なぜ「NiziU」は注目されているのか 背後に世界的プロデューサーの話術

「ここまでみんな本当にがんばったもんね、いやあ、よかった、よかった」なんて感じで、我が子のことのように喜んでいるおじさん、おばさんも多いのではないか。

本日(6月30日)、プレデビューとなるデジタル・ミニアルバム「Make you happy」が日韓同時配信された9人組ガールズグループ、「NiziU」(ニジュー)のことである。

ご存じない方のために説明をすると、「NiziU」はソニーミュージックと韓国のJYPエンターテインメントによる合同オーディション・プロジェクト「Nizi Project」で誕生したグループで、日本の8都市のほか、米国のハワイ、ロサンゼルスで応募された約1万人の中からいくつもの選考を勝ち抜いた9人で構成されている。

この「Nizi Project」内の厳しいサバイバルは、Huluで独占配信されていたが、日本テレビの「スッキリ」でもかなり時間を割いて紹介されたため、「スッキリ」視聴者の中で、気がついたらデビューを目指す練習生たちを応援していた、という人も少なくないのだ。

かく言う筆者もその一人でなんの気なしにつけているうちにまんまとハマり、先週金曜日(26日)に放映された最終回までしっかり視聴してしまった。やはり練習生が半年間も合宿生活をして、成長していく姿がおもしろかったということもあるが、何よりもハマったのは、このプロジェクトのプロデューサーである「J.Y. Park」の「愛のあるダメ出し」だ。

日本でも人気の日台韓合同ガールズグループ「TWICE」や男性アイドルグループ「2PM」を手がけたJ.Y. Parkことパク・ジニョンさんは、ご自身もアーティストとして活動してきた一方で、米国の人気ラッパー、メイスやハリウッドスターのウィル・スミス、日本のSMAPなどにも楽曲を提供するなど、まさしく世界的プロデューサーだ。

しかし、そんなスゴい人にもかかわらず、驚くほど「謙虚」なのだ。練習生に対しても常に丁寧な言葉づかいで、語り口も穏やか。偉ぶったところがまったくない。

だからなのか、練習生を褒めるときは徹底的に褒めちぎる。満面の笑みを浮かべ、「あなたに期待するパフォーマンスの中で、最高レベルでした」「あなたは(スターになる)準備ができている人です」と惜しみなく称賛を送る。そして、この手のオーディション番組の一つの目玉である「ダメ出し」もとにかく優しい。

その人に合ったアドバイス
と言っても、若い女の子たちなので気をつかって優しく接している感じではなく、悪いところはしっかりと指摘しつつも、そこに必ず本人のモチベーションが上がるようなフォローが含まれている。その絶妙なさじ加減というか、コーチングのテクニックが見事だなと関心しているうちにハマってしまったのである。

例えば、13人まで練習生が絞られた段階の中で、歌やダンスの実力があまり高くないアヤカさんという練習生の審査をしたときのことだ。J.Y. Parkは「実はアヤカさんは、13人の練習生の中でダンス・歌の実力は一番不安定です」「ほかの練習生より期待値がかなり低いです」とかなり辛辣(しんらつ)なダメ出しをした。しかし、返す刀でちゃんとこんなフォローもするのだ。

「僕はアヤカさんが本当にがんばれば、成長できると思います。もっともっとがんばれば、十分可能性があると思います。ほかの方たちには違いは分からないかもしれませんが、僕が見る限り、この1カ月、ものすごくがんばって努力した人に見えます」

このような言葉をかけられたアヤカさんは、本当に嬉しそうだった。まだまだ実力不足ではあるものの、こうして自分の努力と成長に気づいてくれていた、ということが非常に大きな励みにつながったのだろう。

その後、個人順位で12位だったアヤカさんはメキメキと頭角を現し、最終的に8位までランクをあげ、見事デビューメンバーの9人になることができたのだ。もちろん、J.Y. Parkがスゴいのはこの「愛のあるダメ出し」だけではない。一人ひとりの特性を把握して、その人に合ったきめ細かいアドバイスをするあたりも見事なのだ。

個人の歌唱力テストで高く評価されて、いきなり順位が1位になったことで、逆にそれがプレッシャーになって思うようなパフォーマンスができていなかったミイヒさんという練習生には、とにかく肩の力を抜いて楽しめるように以下のような言葉をかけている。

「1位になってから少しずつ自信を持って実力を発揮することができなくなっています。しかし、自信を持って楽しめればミイヒさんに勝てる人はいません」

「最後のステージでは必ず楽しんで思い切りパフォーマンスをしてください」

「上司」が求められる人材育成

さて、ここまで聞くと、J.Y. Parkがやっていることは何かとよく似ていることに気づかないか。実力不足の若者を成長させるため、さらなる努力をするよう導く。既に実力はあるものの、メンタルの問題でそれを発揮できない若者には、的確なアドバイスで本来の実力を引き出す――。

そう、サラリーマン社会において「上司」が求められる人材育成を、J.Y. Parkはしっかりと実践しているのだ。実際、SNSでは「私もJ.Y. Parkに褒められたい!」という声も多く、中には「理想の上司」として、オーディション中に練習生にかけた言葉を、「名言」としてまとめているサイトも存在するのだ。

という話を聞くと、「管理職は褒めてりゃいいなんてそんな甘いもんじゃない!」「結果を出させるためには、ときに心を鬼にして厳しく指導をしてやったほうが本人のためだ!」というパワ……ではなく、熱血指導をモットーとするおじさんも多いだろうが、残念ながらその「本人」たちが期待しているのは、J.Y. Parkのような「指導」なのだ。

リクルートマネジメントソリューションズが10年前から新入社員意識調査をしている。同社の新入社員向け研修に参加した若者たちを対象にしており、2020年は2030人を対象にした。その中で「あなたが上司に期待することは何ですか?」という質問に対しての回答が非常に分かりやすい。

この10年間で最も増えた回答が、「一人ひとりに対して丁寧に指導すること」(+14.9%)で、その次が「よいこと・よい仕事を褒めること」(+13%)。一方で、最も激減したのが「言うべきことは言い、厳しく指導をすること」(-18.7%)、その次が「周囲を引っ張るリーダーシップ」(-16.3%)となっている。

つまり、厳しい目標や心理的プレッシャーで部下の尻をバンバン叩き、強い組織人へと鍛え上げる上司よりも、一人ひとりの特性を見ながら、丁寧な指導で、長所を褒めて成長を促すJ.Y. Parkのような上司を求める若者が年を追うごとに増えているのだ。

褒めて、褒めて、褒めて
「そういう甘っちょろいことを言うから、最近の若者はダメなのだ」と憤る体育会おじさんも多いだろう。しかし、若者たちが上司からの「褒め」をここまで求めるようになったのは、上司側にも問題がある。あまりに褒めるのが下手くそなのだ。

公益財団法人 日本生産性本部が14年8月28日に公表した「第3回 職場のコミュニケーションに関する意識調査結果」によれば、「褒める」ことが「育成につながる」と考えている課長は98.1%で、実際に「褒めている」と回答した78.4%もいた。

しかし、一般社員側に「上司は褒めるほうだ」と感じているか尋ねたところ、48.6%にとどまっている。つまり、上司側は「オレってかなり部下を褒めているよな」と思っていても、部下側には伝わっていないケースがかなりあるのだ。

個人的に、この背景にあるのは、日本の「教育」が伝統的に「人は厳しく育てると真人間になる」と考えられていることが大きいのではないかと思っている。長所を褒めて伸ばす「加点方式」の人材育成ではなく、短所を叱って潰していく「減点方式」がスタンダードなのだ。例えば、海外では親が子どもに体罰をするのは立派な

虐待だが、日本では「しつけ」として令和の今でも根付いている。

学校でも、一人ひとりの個性に合わせて成長させるのではなく、「みんな」と同じ行動、同じ水準になることが何よりも重視されている。海外の中高生が聞いたら「軍隊みたいだね」と驚くような厳しい規律とハードスケジュールで部活動を行い、「みんな」の足を引っ張ることがないよう、熱中症でぶっ倒れるまで走り込みをさせられる。刀や包丁のように厳しく叩けば叩くほど、上の命令に素直に従う強い組織人ができ上がる、という思い込みが教育者、管理職、そして子ども側にも骨の髄まで叩き込まれているのだ。

部下を指導できない上司
こういう「教育」を生まれてからずっと受けてきた人が、上司になったからといっていきなり部下を褒められるわけがない。部下側も親や学校からずっと叱られて成長してきたので、褒められることに慣れていない。だからこそ、J.Y. Parkのべた褒め、惜しみない称賛が心に響くのではないか。

そんなJ.Y. Parkの「言葉」は、「Nizi Project」を放映していた「スッキリ」でも絶賛されている。「Park語録」という本を出してほしいというMCの加藤浩次さんに、自身の言葉が人々の心に響く理由について問われたJ.Y. Parkはこのように述べた。

「1つの仕事を長い間やっていたら、その仕事の本質的なことを感じると思います」

よく言われるが、日本のサラリーマンは諸外国のサラリーマンと異なり、スペシャリストではなくゼネラリストだ。長く同じ部署にいると仕事がマンネリ化する、組織を新陳代謝させるなどの名目で、定期異動や配置換えがコロコロある。そのような意味で、日本のサラリーマンは、1つの仕事を長くやってきたというより、1つの組織の中で長く立ち回っているという表現のほうが正確だ。

若者を褒めて伸ばすことができない。悪いところを厳しく叱ることしかできない上司は、その人自身もまだその仕事の本質的なことを理解していないからなのかもしれない。

(窪田順生)

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