コロナ対策? トヨタが非対面中古車ビジネス

トヨタの攻勢が凄まじい。このところ毎週のように新しい仕掛けが飛び出してくる。今回は中古車のオンライン販売だ。

中身の具体的な説明に入るより前に、この取り組みが何を生み出すのか? もちろんそれは筆者の見立てだが、そこから述べてみたい。

中古車ビジネスの構造
長らく、自動車メーカーの仕事は、新車を作って売って、それをメインテナンスすることだった。中古車の売買はかなり早い時点から事業の一角に組み入れられていたものの、それはやはり新車販売の副産物に過ぎなかった。下取りが入ってくるから売る。どこか、ことのついでという認識がついて回っていたと思う。

ひとつの例が中古車買い取りビジネスの台頭だ。メーカー系ディーラーに比べればブランド面でも資金力でも劣る買い取り専門店が急成長をしたのは、そこにビジネスの隙があったからだ。

昨今は多少事情が違ってきているが、筆者がホンダのディーラーで整備士をやっていた三十数年前は、メーカー系ディーラーの営業とはイコール新車営業だった。毎日の朝礼で売り上げを報告しては褒められたりしかられたりし、そこで成績が上げられないものが中古車担当に回される。

当時の中古車セールスは、ただ店頭に並べられたクルマを見に来た客の対応をするだけで、実質的には店頭の中古車をキレイに磨き上げて見栄えを良く保つのが仕事だった。

その中古車は新車担当の営業が下取ったものだ。中古車は相場ものなので、さまざまな要因で値段が上がったり下がったりする。新車営業は新車を売るのが仕事なので、中古車の査定には精通していないし、そもそもほとんど関心がない。査定価格一覧が載った本をめくって、傷や故障の有無を減点して査定するだけだ。そこには人気色の概念すら明確にはない。

などというビジネスを続けていただけだから、買い取り専門店がどんどんビジネスを伸ばしていった。彼らはオークションの動向を、株式トレーダーのようにチェックし、オークションで売れるクルマの価格を決める要素、例えばグレードやボディ色やオプション装備などがそれぞれどう影響し、そこに季節変動がどう関係し、詰まるところ今この瞬間いくらの値が付き、それでいくらの利幅が取れるかを徹底的にデータ化したのだ。

ディーラーのぬるい査定と買い取り店の厳しい査定、どちらが高くクルマを買い取れるだろうか? 多くのディーラーでは間違って損をしないように、高めの安全係数をかけて安く査定する。そこに精度の高い査定ができる買い取り専門店が現れれば、買い取り額に大差がつくという寸法だ。しかも情けないことに、新車を売るのが仕事の新車セールスは、ビジネスチャンスを買い取り専門店に取られても、気にすることは全くない。むしろ高い買取によって本業の新車を購入してもらう原資が増えグレードをステップアップしたりオプション装備が増えたりして大喜びだったりするのだ。しかしそれももう10年前の話である。ビジネスの構図がそれからどう変わったかは後述する。

自動車メーカーの思惑
自動車メーカーもそういう構造に徐々に気づき始めて、トップダウンで「下取りを取り漏らすな」という命令は10年ほど前から出ているらしい。というのは買い取り業者から聞いた話で、昔はディーラーに来た客が下取りに満足しないと、大っぴらに彼らが紹介されたが、すでにその当時、営業が会社に内緒でこっそり紹介してくる状況だったという。まあ新車セールスにとって、下取りは、新車購入の原資作りのための一手段に過ぎないのは構造的に変わらないのだ。

自動車メーカーにとっては、それは取りっぱぐれているビジネスである。新車にナンバーが付き、クルマとしての使命を終えてリサイクルされるまで、平均で13.26年(一般財団法人自動車検査登録情報協会調べ)となっている。

最初の車検が3年目、2度目の車検が5年目、それからおよそ4回車検を取って廃車になるということになる。そしてその間には多分2回ほど売買されるのではないか? と考えると、1台のクルマは3人のオーナーの間を渡ることになり、その度にビジネスチャンスがやってくるわけだ。

従来、メーカー系の自動車ディーラーは、中古車の売買に関与するのはせいぜい最初の1回だけ、それは3年目か5年目の車検のタイミングだ。5年目の車検時には、コンディションや走行距離によって、自社で扱わずに、オークションに出すケースも多かったのではないかと思う。

そうやってディーラーから放出されたクルマは街場の中古車屋扱いとなって、再流通してきた。しかしこれらの再流通をメーカーがビジネスにしない手はない。つまり、トヨタはクルマを作ってから廃車までの全ライフについてビジネスの範囲を広げようとしている。

中古車販売の合理化
しかしながら中古車ビジネスはそれなりに手間がかかる。中古なので、それなりに損耗はしているから故障リスクは必ずある。新車より安いのはそれが理由だし、新車と違って保証が付かないのが本筋だ。原理主義的には、使い減りして損耗して安い分、壊れることは織り込まれた価格なのだ。しかしながらお金を出して買ったお客にしてみれば、中古とはいえ、買ったばかりで壊れたのでは納得がいかない。そこは短期間なりとも保証を付けざるを得ないが、利幅の中で収まるかどうか分からないそのアフターサービスは売る方にも博打性がある。

加えて、クルマはそれなりに高い買い物なので、その場で衝動買いということは起こらない。何度も商談して、ようやく客が買う気になったもののローンが通らないで全部無駄骨になることもある。新車と違って元々利幅が薄いのでそのリスクを織り込むのが難しいのだ。

という面倒な事例を回避するのにWeb販売は都合が良い。トヨタのシステムの場合、顧客の来店は納車時の1度だけ、その間クルマを見ることはできない。代わりに掲示板で気になる部分についてオンラインサポートを求めて、写真や文章で車両の状況を確認することになっている。これはオープンな掲示板なので、他の客が質問した内容も見ることができる。これが「非対面販売」の基本的な形だ。

中古車買取業者が、トレーダーのようにデータを駆使してメーカーを出し抜いていたのはもう過去の話になった。トヨタは傘下にオークション会社を持っている。株式に例えれば証券取引所のデータがそのままトヨタに流れ込む構図である。そのデータを分析すればまさにリアルタイムで相場を把握できる。データ化が進めば利幅は縮む。台当たりの利益が極小化される世界では、それをいかに少ないステップで、省力化して売るかの勝負になっていくのだ。そこをトヨタはどうしたのか?

顧客はトヨタ中古車オンラインストアから、クルマを選ぶ。手順は以下の通りだ。

1. 「トヨタ中古車オンラインストア」にアクセスし、希望のクルマを選択

2. オプション・支払い方法等を選択すると、自動で見積もり作成

3. お客様情報をページ上に入力。注文を確定すると、承諾メールが届き、契約完了

4. 注文承諾メールに表示される口座番号へ銀行振り込み、もしくは分割払いでお支払い

5. 登録関連書類を郵送で受け取り、必要事項を記入・返送後、約2~3週間で納車可能(店舗での受け取り)

オプションでは車両の磨きや室内クリーニングなど、中古車ならではのサービスから、部品・用品の取り付けまでさまざまなものが選べる。見積もりはWeb上での自動作成で、個人情報を入力する前にチェックできるので、見積もりを作ったせいであとあと煩わしい営業を受けることなく、何台でも好きなだけ見積もりが取れる。見積もりに納得してから初めて個人情報入力に移る仕組みだ。ローンの審査もオンラインなので、対面でローン審査落ちを告知されるような辱めも受けない。

店の側にしても、車両状態の問い合わせ以外に、無駄骨折りが発生しない。トヨタは例によって、全部の販売をこの方法にする気など毛頭ない。今までのように対面で販売を希望する客がこれを使う必要はないので、社員がWebに仕事を奪われるようなことにもならない。ただ個人の気質として、対面が苦手だったり、いろんな気遅れをしたりするような客にとって、今までなかったアプローチになるはずである。

トヨタは過去一年、このシステムの試験運用をやってきた。その結果、非対面システムで売れるのは安いクルマだということが分かった。

いわれてみれば、300万円の中古車を現物を見ないで買う客は少ない。30万円とか50万円のクルマなら、期待値そのものが低い。それでもそういうクルマを見ないで買うとなれば、街場の素性の分からない中古車屋から買うより、トヨタのディーラーから買うことにメリットを感じるだろう。実際トヨタでは12カ月点検相当の整備を行ってから納車するし、1年から最大3年までの保証オプションも付けられる。これは車両によって違うが、例えば筆者が試しにチェックしたアリオンは3年保証が2万5520円だった。

トヨタから出たリリースには、取ってつけたように、コロナ時代の非対面販売もメリットに挙げているが、コロナ以前から試験運用をしていたことからみても、それはついでの話でしかない。

その一手先
トヨタが狙っているのは、これを起点にした自動車販売ビジネスのトータルアップデートだろう。ひとまずのスタートは東京、大阪、名古屋の3都市からだが、エリアとしても扱い台数としてもこれを拡大していく予定だ。

実績のある安い中古車を入り口に、徐々に高価格な中古車へ広げていくとトヨタはいうが、筆者は中古車だけのはずはないと思っている。新車だって対象にしない理由はないし、実質的に新車に近いは新古車などはすぐに対象に入ってくるはずだからだ。

顧客が購入方法として選ぶ選択肢の1つに、こうした非対面、ほぼ自動のWebシステムを織り込むことは、未来のさまざまな可能性に唾を付けておくことになるはずだ。

現状の目的は、安価な中古車の販売方法といっているわけで、別にそれだけの機能でもトヨタ的には困らない。やがて中古の中で広い価格帯に寄与するようになれば万々歳だし、もっといえば新車までこのシステムで売れるようになればより喜ばしいだろう。

いつも思うが、トヨタの戦略はガチガチに硬い勝てる勝負の向こう側にジャックポットが用意される二重構造になっている。その両方があるからトヨタは強いのだと思う。

(池田直渡)

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