「歩兵戦闘車」はどこへ行く? 各国で失敗続きの次世代歩兵戦闘車開発 独英米の現状

戦車に随伴する歩兵を運び、ある程度の戦闘もこなす「歩兵戦闘車」の次世代車両開発がドイツ、イギリス、アメリカで進められていますが、各国とも足並みを揃えたように捗っていません。それぞれの現状などをまとめました。
2023年1月4日、アメリカはM2「ブラッドレー」歩兵戦闘車を50台、同6日にはドイツが「マルダー」歩兵戦闘車を40台、ウクライナに供与すると明らかにしました。
「歩兵戦闘車」はどこへ行く? 各国で失敗続きの次世代歩兵戦闘…の画像はこちら >>ドイツ陸軍のマルダー歩兵戦闘車(画像:synaxonag、CC BY 2.0〈https://creativecommons.org/licenses/by/2.0〉、via Wikimedia Commons)。
「歩兵戦闘車」とは第2次世界大戦後に登場した装甲車の一種です。第2次世界大戦の戦訓から戦車と歩兵は共同して行動することが有効と分かり、戦車のスピードについて行け、ある程度の防護力と火力を持った「歩兵を運んで戦える装甲車」が発想されたのです。
最初に完成させたのはソ連で、1966(昭和41)年に「BMP-1」を登場させます。歩兵を運べるだけでなく、核や化学兵器が使用された汚染環境下でも車内から射撃でき、対戦車ミサイルや主砲で戦闘にも積極的に参加できます。
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旧ソ製BMP-1。写真は旧東独軍のもの(画像:Bundesarchiv、Bild 183-1988-1007-009/CC-BY-SA 3.0、CC BY-SA 3.0 DE〈https://bit.ly/3DYz6ld〉、via Wikimedia Commons)。

西側では「BMPショック」が起きますが、一方で同時期に同様のコンセプトの装甲車を各国で開発しており、ドイツの歩兵戦闘車「マルダー」が1971(昭和46)年に登場したのを皮切りに次々と実用化されます。このように、歩兵戦闘車の第1世代は1970年代に出そろいました。
その後、各国は21世紀をハイテク戦と予想して、次世代歩兵戦闘車にデジタル機器を満載したハイテク戦闘車として開発を行います。代表的なのがアメリカの「OMFV」、ドイツの「プーマ」、イギリスの「エイジャックス」、ロシアの「T-15」などが挙げられます。しかしいずれも開発は順調とはいえないようです。
2022年12月、ドイツのウルブレヒト国防相は、自国で開発中の次世代歩兵戦闘車に厳しい言葉を投げつけました。
「まさに故障戦車(Pannenpanzer)だ。痛恨の事態で次はない!」
同月から実施されていた、NATOの高高度即応統合任務部隊(VJTF)の演習に参加するドイツ陸軍の「プーマ」歩兵戦闘車18台全車が、次々と故障してしまったのです。その中の1台は、操縦席でケーブルから出火するという重大故障であり、少なくとも2台は射撃システム故障で射撃不能になったことが分かっています。
NATO演習を続行するために、ドイツは第1世代の「マルダー」をまた引っ張り出さざるをえなくなりました。

ドイツの日刊紙「フランクフルター・アルゲマイネ」は2022年12月19日付紙面にて、「ドイツ軍はハイテク高性能車両『プーマ』をNATOの演習に18台そろえることで同盟国やプーチンを驚かせたかったのだろうが全くの裏目になった」と評しました。
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ドイツの次世代歩兵戦闘車「プーマ」。陸自の74式戦車より重い装甲車。(画像:KMW)
ドイツのウェブメディア「soldat & technik(ソルジャー&テクノロジー)」は、「『プーマ』は最も複雑な陸上戦闘システム」と紹介しています。「プーマ」は「マルダー」と交代するために1995(平成7)年から開発が開始され、2015(平成27)年から配備が開始されたものの故障続きで戦力化できず、メディアから「故障戦車(Pannenpanzer)」と叩かれていました。
「プーマ」の武装は遠隔操作無人砲塔で、車体各所に外部視察用の小型カメラ、モジュラー式増加装甲などの機能を満載し、最大重量は74式戦車よりも重い41tになっています。軍の要求仕様を満たしつつ、ドイツの労働安全衛生法や交通法規にも適合させる規制要件も加わって、設計は難航したといいます。
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「プーマ」の高度なハイテク化を示すように砲塔に配置されたセンサー類(画像:(C) Boevaya mashina)。
実は今回のNATO演習での全台故障という事案も重大故障は2台のみで、他の16台の故障は軽微なのですが、そうした故障とは別の問題も指摘されており、事態は深刻です。それというのも、スペアパーツ不足、メンテナンス要員不足、運用者の不適格、経験不足、使用計画の不備、仕様に反する使用などが起因して動かせなくなっているというのです。つまり技術だけでなく運用システムの問題です。こうしたドイツ軍の装備稼働率の低さは、以前から指摘されていました。

イギリスでも、歩兵戦闘車「エイジャックス」をめぐって混乱が続いています。「乗り心地は悪すぎるしうるさすぎる。これでは訓練にもならない」などと、テストした部隊の評価は散々です。実際に聴覚障害を起こした兵士が出て、軍のテストは中断しています。
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イギリスで開発されている次世代歩兵戦闘車「エイジャックス」(画像:GDUK)。
2014(平成26)年9月に6つのバリエーションで589台の「エイジャックス」が35億ポンド(約55億6000万円)で発注されたのですが、2023年1月現在、配備された車両はいまだ0台です。議会でも問題となっているものの、2022年12月に国防省が発表した「防衛装備計画2022-2032」でもいつ就役するかについての現実的なスケジュールは記載されていません。
アメリカでもM2「ブラッドレー」歩兵戦闘車の後継開発が難航しています。
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アメリカ陸軍のM2ブラッドレー歩兵戦闘車(画像:アメリカ陸軍)。
アメリカ陸軍は「OMFV」(任意人員配置戦闘車)という、マルチドメイン作戦に対応できるようネットワーク通信力を強化して、無人戦闘車、降車した歩兵、ドローン、さらには艦艇や航空機に接続する、戦場ネットワークのノードや端末となる野心的なコンセプトの新型車両を企画しました。
陸軍は当初「OMFV」の就役を2035年と予定していましたが、2026年に前倒ししようとします。これに対し3社が応札を表明していたものの、途中辞退や納期遅れによる失格で事実上、入札は破綻します。高すぎる要求と早すぎる納期、限られた予算でプレッシャーが強すぎ、メーカーがモチベーションを失ったのが要因のひとつといわれます。

陸軍は2026年に配備することを諦め、2021年2月7日に「低プレッシャー、低コスト」を掲げて「ゆるい」アプローチを改めて発表しました。これに5社が応募して現在、競作中です。2023年度第2四半期に最大3社が選定されて次のフェーズの契約を締結し、2027年に1社を選定、フルレート生産の決定は2029予算年度が予定されています。
OMFVの完成形は一向にイメージできず、完成しても結局、M2より少し性能が向上しただけの凡庸な装甲車になる可能性も指摘されている現状に、現場の熱量は高くありません。M2を改修してズルズルと使い続ける可能性もあります。
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TOW対戦車ミサイルを発射するM2ブラッドレー歩兵戦闘車(画像:アメリカ陸軍)。
2022年2月24日まで、21世紀の戦争はハイテクを駆使した新しい戦い方が主流になると信じられ、各国はそれに備えて多くの財と労力を投入してきました。しかし、ウクライナの戦闘の様相は、想定されていたものとはちょっと違うようです。無人機や衛星回線を通じたネットワークなどハイテクは使われていますが、20世紀と変わらないレガシーな兵器が威力を発揮しています。
実のところ世界は、21世紀の戦争の様相を買いかぶりすぎていたのかもしれません。実相が分かるには時間がかかりそうです。

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