映画『アバター』の聖地も便乗、メタバースに群がるにわか専門家

フェイスブックが社名を「メタ(Meta)」に変更し、「メタバース」への関心が急速に高まっている。

実際のところメタバースの定義さえ曖昧だが、中国では「金を産みそうな未来技術」として言葉が一人歩きし、ひともうけを企むインフルエンサーや企業が湧き出て収拾がつかなくなっている。

中国は「メタバース元年」
メタバースはざっくりいうと「人々が集い、現実に近い体験ができる仮想空間」で、目新しい概念ではないが、中国では「メタバース元年」という言葉が春先から流行語になりつつあった。

今年3月には、中国のメッセージアプリ「WeChat」を運営するテンセント(騰訊)が出資し、メタバースの実現に最も近い企業の一社とされる米ゲームプラットフォーム「ロブロックス(Roblox)」が上場。これに続いて、夏にはTikTokを運営するバイトダンス(字節跳動)が中国最大のVR機器メーカー「Pico」を50億元(約900億円)ドルで買収したことが明らかになったからだ。

フェイスブックが10月末に社名を変更すると、それまでも上昇基調だったVR、ゲーム関連企業の株価はストップ高となり、深セン証券取引所が対象企業に質問書を出す事態に至った。

ゲームで醸造した酒をリアルで受け取れるメタバースゲーム
「株価が異常な動きを見せている」として、同取引所から10月以降に2度質問書を受け取ったのが、今年9月に「メタバース要素を取り入れた経営ゲーム」の開発を発表したオンラインゲーム企業の中青宝だ。

同社の発表によると、ゲームのユーザーは100年前の中国にワープし、酒造会社の経営者として原料調達や原料の調合、ボトルのデザイン、販売ルートの構築を行う。ゲーム内で開発した酒は実在する古酒メーカーの店舗で受け取れる点が、バーチャルとリアルが融合したメタバース要素だという。

2003年に創業した同社は、07年に中国共産主義青年団とコラボして愛国歴史ゲーム「抗戦英雄伝」をリリースするなど、歴史ゲームの制作実績は豊富ではあるが、業績自体は低迷気味で20年の純損益は1億5000万元(約27億円)の赤字だった。

また、同社は18年にも当時ブームだった「ブロックチェーン」ビジネス参入を匂わせて株価がストップ高になったもの、結局事業化に至らなかったという“前科”がある。

今回イメージ動画を発表した酒造経営ゲームについても、リリース時期など詳細は未定で、深セン証券取引所の2度の質問書に、徐々にトーンダウンしている。

世界遺産の武陵源に「メタバースセンター」
企業だけでなく行政機関でもメタバースに乗っかる動きが出た。

11月18日、湖南省張家界市の武陵源区ビッグデータセンター内に「メタバースセンター」が開設された。世界遺産「武陵源」を擁する張家界市は「メタバースの研究センターを設立した初の観光地」として、メタバースと観光の融合を推進すると宣言した。しかしメタバースと観光産業の成長がどう関連するのか具体的な計画は示されず、SNSで「何でもかんでもメタバースを絡ませればいいと思っている」とプチ炎上した。

張家界市はコロナ禍によって2年近く観光産業が打撃を受けており、今年夏には旅行者によるクラスターも発生した。観光業支援のため、バーチャ観光などDXに取り組んでおり、メタバースに光明を見出したようだ。

一方で、中国の報道によると当局の責任者は「武陵源はSF映画『アバター』の舞台になった場所であり、バーチャルを利用してリアルな世界を表現する方法を考えるのにふさわしい場所」とこじつけのような説明もしており、メタバースセンター設立が「便乗商法」であることも否定しなかった。

にわか専門家、オンラインサロンが大量出現
メタバースが何か分からないけど「乗り遅れたくない」「金もうけのチャンス」という焦りを利用した情報商材、専門家、悪徳商法も次々に現れている。

フェイスブックが社名変更した10月末には、オンラインの「メタバース入門講座」が登場。世界で最初の「メタバース」書籍シリーズの著者で、多くの大企業のアドバイザーを務める「中国の(米カリスマ投資家)メアリー・ミーカー」なる人物が、「メタバースの始まり」「メタバースの特徴」「メタバース経済学」「メタバース六大技術マップ」「メタバースの投資機会とリスク」を講義する講座は、キャンペーン価格688元(約1万2000円)で販売されている。

「688元でメタバースの10年が分かる」「メタバース時代に資産数十倍、数千倍も夢じゃない」など煽り文句が並ぶ同講座は、10日で2500人が購入したという。

別のオンライン講座「最前線・メタバース6講」は29.9元(約530円)とお手頃価格が受けて既に約5万人が購入、売り上げは約2700万円に上る。こちらは合計1時間の講義を全て履修すると、英フィナンシャル・タイムズ中国版の顧問を務める主催者がサインした卒業証書を授与されるそうだ。

SNSには「メタバース連盟」などといったアカウント、オンラインサロンが大量出現し、無料のオンラインイベントを開催し、有料オフラインのイベントに誘導する組織も問題になっている。

メタバース商法の横行は、大手IT企業にとって大迷惑のようだ。テンセントやアリババ、バイトダンスが相次ぎ「アリババ・メタバース」「QQメタバース」など自社やサービス名と「メタバース」を組合わせた商標を申請しているが、新事業の準備ではなく他者に悪用されないための防衛措置と見られている。

検索ポータル・バイドゥ(百度)の馬傑副総裁は今月開かれた自社のイベントで、「メタバースでひともうけを考える企業は多く、どれが本物か見分けがつかない状態だ。今は期待値だけが上がっており、来年後半か再来年にはバブルがはじけると信じている」と苛立ちを隠さなかった。

(浦上早苗)

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