出生数がついに80万人を割り込んだ。少子化は国の想定を上回る「異次元のスピード」で進んでいる。これまでの延長線上の対策では、もはや回復は見込めない。
厚生労働省の人口動態統計(速報値)によると、2022年に生まれた赤ちゃんの数は、前年比5・1%減の79万9728人だった。
出生数は第2次ベビーブームのピークだった1973年の約209万人以降、減少傾向が続き、今回、統計開始以来初めて80万人を下回った。
国の予測で2033年と見込んでいた大台割れが、10年超も前倒しとなった格好だ。
さらに死亡数から出生数を引いた自然減は78万2305人。過去最大の減少幅である。
少子化が社会問題としてクローズアップされるようになったのは、合計特殊出生率が戦後最低となった1990年の「1・57ショック」からだ。
「日本創成会議」が、2040年までに全国約半数の自治体で若年女性が半分以下に減り自治体消滅の可能性がある、との衝撃的な報告書を公表したのは14年のことだった。
岸田文雄首相は、80万人割れに危機的な状況だとの認識を示す。
だが、これまで政治の中心テーマにならなかったことを考えると、少子化の深刻さは本当の意味で共有できていなかったのではないか。
この間の政府の少子化対策も、保育サービスの拡充など子育て支援が中心で、失敗続きだったと言っていい。
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出生数減の大きな要因は、未婚化や晩婚化だ。
結婚や出産はあくまでも個人の選択だが、経済的負担の重さから、結婚や出産をためらう人が少なくないことに目を向ける必要がある。
17年の総務省のデータでは、45~49歳男性の有配偶率が正社員で80・0%だったのに対し、非正規雇用では42・7%と約半分になっている。
未婚者増の背景には非正規、低賃金といった雇用の不安定さがある。
大和総研が健康保険の支給データから加入女性の出生率の変化を調べたところ、10年度から20年度にかけ、正社員は上昇した一方、非正規や専業主婦らは低下していた。
非正規への育児支援が手薄なことや、世帯収入の低さといった格差が背景にあるとされる。
非正規で働く若者の待遇改善、正社員化の促進、所得向上などが欠かせない。
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岸田首相はかねて子ども予算倍増に言及していた。
ただ今国会では家族関係社会支出を国内総生産(GDP)比2%から倍増するとした首相答弁が一夜にして修正されるなど迷走ぶりが目立つ。
少子化対策で成果があったフランス、スウェーデンの同支出はGDP比3%前後。ドイツの国公立校は小学校から大学院まで原則無料だ。
政府は3月末にも少子化対策の概要をまとめる。
若者が希望を持てる社会をつくっていくことが政治の責務である。大胆に予算を投じ、政策に実効性を持たせるべきだ。