【『大奥』感想2話】 福士蒼汰が演じる憂いの絶妙

Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。
2023年1月スタートのテレビドラマ『大奥』(NHK)の見どころを連載していきます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
福士蒼汰の声が好きだ。いや、もちろん声だけじゃない。容姿も演技もいい。
でもやっぱり、彼特有の湿度のある濡れた声には聞き惚れる。
そして少しダークな役だとその湿度が活きると思う。
最近では、『DIVER-組対潜入班-』(フジテレビ系)のダークな役には見とれた。
そして個人的に好きなのが、NHK時代劇『明治開化 新十郎探偵帖』での探偵役である。明治維新、洋装と和装が混ざりあう時代の名探偵という斬新な役にリアリティを持たせていた。
だからこそNHKドラマ10『大奥』の配役が発表になったとき、正直彼ではお万の方、つまり万里小路有功としては少し堅いんじゃないかなと思っていた。
原作の有功は、登場時は線の細い、女性と見まごうほどの美形の僧である。
だがその印象は、初回の冨永愛の吉宗同様に、良い方向に裏切られた。
【『大奥』感想1話】 冨永愛の鮮烈さと中島裕翔の純粋さが奏でる極上の協奏曲
NHKドラマ10『大奥』の、よしながふみの原作は、大奥が作られた家光以降徳川幕府の時代を貫徹しつつも、大まかにいくつかのパートがある。
主要人物はパートを超えて時に重なり入れ替わりながらストーリーが進行していく(おそらく原作ファンの多くには、どのパートが一番好きかという語りつくせぬ作品愛があると思う)。

中でも「なぜ男女逆転の大奥になったのか」を描く家光編は、愛と重苦しさと痛みをたたえた長いパートである。
この物語の中では、男子のみが罹る奇病の流行で国内の男子の人口が減り続ける中、三代将軍・家光もその病で死んでしまう。
西日本では奇病が本格的に流行していない今、幕府が揺らぐことが再び戦乱の原因となりうると危惧した春日局(斉藤由貴)と幕閣たちは、将軍の死を秘密裏にしたまま、家光の唯一の落胤である市井の少女(堀田真由)に世継ぎを産ませて繋ごうと画策する。
理不尽な運命に抗い、頑なに出産を拒む少女の心を惹くべく白羽の矢が立ったのは、衆生を救いたいと願い公家から僧となった美しい青年、慶光院の院主・万里小路有功だった。
※写真はイメージ
その院主を演じる福士蒼汰は、柔和な物腰も京ことばも見事にはまっていたが、何より原作の有功らしさを感じさせるのは、他者の人生の痛みや理不尽を思いやる瞬間の何ともいえない憂いである。
原作にないドラマのみの場面として、有功は最初に案内の稲葉正勝(眞島秀和)相手にその名を問う。稲葉正勝は自分には名前などないから、呼びかけのみで呼んでもらえればよいと素っ気なく返す。
そして将軍の身代わりとして生きている少女に対峙した直後、呆然としながらも「あのかたの本当のお名前は」と問い、そこでも少女に名前はない、本来は存在してはならない存在であるから、「上様とのみ呼べばよい」と聞かされる。
上様と呼ばれる少女から、自らの名前をめぐり心身に酷薄な仕打ちを受けた直後ながら、有功は少女の運命と痛みに思いをはせたように悲痛な表情を浮かべるのである。

名前は、個々の尊厳そのものである。
世継ぎを生むためだけに連れてこられた少女も、巻き込まれた有功も、周辺にいる家臣たちも、この閉じられた場で根本的に尊厳を奪われて生きている。
原作にないドラマのみの描写としてもうひとつ印象的なのは、有功が大奥から逃れようと強く願い、その方法を模索する描写である。
※写真はイメージ
部屋子の村瀬(岡山天音)に、子を作れば大奥から出られるかと問い、また秘密裏に京都に手紙を書き自分たちを逃がしてほしいと懇願している(失敗に終わってしまうが)。
その描写で、衣食住が存分に提供されるとしても、ここは有功にとっては牢獄であり収容所のような場所であると強調されている。
そんな未来も尊厳も奪われた牢獄で、最後に遠く、かすかな光がさす。
周囲から強制された武芸の稽古で有功は他人を打つことを拒み、代わりに千回の素振りを願い出、芸の経験のない体で心身の限界まで追い詰めながらもやり遂げて最後は倒れ伏す。
※写真はイメージ
未来と尊厳が奪われた場所であっても、何をもって自分を良しとするかを決められるならば、それはわずかながらも自由だ。そこに到達するためにもがくならば、それは強さだ。
有功はその強さを証明してみせる。
主君、側室たち、家臣たち。誰にとっても絶望のこの場所で、この先どんな物語が起きるのか。
酷薄に見える春日局が、帰ろうとする有功を引き留めるために叫んだ「上様こそ!この世で一番救われぬお方にございます!」という言葉。このセリフもまた、原作にはないドラマのオリジナルである。
血筋を残すために名前と人生を奪われた少女に対する春日局のこのセリフは、彼女の咄嗟の本心であるように思えてならない。そしてこのドラマの作り手にとっても。
哀切あふれる家光編は、これからが本番である。
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[文・構成/grape編集部]
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