コワーキングスペースのWeWork最高戦略責任者に聞く「コロナ時代のオフィス」とは?

新型コロナウイルスの感染拡大は、都心のオフィスに対する企業の考え方を大きく変えようとしている。富士通がオフィス面積を3年で半減する計画を明らかにしたり、花王がグループ販社の営業拠点をサテライトオフィスとして活用したりと、伝統的な日本企業の中にも変化が生まれている。

このニーズに応えようと、国内33拠点でコワーキングスペースを展開するWeWork Japanは、今年7月に新たなプランWe Passportを導入した。

We Passportは、契約したプライベートオフィスに加えて、WeWorkが国内で展開する全ての拠点の共用エリアを利用できる。在宅勤務の増加などから現在のオフィスを縮小しようと考えている企業をターゲットにした、日本独自のプランだ。

WeWork Japan最高戦略責任者の高橋正巳氏は、前編のインタビュー「WeWork日本法人がコロナ禍でも拡大路線を続ける理由」で「働き方が多様化していくなかで、オフィスも1拠点集中型から多拠点分散型に変わっていく」と語っていた。後編ではWe Passport導入の狙いを聞いた。

働く場所はオフィス・在宅・サードプレースの3択に
――新型コロナの感染拡大の影響で、日立製作所や富士通などの大企業やIT企業などが、緊急事態宣言が解除されたあとも在宅勤務を継続することを決めています。We Passportはこのような企業の動きも踏まえて導入したのでしょうか。

大企業に限らず、コロナ禍によって世の中が一変して、働き方が一気に多様化したと思っています。コロナ前から働き方改革関連法が施行されるなかで、働き方をどうするのかは国内の企業では大きなテーマになっていました。それが一気に加速して、次の段階に入ったと考えたのが、導入の大きな理由です。

――働き方の多様化は、具体的にはどのように起きていると見ていますか。

以前は出社して仕事をするという固定概念があったと思います。それがコロナ禍では、在宅勤務がかなり多くの企業で取り入れられて、在宅勤務と、必要に応じて出社することの2択に働き方が変わりました。緊急事態宣言が解除されたあとは、企業によってはオフィスに出社する形態に戻りかけているところではないでしょうか。

しかし、これからのことを考えると、WeWorkのような場所をサードプレースとして使うことも一般的になると考えています。働く場所がオフィスと、在宅と、サードプレースの3択になっていくという予測です。

――その予測は、利用者の声から感じたことでしょうか。

在宅勤務を実施して感じたことは、人によって異なりますよね。「出勤がなくなったから生産性が向上した」という方もいれば、逆に「自宅の設備が十分ではないので生産性が低下した」と感じた方もいます。

また多くの方が課題として挙げているのが、コミュニケーションですね。社内で円滑なコミュニケーションを図るには、やはりテレビ会議以外で顔を合わせる場も必要です。いろいろな方の話を聞いて、在宅で全ての業務ができるわけではない状況があると考えました。

そこで、サードプレースとしてのWeWorkをより柔軟に、フレキシブルに使えるようにしたのがWe Passportです。

既存のオフィスよりも3割費用が下がる
――We Passportの料金は、どのような仕組みになっているのでしょうか。

契約いただく拠点の料金と、人数に応じたWe Passportの料金を組み合わせる形です。どれだけ在宅勤務を推進しているのかによっても異なりますが、私たちが試算したケースでは、従来の社員数に応じた広さのオフィスを借りるよりも、費用は下がると考えています。

例えば渋谷で300人が働くオフィスがあると仮定します。このオフィスを解約して、WeWorkの渋谷に100席、横浜に25席、晴海に25席というように150人分の席を契約して、300人分のWe Passportを発行すると、約27%運用コストは下がります。We Passportであれば、契約した3拠点以外のWeWorkも使えます。

この効果は企業の規模が小さくても出ると考えています。従業員が30人の企業でも、シェアオフィスは15席だけにして、30人分のWe Passportを契約すれば、コストを下げられる場合があります。30人が常に1カ所に集まる必要がある会社というのは、実際はあまりないのではないでしょうか。

――働き方の変化に対応するだけでなく、オフィスのコストを削減したい企業のニーズに応えるのも大きな狙いでしょうか。

多くの企業からは「既存のオフィスが稼働していない」「オフィスに無駄なスペースがたくさんある」という声を聞きました。同時に「既存の広いオフィスは必要ないので、運用コストも下げたい」という問い合わせも多くいただいています。

コロナ禍で売り上げに影響がでている企業にとっては、コストを下げることは喫緊の課題です。コストを下げることと、従業員の生産性や満足度を上げることとを同時に考えている企業に、We Passportのプランは刺さると考えています。

自治体の需要増加で地方創生につなげる場に
――We Passportは7月1日からの導入ですが、いつ頃からサービスの構想を練っていたのでしょうか。

複数の拠点を利用したいという要望は、以前からありました。その要望に対して、どのようなサービスを提供できるかを、半年ほど前から考えていましたね。その中で新型コロナの影響が出たので、サービス設計を固めました。

――複数の拠点を利用したい企業は、働き方の多様化以外に、どのような活用方法を考えているのでしょうか。

当社のコミュニティーチームが各拠点で開催している、メンバー同士をマッチングするイベントの効果を感じているのではないでしょうか。いろいろな拠点でコミュニティーに参加すれば、コラボレーションする企業の幅も広がります。日本で特徴的なのは、地方自治体の利用が多いことですね。

――自治体の事例には、どのようなものがありますか。

最初に入居したのは静岡市です。静岡市には抹茶を使ったイベントを積極的に開催していただいています。静岡市はWeWork内でビックカメラと出会って、地方創生を推進するための協定を締結していました。

――静岡市はどれくらいの人数で入居しているのですか。

それほど多くはなくて、数人です。東京事務所に所属する方の一部ですね。自治体と企業といった、普通にオフィスを構えていてもなかなかつながらない点と点がこうしてつながるのも、WeWorkのコミュニティーの特徴だと考えています。

――自治体の利用は増えているのでしょうか。

静岡市を皮切りに、熊本市、神戸市、神奈川県、横浜市と、確実に増えています。北海道からは帯広市と上士幌町が利用していますね。自治体のみなさんは企業との接点をきっかけに、地方創生や新しい事業につなげたい狙いがあると思いますので、自治体の需要はまだまだあると考えています。

新時代の働き方に向けて新たな価値を提案
――WeWork JapanはWeWorkとソフトバンクの合弁会社で、2018年2月にサービスを開始しました。ソフトバンクの宮内謙社長は、今年5月のソフトバンクの決算発表で、WeWork Japanについて「2020年度中に単月で黒字化を目指したい」と発言しています。この目標に向けて、現時点ではどのような手応えを感じていますか。

We Passportのサービスを開始するほか、これから新しくオープンする拠点もあります。契約者の数を増やしていくことも含めて、目標達成に向けて事業を進めているところです。

特にWe Passportのように、新しい働き方を提案していくことが重要だと考えています。世の中がこれだけ変わっていくなかで、私たちが提供できる価値も変えていく必要があります。なるべく柔軟にサービスを提供していきたいです。

――今後、WeWorkのブランドをどのように作り上げていきたいと考えていますか。

今回のコロナ禍によって働き方が変わったこと自体は、私たちにとっても転換期だと捉えています。新しい時代の働き方をいろいろな企業が模索している段階だと思いますので、こういうサービスがあったら便利だというものを提供していきたいですね。

今回打ち出したWe Passportは日本独自のサービスでもあります。日本の企業に寄り添ったサービスを提供していくことで、いままでみなさんが持っているWeWorkのイメージとは、また違った側面を打ち出していけると思います。利用している方に価値を提供できれば、ブランドにも自ずといい影響が出てくるのではないでしょうか。

――課題として考えていることはありますか。

課題というよりは、企業の需要は今後も大きく変わっていくので、私たちがどう応えていけるのかがポイントだと思っています。新型コロナが終息したからといって、元の世界に戻ることはないでしょう。

一般的にはオフィスの本社機能はいままでのように必要はなくなるけれど、フレキシブルなオフィスは需要が高まるという声もあります。私たちがプラットフォームとして複数の拠点を運営しているのは強みですので、強みを生かした戦略を進めていきたいですね。

ただ、私たちはWe Passportもニーズに合ったサービスだと思っていますが、もちろん全ての企業のニーズを解決できているわけではありません。今後もいろいろなユーザーの声を聞いて、企業が求めるサービスや働く人が求めるサービスを考えていきたいと思っています。

(ジャーナリスト、田中圭太郎)

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