石油価格上昇 インフレによるスタグフレーションの心配はない?

昨今、原油価格の高騰などから、景気後退とインフレ(物価上昇)が同時に起こるスタグフレーションを警戒する声が聞かれる。1970年代のオイルショックの際には、景気後退で給料が上がらないにもかかわらず物価が上昇し、生活者にとって極めて厳しい状況となった。

しかし、日興アセットマネジメントのチーフ・ストラテジスト神山直樹氏は、「スタグフレーションといった、インフレが原因で経済が悪化するというのは、あっても3カ月間。石油ショックのときのようなスタグフレーションが起こることは、理論的にあり得ない」と話す。

原油価格の急上昇
スタグフレーション懸念がささやかれるのは、原油価格の上昇が一因だ。コロナショックでそれまでの1バレル60ドル台から急落し、4月にはテクニカルな問題ながら、WTI原油先物が史上初のマイナス価格を付けるなど、原油動向は不安定だった。

しかし、その後は価格を戻し、10月11日には80ドルを超えて上昇してきた。オイルショックのイメージもあり、また原油はさまざまな産業に必要なものでもあるため、原油価格が上昇すると、そのほかのさまざまな価格に上昇圧力がかかるのではないかという連想が働いた。

「石油が上がったのは天然ガスが足りないこと、景気が回復して、いま石油石炭に依存する国も増えている。しかし、これが1年、2年続くことは考えにくい」(神山氏)

現在の価格上昇は需要に対して供給が足りないからだが、あまりに価格が上がるとOPECも増産に入る。また高価格であれば、採油コストが高いシェールオイルも供給量が増える。「80ドルが高いといっても、このせいでインフレになる可能性は低い。2007年から08年は原油価格が100ドルだったが、この頃インフレになっただろうか? 原油の価格が上がると需要を減らす人がいて、すると消費量が減って影響が小さくなる。オイルショックの頃と違って、調整弁が出てきた」(神山氏)

そもそも米FRBはインフレ率平均2%を長期目標としており、その前後でコントロールされるだろうというのが神山氏の見立てだ。そのため、インフレ懸念とはいわれても、長期金利は1.6%程度と比較的抑えられており、過度に上がる様子はない。

好調な需要
そもそもスタグフレーションは景気後退とインフレが同時に起こることだが、「インフレが原因で景気が悪化するのはおかしい」と神山氏。現在、インフレ率が上がってきているのは需要が強いからだ。資源価格上昇から製品への価格転嫁が遅れ、一時的に経済に影響が出るという供給不足によるショックはあり得るが、3~6カ月間程度だろうと見込む。

そもそもの需要については堅調だ。米国非農業部門雇用はコロナショックからの回復期にあるが、完全回復までのギャップがまだあるのは、景気が回復仕切っていないためではないと見る。コロナでの一時金の支給や失業手当の上乗せにより、急いで仕事に戻らなくてもいいやと思うケース、そしてコロナにかかわる仕事から離れたいと考えるケースがあるためだ。

「ニューヨークでは、ほとんどのレストランで『従業員募集中』と出ている。他人と接触する接客業は嫌がられ、ほかの仕事に行きたがっているようだ」(神山氏)

米国の小売り統計も好調だ。直近では、トレンドラインを大きく超えて伸びており、「もう少し粘ってくれれば、トレンドが追いつく。そうなれば、株価がピークアウトして下がることを想定しなくていい」(神山氏)

米FRBが行ったアンケートでは、コロナ関係で政府が支給した一時金について、3分の1は消費に、3分の1は借金の返済に使ったという。そして、残り3分の1は今後の消費に使える。この残りを、今後消費に使うことが好調な需要を支えると見る。コロナが落ち着いて、旅行や飲食にお金を使うようになっていくと、需要全体は下がらないわけだ。

日本の輸出も最高水準
米国で雇用が戻る、すると賃金が上昇し、小売り(消費)が伸びる。消費が伸びると米国は輸入でそれをまかなう。そして日本の輸出も増加するというのが、いま起こっているサイクルになる。米国の輸入額はコロナ前を超える水準にあり、日本の実質輸出もコロナ前はもちろん、リーマンショック前も超えてきた。過去最高水準だ。

「日本は、長い間デフレ状態にあったが、輸出の世界においては、そろそろ設備投資などをしていかなくてはならない。ここから先、リーマンショックを抜いた水準が続けば、新規の設備投資が必要になる。これはデフレマインドからの脱却が近づいてくることを意味する」(神山氏)

神山氏は需要、特に世界最大の消費地である米国の需要を重視して経済の状況を把握する。その需要が好調である限り、インフレもスタグフレーションも懸念する必要はないという。「需要がすべて。需要からインフレになるのは全く問題ない」(神山氏)

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