「日本を代表するコンテンツ」温泉むすめが炎上! 美少女萌えとタバコ規制の微妙な関係

後援企業の担当者はかなり驚いたのではないか。なにせ政府が「日本を代表するコンテンツ」と太鼓判を押していたものが「性差別・性搾取」だと批判されたのだから――。

全国の温泉地を美少女萌えキャラに擬人化して、魅力を発信する「温泉むすめ」という地域活性化プロジェクトがある。2016年にスタートしてから着々とファンを増やし、国内外17カ所の温泉地で、観光大使や温泉大使に就任、神戸市と米沢市ではなんと市公認キャラクターにもなっている。

これらの実績を受けて、19年には観光庁が後援し、さらに20年には、政府観光局の訪日誘客キャンペーン「Your Japan 2020」で、ポケモンやハローキティと並んで「日本を代表するコンテンツ」に選出されている。

そんな「インバウンド復活の起爆剤」としての役割も期待されている「温泉むすめ」が、一部の社会活動家の批判を受け、「キャラ設定の変更」と「サポーター企業名の削除」に追い込まれた。

温泉を擬人化した美少女キャラの多くはセーラー服姿なのだが、プロフィールに「かわいい温泉むすめが大好きでいつもスカートめくりをしちゃういたずらなむすめ」「布団に入ると妄想が爆発して『今日こそは夜這(ば)いがあるかも』とドキドキしてしまい」「諸事情でサラシを巻いて胸のボリュームを隠している」などの表記があることが、「性差別・性搾取」に当たるというのだ。

「はあ? これのどこが問題だ!」という怒りの声がファンから多く上がったものの、「温泉むすめ」はWebサイト上の当該キャラのプロフィールを修正。さらに、なんの説明もなく、「サポーター企業」も削除した。ちなみに、19年9月3日版の「温泉むすめ企画概要書」には、「企業サポーター&主要取引先」として以下のような錚々(そうそう)たる大企業が並んでいる。

「楽天グループ、読売新聞グループ、キヤノン、富士フイルム、近畿日本ツーリスト、大日本印刷、日本ユニシス、日本郵政、ぴあグループ、ANA総研、三井不動産、スポーツ報知」

「延焼」を防ぐため迅速に社名削除
ほとんどの企業が「女性活躍」や「ダイバーシティ」「ジェンダー平等」などを推進している。そのようなご立派な目標を掲げる企業が「性差別・性搾取を応援している」なんて批判されるのはよろしくない。そこで「延焼」を防ぐため迅速に社名削除に動いた、というのは容易に想像できよう。

「そのように企業が弱腰だからフェミニストがつけ上がるのだ!」「政府の言うように日本を代表するコンテンツなのだから、威力業務妨害などで逆に訴えてやるべきでは!」

ネットやSNSでは、萌えファンの皆さんからそんな怒りの声が多く上がっているが、残念ながら現実問題として、企業としてそのようなスタンスを貫くことは難しい。

先ほどのサポーター企業のように、ジェンダー平等やダイバーシティを推進している企業が多いのは、日本が国をあげて「SDGs」(持続可能な開発目標)に取り組んでいるからだ。内閣総理大臣がSDGs推進本部長を務めているので、大企業は従うしかない。このSDGs的な価値観に基づくと、「セーラー服姿の少女に性的エピソードを語らせる」ことは「児童ポルノ」という扱いになってしまう。つまり、SDGs的には今回抗議があった「温泉むすめのキャラ」は完全にアウトなのだ。

実はSDGsの16番目の目標「平和と公正をすべての人に」という中には、「子どもに対する虐待、搾取、人身売買、あらゆる形の暴力や拷問をなくす」と明記されている。「まあ世界にはそういう遅れた国もあるもんな」とほとんどの日本人は他人事のように感じだろうが、実はSDGsを採択した国連からすると、これは「日本」にも向けられたものだ。

日本ではセーラー服姿の少女が、はちきれんばかりの胸や下着が見えそうなミニスカートを履いているようなイラストは「かわいい!」「萌え~」と喜ばれて終わりだが、国連から見れば、立派な「児童を性的対象とした表現物」――つまり、世界に約180万人いると推計される、子どもの性的搾取被害を後押しする「児童ポルノ」であり、「表現の自由」や「文化」として容認されるものではない、というスタンスなのだ。

「美少女萌え」をターゲットにした「外圧」
15年、国連特別報告者が来日して、「子どもの性搾取」に対する日本社会の“容認”状況に苦言を呈し、許容ゼロ姿勢の強化を求めた。さらに19年2月には、国連子どもの権利委員会が、日本政府への勧告を発表した。そこには「対策の実現・実施が強く求められている」こととしてこんなことが挙げられている。

『子ども、または主に子どものように見えるよう描かれた者が明白な性的行為を行っている画像及び描写、または、性目的で子どもの体の性的部位の描写を製造、流通、頒布、提供、販売、アクセス、閲覧及び所持することを犯罪化すること』

『女子高生サービスや子どもエロティカのように、子ども買春及び子どもの性搾取を助長し、 または、これらに繋がる商業活動を禁止すること』

「日本が誇るアニメ文化をポルノ扱いするとはこんな屈辱はない」と血の涙を流している人も多いだろうが、一方でこの国連勧告に従うべきだという人々もいらっしゃる。今年4月、11団体が連盟で、政府や国会に対して、児童買春・児童ポルノ禁止法の抜本的見直しを求める要望書を提出した。その団体の中には今回、「温泉むすめ」の問題を指摘した方が代表を務める団体も入っている。

実は近年、「萌え」を活用したキャンペーンやプロモーションなどが相次いで批判を受けて炎上や撤回に追い込まれているのは、このような背景がある。表面的には、フェミニストの方や社会活動家が片っ端からクレームを入れているので、彼らが活発に活動していることが大きな原因だと感じている人も多いだろうが、なぜ活発になっているのかという根っこをたどっていくと、「国連勧告」につき当たるのだ。

つまり、今の逆風はフェミニストの人たちをSNSやネットでネチネチと攻撃してもどうにもならない。日本の「美少女萌え」をターゲットにした「外圧」が強まっているのだ。

国際社会では通用しない
この構図とまるっきり同じなのが、実は「タバコ」だ。かつて愛煙家の皆さんは、喫茶店や駅のホームで好きなとき、好きなだけプカプカできた。会社でも一服するたびわざわざ喫煙所に行く必要がなかった。

そこで、煙いしクサイし、健康に悪いから遠慮してよ、と声をあげる人たちが現れると、「禁煙ファシズムだ!」と怒り、心の狭い人間だと徹底的に批判をした。「海外では続々と規制されているよ」という話をすると、「ここは日本だ! 嫌なら出ていけ!」とナショナリズムを引っ張り出して逆ギレした。

ナチスドイツが禁煙政策を進めたことと重ねて、個人の自由を制限する危険人物扱いにしたのだ。また、過激な愛煙家の中には、受動喫煙防止を訴える国会議員のもとに「殺人予告」の電話をする人たちもいた。

なぜそんなことをしたのかというと、狭い了見の嫌煙家を批判・攻撃して完膚なきまでに叩きのめせば、「タバコを文化として認める寛容な社会」ができると心から信じていたからだ。が、実はそれはまったく意味がなかった。嫌煙家をネチネチと攻撃をしている間に、WHO(世界保険機構)が「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」などの「外圧」が強まって、日本政府をじわじわと追いつめていたのである。

そして、愛煙家の敗北を決定づけたのが、「東京五輪」だ。

IOC(世界オリンピック委員会)は、WHOと協定を結んで「ノースモーク五輪」を掲げて、五輪を開催させてやる代わりに、その都市と国に禁煙規制を呑(の)ませてきた。愛煙家が多い中国の北京やロシアのソチでも禁煙規制を導入させるという「剛腕ぶり」だった。

日本で五輪をやることは、この軍門に下るということだ。愛煙家やタバコ企業は、「日本には世界に誇る分煙文化がある!」と悪あがきを続けたが結局、タバコ族議員が幅をきかせて長くタバコ規制を妨げてきた自民党さえも屈することとなって、健康増進法が改正。飲食店など屋内原則禁煙という規制となった。これは「禁煙ファシズム」や嫌煙活動家が勝利をしたわけではない。シンプルに、日本政府がWHOの政治圧力に屈しただけである。

「美少女萌え」も同じ道を
この15年余りの「タバコ規制」の道のりを取材してきた筆者からすれば、「美少女萌え」も同じ道をたどるようにしか見えない。今、美少女アニメのファンの皆さんは「海外が口を出すな」「萌えは文化」「美少女キャラを規制されたらアニメはおしまいだ」と猛烈な反発をして、フェミニストや活動家の皆さんをボロカスに叩いている。中には、SNS上でフェミニストの皆さんが身の危険を感じるような「恫喝」をしている人もいる。

が、実はそのようなことをしてもほとんど意味はない。日本国内の規制が厳しくなるか否かを分けるのは、国内の活動家の皆さんの叫び声よりも、「外圧」なのだ。つまり、「美少女萌え」に関して厳しい規制を「勧告」している国連だ。

「だったら、国連から脱退せよ」と戦前の陸軍のようなことを主張する人もいらっしゃるかもしれないが、今の日本は当然そのようなことはできないし、国連の影響は無視できない。

先ほども述べたように、その国連で採択されたSDGsを、日本は政府・企業が一丸となって取り組んでいるからだ。

「SDGsの目標であるジェンダー平等や子どもの性的搾取禁止を進めるけど、“美少女萌え”は文化だから大目に見てよ」という主張は、残念ながら国際社会では通用しないのだ。

どんなに叫んでも
このような構図を踏まえると、筆者はあと10年ほどで「美少女萌え」はタバコ同様の規制の対象となると考えている。大阪では今年3月、「男女共同参画社会の実現をめざす表現ガイドライン」が発表され、以下のようなルールが設けられた。

「女性を描くときは外見(若さや性的側面など)のみを切り離さずに、人格を持った多様な姿で描くようにしましょう」

しかし「大阪が萌え絵を禁止した!」と炎上し、大阪府はこの記述を修正したが、いずれはこのようなガイドラインが設けられるのが当たり前になっていく可能性が高い。

これもそのままタバコと同じで、今から15年くらい前のタバコのガイドラインがまさしく同じ反応だった。「吸う場所を気にしましょう、妊婦や子どもには配慮しましょう」なんて自治体が言おうものなら、飲食店関係者や愛煙家が役所に怒鳴り込んできたものだ。しかし、今はどうなっているか。

「タバコをどこでも吸えないなんて、日本の自由は死んだ!」とこの世の終わりのように大騒ぎをしたが、たかだが10年ぽっちで国際ルールを受け入れた。それと同じで、「萌え絵を禁止なんて、日本のアニメは死んだ!」とどんなに叫んでも、国際ルールを受け入れざるえなくなっていくものなのだ。

タバコと同じ道をたどらない方法
では、萌え絵ファンはもはや児童ポルノ規制に対してなす術なしなのか、というと実はひとつだけ、厳しい規制を回避する策がある。「寛容さ」だ。タバコ規制までの道のりを見てつくづく思うのは、喫煙側が「自分たちは絶対に間違っていない」というスタンスを崩さず、受動喫煙防止などで歩み寄りをしなかったということがある。

タバコでガンになるなどまったくのデタラメで、製薬会社や医療界の陰謀だと罵(ののし)った。「受動喫煙防止」を主張する人たちは、愚かで科学的に物事を見れないと感情論者だとディスった。要するに、全面戦争を仕掛けて見事に負けてしまったのだ。

「美少女萌え」も同じである。ファンの皆さんは「萌え絵」を絶対的に正しい、批判されるようものではないという主張をするが、どう見ても「性的な描写」もある。

また、馬や戦艦を美少女に擬人化するアニメやゲームも、そういう世界観に慣れている人たちは「健全じゃないか」「単なるファンタジーだ」と主張するが、世の中にはまったくピンとこない人もいる。「どういう目で女性を見ているの?」とドン引きする人もいる。理解する女性もいるが、不快に感じる女性も少なくない。

そういう多様な視点を踏まえて、自分たちから規制はできないものか。例えば、胸の大きさや性的な魅力を前面に押し出すような「萌え絵」は、子どもなどの目に触れるような観光キャンペーン、自治体のプロモーションの起用は控えるなどのガイドラインをつくる。どうしても、胸を強調したい、露出を増やしたい、性的なことを言わせたいのなら年齢制限コンテンツなどにする。

このあたりを「温泉むすめ」のように多くのファンに愛されるコンテンツがしっかりと確立して、筋道をつけていくのだ。厳しい規制を避けるには、「自分たちで先にルールをつくる」というのが実は最も有効なのだ。

「われわれは絶対に正しい! フェミニストをどうにかしないと日本はおしまいだ!」と価値観の異なる人々へ憎悪を募らせているだけでは、「美少女萌え」もタバコと同じ轍(てつ)を踏んでしまうのではないか。

(窪田順生)

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