ホリエモンがプロデュース WAGYUMAFIAがコロナ禍で見いだしたECとライブコマースの可能性

「2020年はオリンピックがありますから、この5年で頂点をとれなかったら難しいと思って取り組んでいます。最初の5年間は集中できるのと、やっていて楽しいので一番伸びる時期ですよね。そこで集大成まで持っていきたい」

20年1月に公開したインタビューで、WAGYUMAFIA(東京・港)代表の浜田寿人はこう答えていた。幾多の挫折を繰り返しながら、浜田は「世界一」への階段を着実に歩んでいたはずだった……。

和牛を世界に輸出し、国内と香港で高級和牛レストランなどを展開している同社。最高級の和牛ブランドを世界に広めるというコンセプトのもと、16年に設立してから急成長を遂げてきた。その過程は「浜田寿人の肖像」でレポートした通りだ。

立ち上げから5年を迎える21年には、和牛レストランとして世界の頂点に立つという目標を掲げ、世界の主要都市への出店を計画。営業利益3億円を目標に掲げた今期も、1月までは順調だった。

ところが――。そのWAGYUMAFIAも新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響をもろに受けた。和牛の輸出は止まり、海外で予定していたポップアップイベントも全て中止に。国内ではインバウンド客も失って、2月からの3カ月間で売り上げは対前年で約2億円も減少した。

それでも、新型コロナの終息を指をくわえて待ってはいられない。EC(電子商取引)やライブコマースを新たに始めるなど、共同設立者であるホリエモンこと

堀江貴文と共に戦略を練り、国内の飲食事業に関しては、5月以降何とか立ち直りつつある。最高級の和牛の買い付けも止めることなく続け、輸出もアジアを中心に再開した。ただ、インバウンドが戻る気配はまだない。現在はもがいている最中だ。

浜田は新型コロナの影響に対応する中で、飲食店の成功について「店舗数×αの時代は終わった」と語った。つまり店舗の数を増やしていくだけの時代はすでに終わっているのだ。和牛生産者とともに、コロナ禍をどのように乗り切ろうとしているのか――。浜田に話を聞いた。

輸出不可、予約300件キャンセル、香港もストップ
浜田が最初に異変を感じたのは1月下旬だった。香港にあるWAGYUMAFIAの海外旗艦店で、2月に予定していた海外シェフとのイベントが中止になったのだ。前月に中国・武漢市で新型コロナの感染者が初めて確認され、日本国内では1月16日に最初の感染者が確認されたばかり。その時点で、「おそらく客はこないだろう」と考えた香港側のスタッフが要請し、イベントの中止を決めたのだ。

WAGYUMAFIAはグループで高級和牛レストランなどを国内4店舗、香港に3店舗運営するとともに、最高級和牛を海外に輸出。世界各国のシェフとポップアップイベントを開催するワールドツアーも展開している。浜田は2月もオランダや英国の各地でイベントを開催したものの、その間に日本では横浜に入港したダイヤモンド・プリンセス号の乗客に感染が広がり、3月には欧州で感染爆発が始まった。そのタイミングで同社の事業にも、突如として暗雲が立ち込めたのだ。

計画では春節、花見、ゴールデンウィーク、東京五輪という「ゴールデンスケジュール」のはずだった。

「3月23日に英国がロックダウンした頃には、日本でインバウンドの予約300件が一気に消えました。これはまずいと思って、堀江と緊急経営会議を開いて対応策を検討しました。堀江は『完全にビジネスモデルの崩壊だ』と言って、落ち込んでいましたね」

WAGYUMAFIAブランドの国内4店舗のうち、インバウンド客が95%以上を占めていた高級カツサンドの店をはじめ、合計3店舗を休業。唯一残した港区西麻布の店舗では焼肉弁当のテークアウトを始めた。しかし、国内飲食事業は60%近くがインバウンドの客だったため、その売り上げは消えたまま。和牛の輸出も止まり、香港の旗艦店も売り上げが大幅減となった。

「国内飲食事業、和牛の海外輸出、香港の飲食事業が全て壊滅的な影響を受けて、トリプルパンチでしたね。大打撃という言葉以上の打撃でした。グループ全体では2月からの3カ月間で、約2億円の売り上げが消えました。特に3月は大赤字です。ワールドツアーは25本がキャンセルになり、銀座でオープンする予定だったインバウンドも視野に入れた旗艦店の新店舗はストップさせました」

国内では4月8日、緊急事態宣言が7都道府県に発出された。飲食店は営業時間の短縮が要請されて、段階的に解除されることにはなったものの、米国や欧州ではさらに感染爆発は続き、多数の死者が出る事態となった。新型コロナの影響を見ながら、いかにして経営をしていくのか――。悩む日々が続いた。

「3月の段階では、日本と海外の感染の違いが見えていませんでした。僕の主治医はソーシャルディスタンスはとらずに、スウェーデンと同じように集団免疫を目指しながら経済を回した方がいいと言っていました。一方で、『海外と日本では感染力が違う』と話す人もいましたね。

僕らは国際的なブランドを目指しているので、日本の状況だけを見て、いままでと同じように営業し、ワールドツアーをするのでは、国際的な批判にさらされる可能性があります。だから、国際的な世論に合わせる必要がありました」

仮に国内の店舗で夜の営業ができるようになっても、インバウンドがすぐに戻らないのは確実だった。現在の業態自体を根本的に見直さざるを得なくなった。

コストを圧縮しながらEC事業を立ち上げ
浜田はコストを下げるため、絞れるものはとことんまで絞ることを考えた。まず、家賃の交渉。休業した全ての店舗と、新たにオープンしようとしていた店舗の家賃は、ビルのオーナーと交渉して減額に応じてもらった。解約できるものは解約し、助成金など、行政による支援にもアプローチした。

アルバイトの人数も絞らざるを得なかった。その上で、これまで各店舗にいたスタッフを西麻布の1店舗に集めた。朝からの通し全日営業や、弁当などのテークアウト事業を始めていたものの、それだけでは成り立たない。新たな事業として取り組み始めたのが、EC事業だった。

国内では和牛のセットを販売。海外には食品を送ることができないため、全世界に同社が扱う日本の調理器具、Tシャツなどを販売した。新潟・燕三条にあるホンマ科学の包丁「グレステン」のWAGYUMAFIA特注バージョン、長い間一緒に展開してきている愛知ドビーによるバーミキュラの鋳物ホーローのフライパンなどに、かなりの注文が入った。

さらにECを盛り上げるために実行したのが、インターネット上で商品を紹介するライブコマースだった。その取り組みは、インスタグラムなどで世界の顧客にリーチしてきた、WAGYUMAFIAの強みを生かすことでもあった。

「インスタではWAGYUMAFIAグループ全体で30万人弱のフォロワーがいました。それに、堀江はTwitterのフォロワーが350万人、YouTubeの登録者数が100万人以上です。このつながりが生きて、1回のライブコマースで100万円ほどの売り上げを出すこともありました。ソーシャルメディアが店舗の代わりになるという可能性を感じましたね」

弁当、EC、ライブコマースの取り組みがけん引して、コストの圧縮とあわせると、4月の国内飲食事業は何とか黒字に持ち込めた。依然として海外輸出は止まっていたため、グループ全体の売り上げダウンは続いていた。だが、新たな取り組みに手応えを感じたことで、浜田は5月から新たなプロジェクトをスタートさせる。

生産者から和牛や食材を購入して支援
新型コロナの影響によって、飲食店に食材を提供する生産者も苦しんでいた。WAGYUMAFIAはもともと最高級の和牛を世界に広める目的で設立した。その生産者たちが苦しんでいる状況が、浜田の耳にも入ってきていた。

「最高級の和牛を扱っている生産者の売り上げが前年の10%になったとか、廃業の危機に陥っているとか……さまざまな窮状を耳にしました。とはいっても、最高級和牛を買える業者はわずかです。当社もお金が十分にあるわけではありませんでしたが、生産者から和牛を買おうと決めました。生産者と一緒にこの危機を乗り越える方法をチーム全員で考えた結論です」

生産者と一緒に乗り越えようと、プロジェクトは「WAGYUMAFIA RIDE IT OUT PROJECT」(乗り越えろ)と名付けた。生産者から買った和牛は10頭。1頭あたりの価格は200万円から300万円だ。弁当やECで販売し、集まって食べてもらう試みをするなど、1頭の和牛をさまざまな商品にして販売した。

同じように、和牛以外でも普段から付き合いがあったウニの生産者や豊洲市場の業者からも、高級ウニを400箱購入。契約している茨城県土浦市の久松農園、青森県のニンニク農家、長野県安曇野市のわさび農園、青森県の大鰐温泉から特注のもやしなど良質な野菜を次々と送ってもらった。ECやライブコマースを駆使して、売り上げを伸ばしていった。

「このタイミングで実験できることは全部やってみました。ライブコマースと、ECサイトのBASEに作ったショップで、売れるものは全て売りましたね。僕はコロナは終わらないと思っているので、実験してよかったものは優先順位を上げ、残すようにしました。ECは新たな事業部を立ち上げるような文脈になって、次の可能性が見えたと思います」

その結果、5月の国内飲食事業は、WAGYUMAFIAブランドの店舗を4つから1つに減らしたにもかかわらず、前年対比で110%を達成した。しかも、全体の60%近くを占めていたインバウンド関連の売り上げがなくなった中での前年超えだ。浜田は「売り上げを前年比でダブルスコアに伸ばしたような達成感だった」と表現した。8月には対前年比で125%を記録するに至る。

インバウンドが戻らない中でどう攻めるか
とはいえ、6月に入ってからはまた事情が違ってきた。営業の自粛が解除されると、弁当やECは以前のようには売れなくなる。毎月戦略を変えなければならなかった。同時に店舗を、通常の営業に戻す方法を模索し始めた。WAGYUMAFIAブランドの店舗は、3店舗を開けることにしたものの、インバウンドが戻る見通しは立っていない。

「外国人客はゼロに近い状況です。戻ってくるのは、10月、11月頃からぽちぽち、という感じではないでしょうか。それまではほぼ全滅だと思っています」

それでも、少しずつ攻めることも考え始めた。新業態のスタンディング焼肉バーとして、新宿・歌舞伎町に昨年オープンしたYAKINIKUMAFIAの最大規模となる店舗を5月下旬、香港にオープンした。一緒にYAKINIKUMAFIAを展開する経営者を募って、全てのノウハウを公開しながら和牛ブランドを盛り上げていく「焼肉社長」の取り組みも本格的に始めた。この時期にあえてYAKINIKUMAFIAの展開を進めるのは、生産者と直に取引する利点を生かせると考えたからだ。

「僕たちが作っているのは、和牛の生産者や契約農家が育てたものを、市場に通さずに仕入れて直販する仕組みです。3月は急に落ち込んだものの、5月には国内の売り上げを戻すことができました。それは生産者のためにもなるはずです。YAKINIKUMAFIAや焼肉社長を広げることによって、より安定的な流通網が作れると考えています」

WAGYUMAFIAはコロナ前、海外展開とインバウンド客に事業の比重を置いていた。だがコロナによって、ビジネスモデルを短期間で転換する必要に迫られた。その場面で浜田は、発想を切り替えることができたといえる。

「かっこいいことを言っていても、やっぱり生き延びないと意味がないですよね。生産者もいますし、スタッフもいますから。今回のコロナの影響で、だめになってしまった人と、『何くそ、頑張るぞ』という人に二分されたような気がします。

もちろん大変な感染症で、多くの人が亡くなり、重傷になった人もたくさんいます。だけど、これで人間としての活動をやめるわけにはいきません。僕らは、豊かに生活を送る方法論をホスピタリィービジネスとして提供していかないといけない。そのために、生産者と共にお互いがいかにして助け合えるのかを考えています」

飲食業は『店舗数×α』の時代は終わった
コロナ禍でもWAGYUMAFIAがECやライブコマースなどで成果を出せた背景には、会員制のビジネスを基本にしていた点がある。ECでは新たな顧客を獲得すると同時に、国内外の常連客が、苦しい状況を支援しようと買い支えてくれたことが大きかった。

「海外の人は来店できないし、食品も送ることはできませんでした。それでも常連客から応援のメールがたくさん来ました。海外客には『12月頃には行けるだろうから、まず5000ドルを送りたい。受け取ってくれ』と言ってくれる人もいましたね。その気持ちはすごくありがたいです」

会員制が功を奏して、店舗の枠を超えてブランドビジネスを展開できたことは、今後の展開を考える上で重要なヒントになったという。

「新型コロナの影響によって、飲食業は『店舗数×α』という時代は終わったと思います。僕らもある程度の店舗数に広げていきたいとずっと思っていましたが、コロナの影響下では200人や300人など、大きなサイズで展開していた店は軒並み大変なことになっていますよね。

ということは、東京ならこれくらい、海外のこの都市ならこれくらい、といった適正な規模と、ECなどを組み合わせた『マルチウインドウ』で商売をする必要があると考えています。本来の飲食ビジネス――ただおいしいものを作ってお客さんを待っているだけのビジネスモデルは明らかに終わりました。そのために、お客さんを可視化することはとても重要ですよね。会員制でやってきてよかったとあらためて思っています」

浜田はここ10年ほど、1年の多くを海外で過ごしてきた。だが、新型コロナによって国をまたいだ移動ができなくなり、今回初めて数カ月間連続で日本に滞在している。この間に見た東京の状況に、複雑な思いを抱いた。

「残念だなと思ったのは、老舗がどんどん店を閉めていることです。特に、夫婦で切り盛りしているような小さな店は大変ですよね。いままで頑張ってきた店や、『オリンピックまで頑張ろう』と思っていた人たちにとって、コロナによる影響は経営をやめる理由になってしまいました。数字に出ている以上に、店がなくなっているのではないでしょうか。

他の産業と同じで、1店舗かもしれないけれども、なくなってしまったらもう元には戻らない。老舗がなくなるのは悲しいです。そういう人たちに、もう少し社会が支援する体制を作るべきだと感じています」

日本のコンテンツの素晴らしさを伝えたい
一方で、豊かな食材など、日本のコンテンツの素晴らしさもあらためて見いだしたという。新型コロナの感染が落ち着いたときには、和牛をはじめとする日本の食材が、再び世界から脚光を浴びると信じている。ワールドツアーがキャンセルになったことで、浜田は堀江とともに国内の食材、酒やレストランを探す旅を続けているという。これまでに、富山、金沢、能登、糸島、八女、久留米、北九州、宮崎、広島、盛岡に足を伸ばして、地元の名産を発掘しWAGYUMAFIAのビジネスに融合できないかを考えている。

「日本にはこれだけ豊かな食材があって、全国津々浦々に食材をめぐるストーリーがある。この食のコンテンツは、フランスやスペイン、イタリアなどにも負けていません。いまは大変な環境ですけど、僕の姿勢はポジティブですね。和牛を世界に知らしめて、WAGYUMAFIAを世界一のブランドにする考えは変わっていません。

まだ時期は分かりませんが、コロナが落ち着いたときに、日本はチャンスだと思います。インバウンドが解禁されたら、日本に殺到するでしょう。海外にいる友人のシェフたちは、『日本に住みたいから、日本語の勉強を始めた』なんて言っています。日本はコロナの影響があっても、社会が安定しているからではないでしょうか。

ただ、東京でコロナの影響がなくならない限り、日本はいい状態にはならないと思います。その時期がいつになるのかは分かりませんが、WAGYUMAFIAの存在意義を考えながら、生き永らえていきたいですね」

(ジャーナリスト 田中圭太郎)

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