ビジネス書に訊け! 第217回 自炊が苦痛……楽しむためのコツは?

悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、自炊に悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「毎日の自炊が苦痛です」(34歳女性/IT関連技術職)

日常的に自炊をされているということは、おそらくひとり暮らしなのでしょう。だとすれば、たしかに楽ではないかもしれませんね。疲れて仕事から帰ってきたら、ゆっくりくつろぎたいと感じるのは当然なのですから。

なのに、きちんと自炊をされている。それはとても立派なことだと思います。コンビニとかスーパーで適当になにかを買ってきて済ませてしまうことだってできるのに、あえて手を抜いてはいないということは、それだけで評価に値すると思います。

だからこそ、つらさのなかで苦しむのではなく、少しでも苦痛を和らげる方法を考えるべきではないでしょうか。

おそらく、そのほうがいろんな意味で楽であり、そして有意義です。

たとえば、自炊を”作業”ではなく”楽しみ”と捉えてみるだけで、多少なりとも気分は変わるはず。いま苦痛だと感じていることを楽しみに置き換えるのは難しいかもしれませんが、とはいえそれも時間が解決してくれること。

“楽しい”という感覚に慣れることができれば、おのずと意識にも変化が訪れるに違いありません。
○必要なのは「知る」こと

無理して毎日作らなくてもいいけれど、できれば作ったほうがいい。経済的だから、健康的だからというだけではなく、料理を作ることで季節を感じたり、素材に触れたり、手を動かしたりしながら、ひとり暮らしの生活に潤いを感じ、リズムを作り、気持ちをリセットすることができるからです。(「はじめに」より)

料理研究家・栄養士・フードディレクターである『自炊のトリセツ おいしいごはんの法則』(小田真規子 著、池田書店)の著者も、このように主張しています。

僕がいいたいのも、まさにこういうこと。炊事を生活の一部として、楽しみ、活用することこそが大切なのではないかと考えるわけです。

ただ、自炊をするためには買いものをしなければなりませんし、素材や道具を洗ったり片づけたり、やることは意外に多くもあります。また、「つくりかたがよくわからない」など不安になったりすることだってあるでしょう。

しかし、まず理解すべきことは肉じゃがやきんぴらの「つくりかた」ではないのだと著者はいいます。

必要なのは、「知る」ことです。自分の味方になる素材、役に立つ調味料、便利な器具など、そしてそれらがなぜ味方になって、役に立って、便利なのかということも……。それがわかれば、料理がぐっと身近になります。そしてロジック、つまりそのなりたちやしくみを「知る」ことも必要です。「焼く」と「炒める」ってどう違うの? 「煮る」ときの火加減はどのくらいなの? という疑問への答えです。(「はじめに」より)

そういったいくつもの「知る」ことが、ひとり暮らしの心強いパートナーになってくれるというのです。だとすればやがて、自炊は楽しいものになってくるかもしれません。そして、そうなったとき、おいしい料理をつくることは、自然と生活のなかに溶け込んでいるはずなのです。

そんな考え方に基づいて食材の扱い方や調理の方法、炊飯器の活用法などを解説した本書は、大切なことを「知る」ために大きく役立ってくれそうです。
○意外に大切な「適当さ」

『丁寧で適当な料理事情』(人間 著、KADOKAWA)の著者は、普段は働きつつ、趣味の料理をつくったり食べたりする様子を、YouTubeやSNSなどに投稿しているという人物。

と聞くといかにも料理が得意そうに思えますが、以前はまったくといっていいほど料理ができなかったのだとか。しかし、ひとり暮らしをはじめてから少しずつ料理をつくるようになり、以後は自分で「おいしい」と思える料理をだんだんとつくれるようになっていったのだそうです。

なお、そんな著者には、料理をつくれるようになって実感したことがあるようです。

いままで上手につくれなかったのは、料理の才能がないわけではなく、単純に知識がなかったからだということ。いいかえれば、知識を身につけ、失敗しながらも経験を積んでいけば、料理は必ず上達するということです。

今その瞬間自分が食べたいものを、誰にも気を使うことなく自由に作って食べられるのが、おうちごはんの醍醐味。「明日は休みだからちょっと凝った料理を作ってみようかな」とか、「今日は疲れたから手抜きでいいや!」など、その日の気分に合った料理を選べるし、料理を作りながら飲みはじめたっていい。自分のペースで作って食べて、飲んで酔っ払ったらそのまま寝られるのって幸せすぎる。(4ページより)

たしかに、そのくらい楽な気持ちでいたほうが、自炊生活はうまくいくのではないでしょうか?

ところで著者は、「おうちご飯を楽しむMyルール」を設定しているのだそうです。ちょっと確認してみましょう。

My rule 1 いつもの料理にひと手間かける

著者の料理の最大のポイントが「一手間かける」こと。といっても、難しいことをしているわけではないようです。たとえば丼ものなら、仕上げに卵黄をのせて刻み海苔を散らせば、それだけで見た目もおいしさも格段にアップする。そのくらいのことで、気分は大きく変わるわけです。

My rule 2 がんばれない日のためにつくりおきを用意する

気力がわかない日は、無理に料理をつくらないのもひとつの手。そして、そんなときに役立つのは「つくりおき」。時間のあるときにつくっておいたそれらを利用すればいいのです。

My rule 3 お気に入りのキッチンアイテムで気分を盛り上げる

使いやすさを考えてキッチンスペースを整理整頓し、お気に入りのキッチンアイテムを揃えておけば、料理をつくる時間はさらに楽しくなるはず。これもまた、意識しておきたいところです。

My rule 4 タレやソースにとことんこだわる

タレやソースがおいしいだけで、料理の満足度はぐっと上がるもの。そのため著者も、使う調味料の種類が増えたとしても、タレやソースでおいしさを追求しているのだそうです。

「適当」であることは、意外に大切なのかもしれません。

○がんばらない「つくりおき」を

さて、手を抜いておいしいものをつくるためには、上記の「My rule 2」にもあったつくりおきが大きな効果を発揮してくれるはず。そこで最後に、『ズボラさんの作り置き』(いち 著、ワニブックス)をご紹介しましょう。

著者は数年前から憧れのひとり暮らしを始めたものの、一口コンロの狭いキッチンしかない部屋にしか住めず、自炊生活もなかなかうまくいかなかったのだそうです。

そんななかで試行錯誤を続けながら辿り着いたのが、”がんばらないつくり置き生活”。

「毎日料理をするのが難しくても、週1ならがんばれるかもしれない」「一口コンロで効率が悪いなら、炊飯器やレンチンを駆使すればいい」「狭さからくるストレスは、ものを減らせば解消できる」という具合に、日常にあふれる”めんどくさい”をひとつずつ解決していった結果、料理のみならず生きることすら楽になったというのです。

そんな著者の「ズボラなつくり置きルール」を確認してみましょう。

1週間のつくり置きは5~6品

本書で紹介されている1週間分のレシピは、無理なくつくれる5~6品。ひとり暮らしで4~5日分くらいの量になるそうです。

ズボラ飯も活用

もちろん基本は、つくり置きのおかずと、ごはんやパンなど主食との組み合わせ。しかし、ときにはズボラ飯をつくることもあるといいます。「ごはんに天かす&めんつゆ」など、最短3分でできるものばかり。そのくらいであれば、気負う必要もありません。

保存について

汁気が多いもの、加熱していないもの、薄味のものなど、傷みやすいものは早めに食べるべき。著者も3日以内を目休み食べ切るようにしているそうです。ただし、使う前の保存容器をアルコール除菌したり、清潔な箸で取り分けるなど、衛生管理も忘れるべきではないでしょう。

いずれにしても自炊のコツは、「うまく手を抜き、楽しく続ける」ことのよう。今回ご紹介した3冊には多くのレシピが掲載されていますから、うまく活用して自炊生活を充実させたいところです。

印南敦史 作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちPHP研究所より文庫化)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書に学んだライフハック――「仕事」「生活」「心」人生の質を高める25の習慣』(サンガ)、『それはきっと必要ない: 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』(誠文堂新光社)、『音楽の記憶 僕をつくったポップ・ミュージックの話』(自由国民社)ほか著書多数。最新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』(3月4日発売、PHP研究所)。 この著者の記事一覧はこちら

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする