ニューノーマル時代の「上司力」 第10回 異動してきた「年上部下」に若手も戦々恐々 どうマネジメントする?

パワハラやセクハラなどハラスメント防止の法整備が進むなか、企業には貴重な人材の採用・定着・育成を進める前提条件として、ハラスメントのない職場づくりが求められる。しかし、多くの上司層は、アンコンシャス・バイアス(固定観念、無意識の偏見)などから、意図せずハラスメント・リスクを犯しがちだ。また、ハラスメントの指摘を恐れ、上司と部下のコミュニケーションが希薄化し、かえってハラスメント・リスクが高まる傾向も懸念されている。

そこで、経営者・管理者には、ニューノーマル時代の「上司力」の一つとして、ハラスメント予防の心得と方法を身につけることが不可欠となる。本シリーズでは、上司が職場で当面しがちな場面事例をもとに、ハラスメント・リスクにいかに適切に対応するか、実践的に検討する。

今回は、異動配属されてきた年上部下をいかにマネジメントするか、上司と部下のやりとりCASEから考えよう。
○CASE「会議やミーティングへの出席は不要」

【上司】「先日お伝えしたとおり、Aさんには今後、競合サービスについて情報収集する仕事をお願いします。方法はお任せしますが、月間スケジュールは事前に提出してください」
【Aさん】「ではまず、どんな情報が必要か、チームメンバーと関係部署の意見も聴きたいのですが……」
【上司】「そんな必要はないですよ。最もベテランなんですから、まずは自分でできる方法を考えてください」
【Aさん】「しかし、いま何が求められているかが分からないと、作業も無駄になるので……」

【上司】「いや、あまり難しく考えないでくださいよ。Aさん一人で完結してもらえれば十分です。皆忙しいので、互いのロスは省きましょう。どうしても困ったら、私に言ってください。それから仕事に集中してもらいたいので、チームミーティングへの出席も不要です。そのほうが、お互いに無用な気遣いなしでいいでしょう。とにかく自分の仕事に集中してください」
【Aさん】「はあ……(窓際で、誰とも話すなということか!)」

○《解説》

上司であるあなたの下に着任したAさんは、50代後半のいわゆる「年上部下」だ。いくつかの部署で経験を積んできたが、人事評価は芳しくなく、管理職登用には至らなかった。

前部署の直属上司の話では、職務意欲もスキルも低く任せられる仕事がない上に、何かと同僚に相談を持ち掛けることでチームの生産性向上にブレーキをかけがちで、手に余っていたとのこと。噂を聞いた他の部下たちも戦々恐々だ。

上司のあなたは何とか丸く収めようと、新たな仕事を指示したが……。
○ハラスメント・リスク

一定規模以上の企業には、Aさんのような非管理職や、役職定年後のシニア社員がいることだろう。上司にとっては、いわゆる年上部下で、上層部からは「対応は任せるから定年まで何とか穏便に」と頼まれるばかり。そこで、チームへのマイナスの影響だけは避けようと、CASEのような対応をとった。

しかし、注意すべきは、本人から「人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)」のハラスメントを指摘されるリスクである。上司は、「互いに気を遣わないため」と説明したが、本人が孤立感を深め、不条理な対応だと不満を主張した場合、トラブルになる可能性がある。

○上司のアンコンシャス・バイアス(固定観念、無意識の偏見)

こうしたケースで、上司が部下に対し抱きがちなのは、「能力や人物に何か問題があるから、管理職登用されずに来たのだろう」「チームへの貢献は期待できそうにない」「そもそも年上部下は扱いづらい」といったイメージだ。

また、こういう人は組織への貢献意欲も低く、無理に仕事を頼んでトラブルを起こされても面倒。そこで、無難に、ほどほどに過ごしてもらうのがお互いのため、と考えがちだ。しかし、こうした見方は、固定観念や無意識の偏見ではないかと一度疑って見る必要がある。
○(1)仕事で顧客や組織に貢献したい

年上部下の中には、マイナスの評価を受け続け自己肯定感が減退し、「悪いのは全て自分のせい」と極端に自責の念が強い人もいる。反対に、責任ある立場の経験がないことからも、「うまくいかないのは皆上司や同僚のせい」と、他責思考が目立つ人もいるのだ。

しかし、その態度の裏返しで、できればよい仕事をして認められ、感謝をされたい、働きがいを持ちたいとの思いがあるもの。どこかで奮起し、一歩を踏み出したいけれど、上司や同僚から見放された状態が続くなかでは、挑戦するきっかけがつかめないのだ。
○(2)第二のキャリアの見通しを持ちたい

人生100年時代が叫ばれ、70代まで現役延長が現実味を帯びてきた。50代の年上部下は自分が70~80歳まで働くには、今後20年間ほどの「第二のキャリア」を描く必要がある。現在の職場での再雇用か、転職か、あるいは独立か、進路選択も迫られるだろう。

何とか自分を活かせる場所を見出したい。しかし、どの道をどう選べばよいか、自分一人で見通しをつけるのは容易ではない。将来への不安や焦りは周囲との溝をさらに深め、今の仕事に専念することも妨げている場合がある。
○(1)自分事として受け止め、相手に寄り添う

実は、上司にとって、年上部下の直面している困難や不安は決して他人事ではない。自分もいずれ役職から外れ同じ立場となり、定年後は新たな道を探す必要がある。その時に、自分がお荷物として扱われ、周囲から関心も期待も持たれなければ意欲を失い、心を閉ざしてしまうだろう。

そこで、一度仕事上の立場を介したメガネを外し、人生の先輩として親身に受け止め、その気持ちに想像力を働かせてみよう。相手の人生に寄り添う姿勢で接すれば、心を開いてくれるものだ。
○(2)一緒に持ち味や強みを探す

そして、本人のこれまでの様々な経験のなかから、一緒に持ち味や強みを探してみよう。誰しも、必ず得意とする領域や手応えを感じた経験があるはずだ。会社での仕事だけではなく、趣味や社会活動での経験でもよい。

やりがいを感じ、ワクワクして打ち込めて、成果を実感できたものなど、広く見渡してみよう。また、その活かし方も、職場での活用だけでなく、第二のキャリアへの準備やライフワークにつなげて考えるなど、広く長い視野で見つめてみるとよい。
○(1)傾聴と対話で、自己開示し合える関係をつくる

相手に人として寄り添うには、上司の側からコミュニケーションのやり方を変えることがスタートラインだ。一度、落ち着いた面談の場を設け、傾聴の姿勢で相手の経験や思いをじっくりと聴き、受け止めてみよう。

また、上司の側からは、自分の仕事上の試行錯誤や悩みも語り、プライベートな話題もできる範囲で自己開示を心がけよう。立場を超えた人間同士の関係は、安心と信頼の基礎になる。まず、この関係を築き、心を開き合うことが第一歩だ。
○(2)キャリア自律を目標に、長い目での支援を行う

面談での対話とその後の打ち合わせで、年上部下の持ち味や強みを発掘できたなら、これを本人の今後のキャリア自律のために磨く視点で仕事の目標を立てよう。CASEの例なら、本人が担う競合サービス調査の仕事を、顧客や組織への貢献と同時に、本人の第二のキャリアにどう生かすか、本人の自己啓発要素も組み込み、計画し、支援するのだ。

同じ仕事であっても、意味を感じられない孤独な取り組みか、応援してくれる上司のもとでの自分の将来のためのステップか、本人の納得感しだいで、意欲も成果も大きく変わってくることだろう。

(株)FeelWorks代表取締役 : 前川孝雄 まえかわたかお (株)FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師/情報経営イノベーション専門職大学客員教授 。 人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団(株)FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ、バワハラ予防講座」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員等も兼職。連載や講演活動も多数。著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)等30冊以上。最新刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月) この著者の記事一覧はこちら

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