラが限定的なのに加え、テクノロジーの進化によりリモートワークが十分可能で生産性を維持できていること。そしてビジネスパーソンがこのことを実感し、働き方が変わってきている点です。その結果、不動産ニーズが減少しており、私は「健全な減少」と表現しています。

この2つの状況を、総務の視点で見るとどうでしょうか。

リーマン危機の際には経営の判断とそのインプットをベースに、例えば、社員リストラプランやビジネス戦略と連動する形で、オフィスの賃貸借契約、定期借家契約と普通借家契約の見直し、コスト削減などを行うことが総務の仕事でした。つまり変数は1つです。

しかし今回のコロナ危機の場合は、経営の変革に加え、ユーザー側の変革も同時に起きているので、変数は2、さらにはソーシャルディスタンス、ニューノーマルといわれる行動様式の変化まで配慮すると、変数は3、4と増えています。だから難しいのです。こうした経験したことのない難しさは、総務にとってピンチでしょうか。

何でも屋でもあり、火消し役でもあるといわれるのが総務であり、会社経営の長い期間の中で、どの部門にも単独で任せられないような事象やニーズが発生したときに、まず対処を求められるのが総務です。環境対応、危機管理、コンプライアンス、CSRなど今となっては主流となった職務もその例です。

経営から見たら、専門部署ができるまでの立役者はまさに総務の仕事なのです。つまり総務が今、「経営から注目されている」ということです。これをピンチと考えるか、チャンスと考えるかは、総務の皆さま次第です。持ち前の「火事場のばか力」を出すチャンスなのです。

では、どのようにしてこの数十年に一度くるかこないかのチャンスを生かすことができるのでしょうか。

本連載では、総務の多岐にわたるジョブと今後の進化の方向性、今回のチャンスをものにするために自分が取るべき行動、他社の単なるまねではなく、外部の知見を生かしながら自分の会社に合った解決策を探る方法など、具体的に読者の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

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