【前編】TOMA×Sansan対談で学ぶ 迫る改正電帳法、残り1カ月で「するべきこと」「できること」とは?

施行まであと1カ月となった改正電子帳簿保存法。そして2023年10月にはインボイス制度の導入も控えているが、まだ対応が進んでいないという現場も少なくないのではないだろうか? 電帳法に関しては電子取引が義務化、インボイスに関しては仕入税額控除にかかわるため、「うちには関係ない」とはいえない状況だが、少ない時間でどのように準備を進めるべきなのか――。

ここからは、ペーパーレス化や電帳法対応といった業務改善コンサルティングを通して企業支援を行っているTOMAコンサルタンツグループ取締役の持木健太氏と、財務経理、経理実務をこなす公認会計士でありながら、クラウド請求書受領サービス「Bill One」の起案者でもあるSansanの柴野亮氏が対談。「対談で学ぶ電帳法とインボイス」第一回として、「改正電帳法の今」について語ってもらった。

販売代理店とベンダーというパートナー関係であり、またセミナーを共催して企業の課題解決に努める同志でもある両社が見聞きしてきたリアルな企業の「対応状況」、残り1カ月で「するべきこと」「できること」とは?

約半分の企業は電帳法対応に追い付いていない?
――改正電帳法の施行まで残り1カ月ですが、各社の対応状況をどう見ていますか?

TOMA 持木:両極端だと感じています。もともと働き方改革の一環でペーパーレス化が進んでいる企業は、当然のように対応済みなんです。受領した請求書はクラウドシステムにのせるフローが既に構築されており、「取引年月日」「取引金額」「取引先名」は当たり前のようにシステムへ入力しているので、電子取引の検索要件も満たしている。ただし、そうでない企業もまだ多い。これは、企業規模には関係ないんですよね。

Sansan 柴野:本当に二極化していると、僕も思います。意外と大企業だからってシステム対応万全なわけでもない。

TOMA 持木:そう、むしろ大企業であるほど、部署ごとで管理体制がバラバラだったりしますから。私自身、コンサル業務の際にヒアリングして業務の棚卸などをお任せいただくのですが、特に請求書の受領形式は本当に部署でさまざまなんです。

Sansan 柴野:当然ながら大企業って社内稟議を回すのに時間かかるじゃないですか。だから「今から新しいシステムを導入します」といっても、ツール選定をどうするのか、全社で対応するのかといったことを考えると、足元を固める時間がすごく長い。これも一種の“大企業病”と言えるかもしれませんね。

TOMA 持木:当社でも、今の時期に相談いただく案件は「1月にはもう間に合わないので、暫定対応でいきましょう」とお伝えしています。相談件数自体は、現在進行形で増えていますから、想像するに約半分の企業は電帳法が対応できていないんじゃないでしょうか。

システム知識が求められるややこしい法律ゆえに――
――そのように対応が遅れる原因は何でしょうか?

TOMA 持木:「原因」とまでは言いませんが、一つの背景として電帳法は税理士の方がまず詳しくないことが多いんです。

TOMA 持木:会計事務所が、「こう対応しなければいけませんよ」と提案、指導し切れていない。どちらかというと、Sansanさん含めベンダーの方が詳しかったりしますよ。なぜなら、システムのことを分かっていないと理解が進まない法律だからです。

Sansan 柴野:うーん、それはありますね(笑)。僕自身、会計監査の仕事をやってましたが、税理士や会計士さんの守備範囲は、税法や会計基準がメインですので、電帳法はこの法律の中でも細かい話なんです。

昔からずっとあるけど、「とりあえず要件が緩和される」という認識はあるものの、具体的なアンサーを提示できないことが多い。それは、持木さんが言うようにシステムに詳しくないからです。

TOMA 持木:当社には税理士が何人も所属していますが、税理士ではないシステム部門の私が電帳法対応のプロジェクトリーダーを担っているのは、そういう事情もあります。

――企業が自ら、キャッチアップして対応していくしかないと

Sansan 柴野:もちろん、システムに詳しい税理士さんが、正しい指導をされているケースもあると思います。でも、僕らが税理士さん向けにセミナーを開催しようか検討するくらいには、周知が行き届いていないのは事実ではないでしょうか。あと「対応が遅れる原因」としてはやはり、「業務フローを変更する」ことが想像以上の障壁になるんじゃないかな。

TOMA 持木:おっしゃる通りです。業務フローを変えるのは本当に大変なことです。それは大手であるほど顕著でしょう。先ほど「部署ごとで管理体制がバラバラ」と言いましたが、そこには細かな事情があるわけです。なぜこの業務フローでやっているのか、なぜ「紙」で請求書を受領しているのか。そうすると、改正電帳法に対応するための理想図を会社全体で描いたとて、それに当てはまらない部分が出てくる。

Sansan 柴野:特に義務化された電子取引において、請求書業務って今ある業務フローなので、“失敗できない”んですよね。失敗した瞬間に、「1カ月支払いできません」とか「下請法に引っかかります」とか。そういったリスクを想定した上で、全部署に適した業務フローを構築し、システムを選定し導入し――これは非常に体力のいることです。

TOMA 持木:特に「紙」で受領した請求書はやっかいです。「スキャナ保存法」にのっとってスキャンすればいいだけですが、それが非常に面倒なんですよ。スキャンという新たな工数を業務フローに組み込まないといけないし、テレワーク中なら、当然「誰がスキャンをするんだ」という話になる。

では、それを避けるため取引先に「請求書はメールでください」と言ったとしても100%は対応してもらえません。もう紙で発行するスキームができている企業も多いですから。

柴野さんが言う「請求書業務は今ある業務フロー」とはまさにその通りで、各社で既にルーチンワークが確立されている分野なんです。“授受”するものですから、自社だけの問題ではない点が悩ましいところです。

正直、電帳法ってどんなイイことあるんですか?
――スキャナ保存は義務化ではないと思うのですが、そんな苦労をしてまで電帳法に全対応するメリットは何でしょうか?

TOMA 持木:帳簿や請求書控えなど、自社で発行する帳簿書類に関しては「紙」保存する必要がないので、ペーパーレス化、業務効率化などあらゆる面でメリットがあります。今回の改正で事前申請も不要になったので、既にシステムで発行しているなら準備することなく対応できます。

スキャナ保存に関しては、確かに義務化ではありません。しかし、請求書などで紙の保存と電子の保存が両方存在することになると、管理の負担が大きい。どのみち電子取引は義務化です。ならばスキャナ保存含めて対応しようという流れですね。実際、全てを電子で一元管理できれば、内部統制上もメリットがありますから。

Sansan 柴野:電帳法に対応することで「今の業務を変えたくない」という企業の声も分かるんですよね。「複数枚の書類がある場合、2枚目を見るなら『紙』の方が早い」なんて意見もあったりして。確かに間違ってはいないんだけど、そこよりもデータ化することで確認回数を減らしたり、検索性を高めたりする方が、長い目で見ればずっと便利なわけで。

入り口は確かに面倒かもしれませんが、電帳法対応にはそこのハードルを越えるだけの価値があるんじゃないでしょうか。

TOMA 持木:中には、「うちはもう『紙』でしか請求書を受け付けないようにしよう」という企業さんもいました。つまり、今までPDFで受け取っていた請求書も「紙」でもらえば、電子取引に対応せずに済むということです。

しかし、先ほど言ったように取引先にも確立されたフローがありますし、請求書は「紙」で統一できても見積書、納品書――ほかにも国税関係書類はたくさんある。受領する際に「紙」と電子データが混在するのは、もはや避けられません。法対応という意味だけではなく、煩雑化を避けて業務効率化を図るという面で電帳法への対応にはメリットがあります。

残り1カ月で何をするべき? 「暫定対応」の中身とは
――「暫定対応」というお話がありましたが、残り1カ月で「するべきこと」「できること」は何でしょうか?

TOMA 持木:今、急務とされるのは義務化された電子取引への対応ですが、これに関してはPDFのファイル名に取引金額、年月日、取引先を入れて、指定のフォルダに保存。または、表計算ソフトを使って一覧表にまとめて、連番をファイル名につけることで検索要件に対応すればいい。訂正削除要件は、事務処理規程を備え付けて対応します。これが暫定対応です。

「22年1月の改正電帳法に間に合わない」と考えている企業であっても、この方法ならとりあえずは対応できます。ただし、「あくまで暫定である」ことを念頭に置いて、並行して業務フローの変更を進めていただきたい。

Sansan 柴野:「時間がないから、やむを得ず暫定対応するだけ」であって、最終保存形態ではないということですよね。

TOMA 持木:そうです。こんなことずっと続けたら、生産性がどんどん下がります。効率化を目指す法律に縛られて、生産性が落ちてしまっては本末転倒です。

Sansan 柴野:ペーパーレスとかテレワークって、実は昔から推奨されていたと思うんです。誰かが週1回出社して、必要書類をスキャンして各担当に配るとか、その上でファイル名に「部長承認済み」などと入れ、フェーズごとにフォルダ管理して運用する――みたいなことを実際に行っていた企業も複数知っていますが、みなさん共通して「現場が崩壊した」と話すんですよね。

電帳法における「暫定対応」もそれと同じで、続けていたら現場が疲弊するだけ。「結局紙のままがよかった」なんて話になってしまう。そもそも、PDFにしてフォルダ管理するだけではデータ活用に結びつきません。

――「暫定対応」の期限は切るべきでしょうか?

TOMA 持木:企業規模によるとしか言えないでしょうね。業務フローの変更に3カ月かかる場合もあれば、1年は必要な場合もある。そこを見極めるためにも、残り1カ月で「できること」はアナログな暫定対応……なんですが、「するべきこと」はまず業務の棚卸、そして電帳法を長い目で見て業務フローの変更を進めていくことでしょう。

Sansan 柴野:そういう意味でも、僕はスタート時に重要なのは「小さく回すこと」だと考えていて。先ほど持木さんがおっしゃっていたように、部署ごとに業務フローがあり、「なぜその業務フローなのか」には事情があるはずです。何かのシステムを新たに入れて一律で回すのは難しい。

TOMA 持木:効率的に進めていくためにも、できるところから着手することは確かに重要ですね。

Sansan 柴野:はい。一気にドンと進めるのでは混乱しますし、教育コストもかかります。「この部署でうまくいったら、じゃあ次はこっちの部署に広げてみよう」といった、検証を兼ねたミニマムスタートは電帳法対応のポイントではないでしょうか。ステップがしっかり見えるので、周りも納得しやすい。

――「暫定対応」含め、電帳法対応はどの部署が先導するべきですか?

TOMA 持木:経理と情報システム部門、両方が協力しないと成立しないのが、この法対応なんですよね。私としては、専門チームを立ち上げることをおすすめします。

Sansan 柴野:そうですね、運用に乗せるまで面倒を見るチームは必要だと思います。僕は業務フローの変更は「整備」と「運用」の大きく2つに分かれると思うんです。整備は「川を流す幅を作る」ことです。こういうステップで、あなたの部署ではこうしてくださいというルール作りをする。そしてそのルールに従って「水を流す」、業務を行う運用へ移る。

しかし、ちゃんと整備しました、ルール決めました、あとは運用してくださいと投げたところで、運用に乗らない。特に暫定対応では、こういった問題が今後出てくるだろうなと思ってます。

――どうすればいいのでしょうか?

Sansan 柴野:こういった問題は、整備後に丸投げすることで、社員間のリレーションが終わってしまうために起こります。電帳法の真実性とか検索性とか言われても、運用側は分かりませんよね。少し面倒でも、「やることを絞ってあげる」のが運用に乗せるポイントです。

そもそも暫定対応の対象となるのは、「電子で受け取った請求書や見積書」です。該当書類を「電子でもらったのか『紙』でもらったのか」を知っているのは、もらった本人だけですよね。印刷して渡されたら、経理には判別できません。

TOMA 持木:そこでまず、棚卸なんですよね。電子なのか紙なのか、「何で受領してるか」を含めて棚卸をして一覧表を作り、それを基にしてどういうフローを構築するか方針を固める。

Sansan 柴野:はい、そこの入り口だけしっかり整えて、あとは「電子でもらった請求書はこのフォルダに入れる」だけの人たち、「フォルダ内にファイルがあるかチェックする」だけの人たち……というようにステップで役割を切ってあげればヌケモレも防げますし、運用にも乗りやすいと思います。正直人手が必要な作業ではありますが、そこは暫定対応なのできちんと整備した上で乗り切っていただきたいですね。

――SansanのBill Oneでは、「紙」の請求書業務に関しても代理で受け取りスキャンをしているということですが、暫定から本対応へ移行するにあたって、こういったBPO対策も検討するべきでしょうか?

TOMA 持木:まさしくそうですね。スキャナ保存については、テレワークを継続する以上「誰が出社してスキャンするのか」といった課題は解消されません。Bill Oneでは、郵送された「紙」の請求書を代理で受け取り、代理でスキャンをし、全請求書をクラウド上で一元管理できます。非常にメリットのあるソリューションだということで、当社でも率先して導入しました。

Sansan 柴野:ありがとうございます(笑)。Bill Oneでは、「Bill Oneセンター」という請求書の代理受領センターを設けています。「紙」の請求書は、取引先からBill Oneセンターに郵送してもらうことで、受領もスキャンも代行します。

持木さんのお話にもあったように、請求書の授受は自社だけの問題ではなく、電子で送ってほしい、「紙」で送ってほしいという現場の都合が通らないことが、一元管理の妨げになります。当社では代理事業まで踏み込んで支援することで、受領企業からすると一元管理が実現でき、発行企業からしても「Bill Oneセンターに送ればいい」だけなので従来の業務を変える負担がない――そんな世界を実現できればと考えています。

TOMA 持木:スキャナ保存に関しては、工数が増えることにハードルの高さを感じて対応を断念する企業も少なくありません。しかし、23年にはインボイス制度も控えているので、そうも言っていられない。暫定対応をしながら、インボイス制度が始まる前までにBill Oneのようなソリューション導入をして、受領発行ともに電子化していく。このようなスキームで、電帳法への本対応準備を進めていただきたいですね。

持木健太氏
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 取締役

TOMA税理士法人 ITコンサル部部長

中小企業診断士

立教大学理学部物理学科卒業。DX推進の総責任者として、テレワーク環境構築・ペーパーレス化・電子帳簿保存法対応・ビジネスモデルの再構築などで活躍中。企業の労働生産性向上や付加価値向上を目指して、中小企業から上場企業まで幅広く対応している。

柴野亮氏
Sansan株式会社

Bill One Unit プロダクトマーケティングマネジャー/公認会計士

前職のPwCあらた有限責任監査法人では、上場企業や外資系の会計監査、内部統制監査に従事。2014年にSansan株式会社へ入社。財務経理として、経理実務、資金調達、上場準備業務に従事。その後、請求書がもたらす会社全体の生産性低下を解決するために、クラウド請求書受領サービス「Bill One」を起案し、現在プロダクトマーケティングマネジャーを務める。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする