画面上の「上座」に悩む前に “無言”も武器になる、コミュニケーションの本質

思わず失笑してしまうニュースが飛び込んできました。

新型コロナ感染拡大以降、頻繁に使われるようになったWeb会議システム「Zoom」に、“上座”指定が可能になる機能が加わったというのです。

新機能の名前は「カスタムギャラリービュー」。会議に参加する人の画面を必要に応じて並び替えることが可能で、「〇〇部長はここ!」「△さんはプレゼン担当だからこっち!」といった具合に、役職者を画面の上座に固定したり、責任者を目立つように配置したりできるそうです。

まぁ、会議の主役となる人を目立つ場所に固定できるのはいいことだと思いますが、Zoom側に「上座・下座」という認識があったとは、到底思えません(もし、あったなら失礼!)。

しかしながら、新機能が報道されるや否や、SNSでは「間違ったらヤバくね?」「上座ってどこなんだよ!」「つーか、こんなのできると『Web会議のマナーを守りましょう!』とか、うざいこと言い出す人が出てきそう」など、“ネット上座”に関するコメントが殺到したのです。

なるほど。裏を返せば、リアル世界で「上座問題」は結構センシティブな問題ってことなのでしょう。

確かに、私自身、講演会に呼ばれて役員と同じ控え室に通された時など、「あれ? どっちに座ればいいんだっけ?」と悩むこともしばしば。世の中には、たとえ相手が「ゲスト」であっても、「自分より上」に座る若手や女性を面白く思わない人もいますから。はい、気を遣うわけです。

とはいえ、こちらが「どうぞどうぞ」と頭を下げることで、相手が少しでも気持ちよくなってくれれば、それはそれでオッケー。だって、その方が確実にファーストインプレッションは良くなりますし、そのあとのコミュニケーションもうまくいきます。

コミュニケーションの一環として“ネット上座”もあり?
コミュニケーションは「言葉のキャッチボール」というように、言葉のメッセージの意味を決めるのは常に「受け手=キャッチする人」です。コミュニケーションに悩むのは「投げ手」なのに、受け手が主導権を持っているという理不尽が存在します。だからこそ、コミュニケーションは永遠のテーマになりうるわけです。

そうです。相手に敬意を払うことはコミュニケーションを円滑にする基本なのです。

いずれにせよ、Zoom会議に慣れないベテラン上司が、「Zoomで自分の顔を大きく映してほしい!」とぼやいているなんて記事が話題になったこともありましたね。リアル会議なら「上座」にドンと座るだけでアピールできた人たちが、Web会議ではそれができない。

悲しいかな、人は「変化」を恐れる生き物です。とりわけ肉体的にも、精神的にも、社会的にも、それまで当たり前のようにあったモノがだんだんと消えていく現実と向き合うのは、とてつもなくしんどい作業です。

今までならその恐怖から逃れるために、部下たちに「過去の栄光」を自慢したり、部下の意見にケチをつけたりすることで「自分の存在価値」を誇示できました。でも、今はそれができません。会社に行くことが減り、無駄話をする機会も激減し、「仕事をやってるふり」もできなくなりました。

会社で見えていた景色(=部下たちがいる)と、PC越しに見える景色が違いすぎることで、自分の存在価値まで失われてしまうのでは? と不安になる人もいるかもしれません。

ですから、「ネット上座」だろうとなんだろうと、自分が“立てられて”恐縮する人はいますが、怒る人はめったにいませんから、ものは試しでやってみるのもアリかもしれません。

と同時に、Web会議では「コミュニケーションが取れているようで取れていない」という現実も忘れないでください。

印象は「表情と声」が9割
そもそも、コミュニケーションとは単なる「言葉」のやりとりだけではありません。

真のコミュニケーションは、視覚・聴覚・臭覚・味覚に訴える、文字で表現できない何百もの情報のやりとりで成立します。いわゆる「ノンバーバルコミュニケーション」です。

ノンバーバルコミュニケーションは、言葉によるバーバルコミュニケーションよりも、相手に与えるインパクトは強く、それを実証した実験の1つが、米国の心理学者、アルバート・マレービアン(メラビアン)博士による「マレービアン(メラビアン)の法則」です。

この実験では、コミュニケーションが顔の表情(55%)、声の質(高低)や大きさとテンポ(38%)、話す言葉の内容(7%)の割合で成立していることが示されました。つまり、受け手がキャッチする9割の情報は、「顔の表情や声の質」。もっとも、前述した通り、ノンバーバルコミュニケーションには、この実験で用いられた顔の表情や声以外に相手との関係性も影響を与えます。

Web会議だと、つい「どんな言葉を使うか? どんな資料を見せればいいのか?」といったプレゼンスキルに意識が行きがちですが、そこにいるのはしょせん「人」。人には目があり、耳があり、空気を読み取る感覚もあるということを、決して忘れてはいけないのです。

例えば、自分の顔を出さず「名前表示」だけで参加する人がいますが、顔が見えないことはそれだけで相手を不安にさせます。Web環境によっては、顔出しが厳しい場合もありますが、「自分のため」だと思って工夫してみてください。

そして、もう一つ。Web会議では「間」を作ってみてください。

「間」は究極のコミュニケーション
「間」は究極のノンバーバルコミュニケーションで、受け手が「この人は何を言おうとしてるのだろう?」とあれこれ思いを巡らす、極めて重要な時間です。あえて言葉をなくすことで、より効果的にメッセージを伝えられることもあります。

コミュニケーションのうまい人は、たいていこの「間」を巧みに使います。わざと言いよどんでみたり、途中で水を飲んでみたり。ときには「……」という空白の時間が、相手との距離を縮めることだってある。

個人的な話になりますが、私はテレビの仕事を始めたときに、久米宏さんに最初に言われたのが「間を大切にしなさい」ということでした。そして、「落語を聞くと、間の使い方が分かるから聞いてごらん」とアドバイスを受けました。

1人で何役も演じたり、そのシーンの雰囲気を伝えたりするのが落語で、言葉の間に絶妙な「間」があるというのです。勧められた通りに落語のCDを買って何度も聞いてみましたが、当時はいまひとつ「間」の意味が分かりませんでした。

しかし、実際のテレビで生放送を何度も経験するうちに、しゃべり続けるのではなく、一瞬でもいいから「間」を置くと、相手に伝わりやすくなることに加え、自分もうまく話せることに気が付きました。生放送は決められた時間の中で情報を的確に伝えなくてはなりません。時間との勝負で、あれもこれもと話そうとすると頭がいっぱいになってしまいます。ところが、「間」を取りながら話すと、自分の伝えたい情報がうまく言えるようになっていきました。「間」を置くことで、誰かと対話しているような感覚になり、それが視聴者への分かりやすさにつながっていったのです。

言うまでもなく、久米さんは「間」の天才でした。当時、番組には大物政治家が「出たくない!」と言いながらも出てくれていましたが、政治家が何よりも嫌ったのがCMに行く前の、久米さんの間です。

……と、「ネット上座」の話題からテレビの話まで、今回は少々話が飛びましたが、この数カ月の変化のスピードは、生身の人間が耐えることができる限界を完全に超えていることだけは確かです。

Webはつながっているようで、つながっていない。頭は「つながっている」と認識しても、心が孤独感を抱くことがあります。ですので、「仲間外れ感」に苛まれている人を社内で量産しないためにも、あれこれ五感を駆使したコミュニケーションのあるWeb会議にトライしてみてください。

(河合薫)

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