デジタル化で生まれた好循環 「アンダーアーマー」ドーム社が目指すオンラインとオフラインの融合

コロナ禍を経験した小売、流通業界に大きな変革が起こっている。新型コロナウイルスの感染拡大により、リアル店舗の集客力が低下したことで、デジタルを活用した販売手法の確立を急激に迫られたのだ。ワクチン接種などにより感染者数がやや一服しつつある今、この時期をどのように過ごしてきたのかによって、業績の差が如実に表れ始めている。デジタル活用の一手を打てた企業は、単なる「コロナ対策」にとどまらず、顧客データに基づいた新しい小売の戦い方を手に入れることになったといえるだろう。

米スポーツアパレルブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店であるドーム社も、新たな戦略を武器に、激変期を戦い抜こうとしている企業の一つだ。そこで今回は、同社のコンシューマーマーケティング部マーケティングアナリティクスチームに所属する間瀬有紀氏にインタビューし、同社のデジタルシフトに関する取り組みについて聞いた。

課題だった「ブランドの希薄化」
日本におけるアンダーアーマーブランドの総代理店として20年以上にわたり、国内販売を手掛けてきたドーム社。アスリートのパフォーマンスを引き上げる“パフォーマンスアパレル”という新しいジャンルを確立し、これまで多くのアスリートを中心に商品を提供してきた。

その一方、急成長を遂げてきたがゆえの課題も抱えていた。さまざまな商品を展開する中で、ブランドが消費者に与える価値観がぼやけてしまっていたのだ。

「これまでは、『広く商品をお届けする』という点に注力し、ライフスタイル商品や靴など、いわゆる普段使いのアイテムを増やす傾向にありました。その中で、アンダーアーマーというブランドが提供する価値が何なのか、という点があいまいになってしまっていたのです。

われわれが提供するのはあくまで『アスリートがパフォーマンスを高めるためのアイテム』です。この点に立ち返り、向上心のある人に向けた、機能性の高いアイテムを提供するブランドだというメッセージを届けられるように販売戦略や顧客コミュニケーションを見直しました」

そこで、ブランドの再定義を図るため、「第二の創業期」と銘打ち、新たなチャレンジを試み始める。その矢先、コロナ禍に見舞われ、全体の5割を占めていたリアル店舗における売り上げを直撃することに。直営店でアイテムの価値やブランドの意義を体験してもらい、その後オンラインで購入してもらう――という流れを想定していたところ、店舗体験の提供が難しくなったのだ。そこで同社が考えたのが、デジタルの特性を生かしたメッセージングだった。

「これまでのリアル店舗を起点としたものから、Webサイトやアプリ上でコミュニケーションをとってブランド体験を提供する方向へと舵を切りました。トレーニング動画やアスリートのオンラインイベントといったコンテンツを増強し、SNSでもキャンペーンを実施することで、お客さまとのコミュニケーション量を増やすことに注力しました」(間瀬氏)

デジタル化したがゆえに生まれた悩みとは
これまでにないデジタルを活用したコミュニケーションを押し進めたが、課題もあった。

同社が展開し、大きな売り上げを生み出していたアウトレットショップやシークレットセールといったオフラインの販路を利用していた顧客に訴求できなかったのだ。

この背景には、同一のブランドでありながら、チャネルごとに違った顧客コミュニケーションを行っており、一本筋の通った施策を打ち出せていなかったこともある。ECを担当する部署、あるいはブランド全体のマーケティングを行っている部署などで、顧客に発するメッセージがばらばらになってしまっていたのだ。

「そこで、ブランド全体、EC、直営店といったそれぞれの部署にあったマーケティングチームを一元化し、オンライン・オフラインにかかわらずチャネルを横断した施策を考える組織をつくりました。

その上で、オフラインで買い物をしたお客さまに対して、アプリ上のバーコードを提示することで割り引くキャンペーンなどを実施し、オフラインからオンラインへの導線もつくるようにしました」(間瀬氏)

組織改編による顧客コミュニケーションだけでなく、チャネルごとにバラバラに保有していた顧客データも統合した。「どのチャネルで利用した人に対しても同じ体験を提供したい、その人にとって最も身近なブランドでありたい」という思いから、ブランドとして一貫性のあるメッセージをベースに、購入履歴に基づいたレコメンドメールを配信し、顧客にとって最適な商品が一覧で並ぶページも用意したという。

デジタルの無理強いはしない 顧客ごとに最適なコミュニケーションを

こうしたデジタル中心の取り組みを進めているものの、オフラインの顧客をオンラインに無理やり連れてくるようなことはしないのが、ドーム社の取り組みの特長だ。

「アスリートの中には着心地や機能性に対するこだわりが強く、実際に目で見て触って決めたいという方もいる」(間瀬氏)からだと説明する。あくまで同社が追求するのは、「どこでも便利に購入できる利便性」ではなく、「良い体験をしてもらいたい」という価値であり、ブランドが発信するストーリーが好きというファンの醸成だからこそ、こうしたポリシーを貫いている。「そのために、データに基づいた最適なコミュニケーションをお客さまごとにとっていきたいと考えています」と間瀬氏は話す。

デジタルシフトにより生まれた「好循環」
顧客データを活用したマーケティング施策を実施するようになって、オフラインスタッフの意識が変わり、売り上げの面でも効果が出始めている。

「これまで感覚値でしかなかった、来店回数などのデータで可視化できるようになりました。販売店などの現場では、これまで肌感覚で接客していたのですが『お客さまのデータがないと的確なコミュニケーションがとれない』という意識が強まっています。アプリ活用法など、現場ならではのアイデアが寄せられるようになり、それを基にアップデートするなど、デジタル活用の好循環が生まれています」(間瀬氏)

定性的なものだけでなく、定量的な成果も目に見える形で現れている。

従来オフライン店舗で行っていた、会員限定のシークレットセールを21年7月にオンライン化。これまで蓄積したデータや会員基盤などを活用することで、メルマガ登録ユーザーが前回比で10%増加、参加者は同じく前回比34%も向上したという。

シークレットセールでは、「デジタルならでは」の売れ方もしている。これまで、オフラインのセールでは、対象となる売り場のアイテムのみ売れるケースが多かったが、顧客データに基づいた的確なレコメンドを実施することで、セール対象外のアイテムも売れるようになったのだ。シークレットセール対象外のアイテム売り上げは前回比で200%増というから驚きだ。もちろん、シークレットセール対象アイテムの売り上げも、前回と比べて増加している。

「オフラインならでは」の価値も提供し、ユーザーごとに最適な体験を
今後も、アスリートがパフォーマンスを出せるブランドとしての認知を広めていきたいという間瀬氏。「アスリートにとって『アンダーアーマーを着たらやる気が出る』『モチベーションが“アガる”』というブランドであり続けたいと思っています。それを実現するためにどのようなコミュニケーションをとるべきか、どのような接点を持てばよいのか。そういった視点を持って、店舗展開やメッセージの届け方を見直していきたいです」と展望を話す。

さらに個人的な所感として、「コロナ禍になってからデジタル施策は確かに増えたものの、より一層、リアル店舗で購入することの価値も高まったのでは」と推察する。

「自分の目の前にいる店員と話をして、その人がすすめてくれた商品はオンラインで買ったものより大事にしますよね。そういったオフラインの経験やイベントも大事にしたいですし、それぞれのお客さまにとって心地よく記憶に残る接客をデジタルでも実現したいですね。

これからも『自分に向けられた言葉』だと思ってもらったり、個々に刺さるメッセージ配信であったり、アスリートのモチベーションが高まるコンテンツを発信しながら、一人ひとりに寄り添っていく、そんなブランドでありたいと思います」(間瀬氏)

今後の課題は、1日遅れで統合している各チャンネルのデータを、リアルタイムで統合することだという。コロナ禍が落ち着くにつれ、「リアルの価値」も再評価されそうな中、ドーム社のようなオンラインとオフラインの融合を目指す企業は、今後も増えていきそうだ。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする